第1話 罪の男(シナーマン)/05
【Flashback】
このインター・ヴァーチュアにはコード・フレームワークを使った大規模な競技大会が存在する。
CFを使ったレースというのは単純にスピードを競うもんじゃない。
武器の使用の有無はあっても、攻撃や妨害は当たり前――。
聞いた話じゃ、大開拓時代に、とあるブッカーがモーターレースの要素にほんの一割だけ、ローラーゲームの要素を混ぜたルールを考案したのが最初って話だ。
現在は大きく分けていわゆるプロライダーと呼ばれるライセンス持ちだけが参加するものと、誰でも参加可能なオープンバトルと呼ばれるものがある。
前者は各企業が協賛し、スポンサーとして運営する――。
レギュレーションガチガチのいわゆるスポーツだ。
後者はいわゆる賭場が仕切る、スポットの模擬戦の延長線上にある――。
レギュレーションゆるゆるのレース……。
と言えば、聞こえはいいが、所詮はルール無用の荒っぽい潰し合いのショーだ。
形式や期間、開催される場所によって様々。
有名所で言えば、最小の直方体空間、ル・マン024と呼ばれるエリアで開催される、ル・マン・ザ・ヘル・イン・ア・セル。
あとは垂直直方体のキューボイド、ネレイリ047のラリー・ザ・ダウンフォール。
そして、このシージン・マーチ――。
キューボイド01ではそれなりに有名なイベントだ。
――で、だ。
なんで俺が、こんな説明をしてるかというと――。
その場に留まる事態が起きているからだ。
レースはもう、とっくに始まっている。
しかも俺は、かなり善戦している。
周回数も悪くないし、撃墜数も上々だ。
正直に言えば、そこらの名前だけデカいライダーより、よっぽど派手で、よっぽど走ってる。
――それでも。
俺は今、周回を止めている。
ヘロンは西燼の砂漠のど真ん中で、完全に足を止めていた。
エンジンは生きている。
出力も、武装も、どこにも異常はない。
それでも動かないのは、理由がある。
正面。
砂嵐を背負って、二機のCFが待ち構えていた。
どちらも、風の噂に聞いたことのある機体だ。
――だが。
同じカラーズじゃない。
それが、俺には何より気に食わなかった。
ひときわ前に出ているのは、軽量で鋭角的なシルエットの一機。
オレンジを基調にした装甲。
獣のようなラインを走らせたフレーム。
両腕には、小銃と一体化したブレードエッジ付きのトンファー。
スーパーデュークのカスタム機。
――レイザーズ・エッジの頭。
“バット・ガイ”・レイザー・ホール。
バウンティーランキングのトップランカー。
賞金首をどれだけ狩ってきたか、正確な数は誰も知らない。
裏じゃ闇討ち上等の刺客稼業も兼業しているらしい。
むしろ、仕留めた獲物は表より裏の方が多いとか――。
その背後。
一歩も動かず、砂地に根を張るように立っているのが、もう一機。
黒鉄色の重装甲。
肩口と背部に開いた四つのミサイルポート。
地面に突き立てられた、錨のような大型の槍。
デカい槍持ちのフォーティーエイト。
――ビッグ・ディーゼル・クールの壊し屋。
ボンバー・ナッシュ。
ビッグ・ディーゼル・クールというギルドは、完全にギャングだ。
現実の世界から続く、由緒正しいアウトロー・モーターサイクルギャングの直系。
ナッシュは抗争では必ず姿を現し、無言で、淡々と相手を壊していく―― そんな噂の男。
違うギルド。
違うカラーズ。
それが、並んで俺の前に立ってやがる。
連盟所属――。
つまり「連盟」という看板の下で、色の違う連中が手を組んでいる。
胸糞が悪い。
反吐が出る。
目の前の二機からの通信に、俺はチャンネルを開いた。
ディスプレイに、二つのウィンドウが浮かぶ。
『ヘーイ、ヨー。 アンちゃん』
黒髪をベッタリとオールバックにし、爪楊枝をくわえた男がニタニタと笑っている。
こいつが、レイザー・ホールか。
隣のウィンドウには、無言のままの大男。
ざんばらのブロンドにサングラス。
ボンバー・ナッシュだ。
『いやぁ、やりすぎちまったなぁ。 ホントによ』
ホールは笑ったまま続ける。
だが、目は笑っていない。
目を見りゃわかる。
噂通りだ。
こいつらは俺と同類―― 汚れ仕事専門の始末屋だ。
――だからこそ、なおさら気に食わねぇ。
『世の中にはよぉ、怒らせちゃいけねぇ人ってのがいるんだ。 アンちゃんはよ、そこを派手に踏み抜いちまったな』
隣で、ナッシュが無言のままニィと笑う。
『アンちゃんよぉ。 大人を怒らせたらイケねぇよ―― そうしたら、もう終わりだぁ』
トンファーが軽く回る。
刃が陽光を弾き、砂嵐の中で一瞬、光った。
『それによぉ…… スモーキーガンズのガン兄弟―― バートとビリーなぁ……』
ホールは爪楊枝を、ぷっと吐き捨てる。
『やったの、アンちゃんだろ?』
――ああ。
なるほどな。
『いけねぇよ、いけねぇなぁ…… 奴らはオジサンたちのダチでな』
その瞬間。
ナッシュの槍が、低く唸った。
ミサイルポートが、一段階だけ開く。
脅しじゃない。
準備完了。
お前を潰すという合図だ。
『アンちゃんは仇ってわけよ―― そういうことでな、ここで消えてもらうぜ』
最初から、わかってた話だ。
こいつらにとって、周回なんてどうでもいい。
順位も、賞金も、関係ない。
連盟の面子のために抹殺する……。
ただ、それだけのために、ここにいる。
「……くだらねぇ」
俺が連盟を気に入らねぇ理由が、今、目の前で形になっていやがる。
『アンちゃんよぉ。 今、なんつった?』
「くだらねぇって言ったんだよ」
俺は、ヘロンのスーパースレッジを構えた。
「看板背負ってるくせに、他所の色と馴れ合ってんじゃねぇよ」
二つの槌のコード・ベースが唸りをあげ、干渉光が発生する。
「アナーキー・トレインを忘れられねぇ、オッサンどもの同好会風情がイキってんじゃねぇぞ」
砂を蹴る。
「オラぁ―― さっさと来んかい!」
この挑発が、ゴングだ。




