第11話 春のからっ風/02 異物
【Flashback】
ところが最近、その場所に異物が増えた。
異物その1―― 九能悠。
こいつが混じったのが、今から現実の時間で一年前。
ある日突然、リーダーが妙に、ご執心しだした。
ダッサイ飛び方。
ダッサイCF。
正直、よくわからないヤツ。
あの時は、ライノがリーダーにウザ絡みされたおかげでうちはバックれたのに、気づいたらこいつと一緒に飛ぶハメになっていた。
スーパーマン飛びってだけでも恥ずかしいのに。
まったく、勘弁してほしい。
しつこいけど、うちの大事なのはコスパ、タイパ、ウェルパだ。
なのに悠は、うちのささやかな平穏と真逆のことしかしない。
乗ってるCFは無駄だらけ。
要領の悪さは、生物としてヤバいレベル。
極めつけに、天性のドM野郎。
ツッコミを入れたいのにリーダーに黙ってろと口止めされて、それっきり。
しかも腹立たしいことに――。
多分、うちは悠に勝てない。
あの山を撃ち抜いて、ぶっ壊した時から、ずっとそんな気がしている。
初心者丸出しの乗り方なのに、勝てるイメージが湧かない。
……うちの勘、当たるんだよね。
それに、リーダーはどうして悠をあんなに特別扱いするんだろう。
だから、イジって憂さ晴らしをしてるってのが本音だ。
そして異物その2―― 贋作ちゃん。
こっちは、さらに意味不明。
テキヤの女将さんの依頼で、ブラックマーケットの鄭のおっちゃんのところから救出した。
……したと思ったら、なぜかアルマナック入り。
悠のγが救出中にブロックを爆発させたせいで、リーダーが、この贋作ちゃんに修理させると言い出した。
あの機体自体が足枷みたいなもんなのに。
それに、よりにもよって、あの贋作ちゃんだ。
映像で見た時から少し気にはなっていたけど、実物を見て、確信に変わった。
表情だけは人っぽい。
でも、あの緑色の瞳はどこかぼんやり光っているみたい――。
髪も妙に透明で、ガラスみたいで――。
まるで、子供の頃に持ってた人形みたいな作り物くささ。
それを一番強く感じたのは、悠とライノと三人でリーダーに絡まれたあの日だ。
面倒を押し付けられたママ・アジエが、贋作ちゃんをジクサーに連れてきたのを見た。
助けられた時の泣きっ面はどこへやら。
ツンケンしたような自信満々の顔で、あの大穴の空いたγを見上げていた。
……まったく。
うちのギルド、どうなってんだろう?
修理するより買い替えた方が早いのだ――。
ポンコツにかけるコストに何の意味がある?
リーダーが悠を殴って乗り換えろと言えば解決なのに、時間をかけることになんの意味がある?
それを得体の知れない、偽物みたいな女に修理をやらせるとか気持ち悪いにもほどがある。
コード・ライダーってのは、そういうもんだろ。
使えなくなったら乗り換える。壊れたら捨てる。
それが普通で、それ以上でも以下でもない。
少なくとも、うちが知ってる本物はそうだった。
昔、ネットの向こうで噂になっていた連中――。
戦場をひとつ丸ごと更地にしたっていう、蹂躙天帝。
月の夜に現れては、荒くれどもを叩きのめし跪かせたという、コトブキテンゴクの女コード・ライダー、過激女王。
そして、単騎で地域一帯を暴力と恐怖で支配していた極悪なギルドを潰し、七日間続くあの地獄のバトルロイヤル大会――。
第2回ル・マン・ザ・ヘル・イン・ア・セルで事実上、二日目で優勝を決めたという不敗伝説の男、デットマン。
ああいう連中は、機体に情なんてかけない。
勝つために最適なものを選び、ダメなら切り捨てる。
それが強さで、それが現実だった。
なのに――。
「まっ、本業と違ってむしろ宅配の方が安定収入だしね。 うちは別にこれでもいいし」
アルマナックを作ったのはリーダーとママ・アジエだ。
この二人が決めたことにうちが口を挟んでも仕方ないし。
どっちにしろ、ケリがつくまではしばらくこのままなのだろう。
そんなことを考えているうちにHODO正面の港湾ゲートのちょっとした順番待ちの後、うちとホークは、ジクサーへと帰還した。
ホークは特徴的な『BABOO!』という並列2気筒のコード・ヘッドの駆動音を響かせ左舷側のスライドハッチからハンガーへと着艦した。
機体を定位置に置きコード・ユニットを停止させると自動的にスライドハッチは閉じていく。
ホークの駆動音が消えハンガーが静まり返るのを感じて、うちは顔にかかった髪の毛を払うと、コクピットから外へ出た。
タラップへと足を進めたその瞬間だ――。
CFハンガーに不意打ちのように鳴り響いた爆音に、うちの体が思わずビクッと反応した。
「――ちょ、ちょっと…… まじか?」
蜂の羽音のような甲高い駆動音。
バリリン、バリリンという2行程処理型特有の起動音が規則的に続く。
何がこの音を出してるかなんて見ないでもわかる、γだ。
しかも、明らかに音に張りがある。
うぐぐぐぐ……。
見たくない、ホントに見たくない。
でもだ――。
うちは、ホークの左越しに、覗きこんだ。
あー、これは。
どうやらうちの緩い毎日は終わりのようだ。
青と白の見慣れたカラーリングの機体に火が入り、力強く鼓動していた。
フェイスカウルの下のアイボールカメラに、生気すら感じる。
そのγの首元に、あの贋作ちゃんが腰をかけていた。
あのガラス管のような長い髪を結いあげ、作業用のレザーのオーバーオールを着た贋作ちゃんは、あの明るい緑色の瞳を閉じて、そっと手をγのフェイスカウルの頬に当てていた。
うちはその姿に、イラッとした。
あれは知ってる。
音を聞いているんだ。
アジエが仕上げの様子を確認しているのにそっくりだ。
かといって、二週間ちょっとの間でアジエが手ほどきしたとも考えづらい。
しかもアジエですら嫌がるγの火が入っている。
どうやらうちは、この偽物みたいな女に、悠に通じる何かを感じてイラッとしたらしい。
【Present Day】
ケイトは悠とチセを見ながら、もどかしさと、かつて見た光景のときと同じイラつきを感じていた。
その感情が何か、ケイトはよくわかっている…… 嫉妬だ。
「――わ、悪かった…… また勝手にイジって―― ごめんなさい……」
結局、悠がまた先に折れるワンパターンだ。
それになんだこの謝り方は、まるで小学生かよと、これまたケイトは唾を吐き出したい気持ちをぐっと堪えてギリッと唇を噛んだ。
「……わたしも―― 言いすぎた…… ご、ごめん……」
謝られたチセの方も、チセで、あの鮮やかな緑の瞳を不自然に悠から逸らして少し頬を膨らませて、モゴモゴと謝り返す。
ウブなお子ちゃまたちの甘酸っぱい光景だけならまだしも、そのすぐ近くで様子を見ているアジエとライノの満足そうな顔――。
(ねえ、そこまで監視して育てる気? 保護者かよ……ったく)
ケイトは柳眉を逆立てその風景を見ていた。
(こいつらは確かに、お似合いだよ)
得体の知れない、おかしな二人。
悠がイカれた扱いをして壊して、チセが直す。
この繰り返しだ。
ほんと最初の一発目は面白かった―― と、ケイトは思い出す。




