↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電界駆動ブレード- compression  作者: 不治痛
序章 Digital Surrender - 降る世界と委ねる者たち
PR
39/44

第8話 彼と彼女ー男の事情/02 ブルーシートの下

    【Present Day】


 柳橋にブリッジへ呼び出されたあれがきっかけだったのだろう。


 どうしてそうなったのか……。

 その後、ライノが再び、悠を見た時にはもう手がつけられないような乗り方をするようになっていた。


 γを見上げていたライノはふと、その時、自分にそれを見せつけてくれた機体を思い出した。

 ライノの知る限り、悠がγ以外で乗ったのはそいつだけだ。


 ふと、ハンガーの隅っこに目をやった。

 CFの部品や廃棄処分待ちのゴミに紛れてブルーシートに覆われたそれを見つけた。

 小型作業用CF(エイプ)だ。


 近づいてみるとブルーシートは存外に綺麗なことに気がついた。

 長いこと放置されているであろうゴミと見比べれば一目瞭然だった。

 これは頻繁にシートが動かされている証拠だ。


 ライノはシートをめくってみた。


「ふーん。 女はダメでもCF(こっち)にはマメなこって……」


 こいつは、リーダーとママ・アジエがジクサーを手に入れたときに、オマケとしてこの船(ライナー)にくっついてきたものだという。


 実際、それは装備とは名ばかりで、ライノとエリミネーターが加入した頃には、すでにハンガーの隅で眠っていた。


 とはいえ、ママ・アジエが三ヶ月に一度は様子を見ていたのは確かで、その律儀さだけは印象に残っている。


 一度、なんで使いもしないエイプの面倒なんて見るんだと聞いたことがある。

 アルマナックに入って、数ヶ月が過ぎてからのことだ。


「この船のメカとして、ぶっ壊れてもいないのに、不精して火が入らないなんてもんがあったら、プライドに関わるのよ」


 ママ・アジエはそう言っていた。

 その言葉と、エイプを整備する姿を見て、ライノは「あー、この人は信用できらぁ」と確信した。


 それまで、一匹狼でやってきたライノは怖くてリーダーに逆らうことが出来ず、エリミネーターを見ず知らずのメカに任せていたが、その日を境にギルドとはプロとプロが一つに集う場所なんだと考えを改めたのだ。


 自分はコード・ライダー。


 メカニックとは、お互いの仕事に干渉しすぎないのが円滑にやっていくコツだ。


 基本的な整備は自分でする。だが、セッティングに手を出すときは必ず相談―― それがライノの流儀。


 美学なんて立派なもんじゃない。ただの処世術だ、と本人は思っている。


 ウィリアム・ライノ・高田は女癖が悪く、HODOで浮名を流し、腕っぷしが強くて、凄腕のエリミネーター使い――。


 はたから見れば破天荒に見えるが、実際のところは、ただ世間体を気にする小心者の反動の姿だと思っている。


 そんな自分と比べ、九能悠という人間は、なんとも自由な男だと思う。


 でも、ご本人様はそのことにはこれっぽっちも気づいていないのだからたちが悪い。


 危なっかしくて、何をやらかすかもわからない。

 おかげで見ていて飽きない。


 出会ってから今日まで、悠と続いてきた理由だ。


 そういう意味ではお互い友達と言えるのはそんな、腐れ縁の相手だけとは――。

 結局は似た者同士なのかと心の中で自嘲する。


 そのエイプをママ・アジエが整備している姿を最近、見ていない。

 最低限のメンテナンスを誰かがやっているということだ。


 誰が……?

 悠に決まっている。


 エイプは全高にして四メートルの小型機だ。


 頭部はない、代わりに胸の部分からエアスクリーン(風防)が張り出し、パイロットシートが剥き出しで備え付けられている。


 二足歩行型だが、この機体はガニ股で、腕が太く長い。


 どちらかと言えば、現実の作業用マニピュレータを彷彿とさせる造りで、人間というよりはその姿はゴリラっぽい。


 類人猿(エイプ)とはよく言ったものだとライノはその形を見て思った。


 スタイリッシュとは言い難いが、実際のところよく出来た機体だ。


 小型ゆえに飛行を維持できるだけの出力を持たないが、荷重制御も、ブレインテック(BT)・インターフェイス(I)による思考制御も全く同じ。


 ただ小さい、剥き出しで操縦する―― そんなCFだ。

 それは現実世界に、かつて存在したオートバイという乗り物を、より強く連想させる。


 γが壊れていたあの一ヶ月のうち二週間ほど、悠はリーダーの言い付けでこのエイプを使っていた。


 ライノはブルーシートを戻して、悠を探しに行くことにした。


 (きっとまたメンドクセー感じになってんだろな)


 まあ、あの単細胞の朴念仁が行く場所ぐらいは見当がつく。

 アイツがイジけてるとすれば、いつものあそこだ。


 ジャケットのポケットに手をツッコミ、ヒョコヒョコとライノは甲板に出る階段に向かって歩き出した。

 おそらく悠が拗ねてるであろう甲板へと続く階段をゆっくりと登っていく。


 ライノは、あの日もこうやってブリッジに向かって階段を登った。

 そして、次に思い出すのはブリッジの主である柳橋(リーダー)の顔だ。


 闘神の殲滅明王(せんめつみょうおう)、鬼の柳橋。


 ライノはかつて、そう呼ばれていたリーダーを知っている。


(……とは言っても、遠くかひっそりと見てただけですけどねぇ)


 今でもリーダーは怖い。


 とはいっても、アルマナックのリーダー、柳橋(やなぎばし)亮平(りょうへい)はあの時、ライノが遠目に見ていた殲滅明王(せんめつみょうおう)の姿からは遠く思える。


 そうは言っても、何がどう違うのかはライノも上手く言葉にはできない。

 強いて言えば、殲滅明王(せんめつみょうおう)は闘神と呼ばれる集団の中にいて常に孤独に見えた。


 でも、悠にケイト、そして自分に無理難題を言ってくるリーダーはかつての暴力性はそのままに、楽しそうな顔をするんだよなと思った。


 あの時もリーダーはライノたちをからかって楽しんでいた。


 悠がγ以外に乗ることになったのはリーダーに呼び出されたブリッジでのあの時もそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。