第4話 チセ―Land of Oblivion/04 境界の外側
ターミナルの外へ出るとすぐに圧倒的な光と騒音に包まれた。
巨大なホログラム広告が空中に浮かび、整然とした人工のネオンが都市を照らしている。
広い歩道を行き交う人々は皆、端末に視線を落としながら無駄のない動きをしていた。
(ここが…… メサイア・パシフィックゲート……)
サンタクララの端末から検索して得た情報の通りだった。
その煌びやかな都市はどこかエクス=ルクスを思い出させた。
だが、実際に足を踏み入れてみるとわたしの想像とは異なっていた。
行く先々で目立たぬよう足を止め人々の行動を観察する。
端末を操作しての、何かのデータの交換、施設への入退室。
食事ができる施設もあるし居住エリアもある。
一見、自由に見える。
それに快適な環境。
だが、何かが違った。
違和感がある。
誰もが何かに従って動いている。
どこへ行くにも特定の手続きが必要なようだ。
ルールのようなものがあり、それに沿って生きている。
(この場所には、決まりがある……?)
その決まりが何なのかわたしにはわからない。
だが、それを持たないわたしはここでは異物なようだ。
試しにわたしは近くにあったターミナルの上に手をかざし何ができるかを確認した。
結果は何もできなかった。
扉の向こうへ進もうとすると認証が求められる。
移動のための施設の利用も同じだ。
何をするにも身分というものを求められる。
(ここでは、誰かだけでなく、何かに属していないと生きていけない……?)
たぶんやろうと思えば改竄は可能だが、サンタクララの時と同じで無理にいじれば足跡が残る。
気付かれれば不正として追跡される可能性が高い。
違和感はそれだけではない。
サンタクララでは、乗組員たちは役割を持っていた。
でも彼らは、わたしに食事をくれたし話しかけてくれた。
だが、この都市では誰もわたしに関心を示さない。
ただ、すれ違うだけの存在。
(ここでは、個として生きることはできないのか……?)
わたしは、サンタクララの乗組員のように所属する場所を持たなければならないのか?
だが、それが何なのか、どのようにすればそこに入れるのかわからなかった。
人々はわたしを気にも留めずただ流れていく。
わたしはその流れに乗ることができなかった。
でもその流れを見て、仮に何かに属することができて流れていく人間の中の一部になるということを考えるとなぜか胸の中がザワついた。
どうやらわたしはこのテリトリーという場所を拒否しているようだ。
ここにわたしの居場所は作れない――。
(……このままでは、食料が尽きる)
マキシムが持たせてくれた食べ物はもう残り少ない。
人間にとっては擬似的な満足らしいが、わたしにとっては生存のための食事だった。
それが尽きれば、わたしはこの世界で生きる手段を持たないことになる。
この世界に適応するには、まず生存の方法を知る必要がある。生き延びてくれ、もっと観察するんだというあのマキシムの言葉が頭をよぎる。
わたしは、もう一度メモリ内のメサイア・パシフィックゲートのデータを確認した。
どこかに境界が―― 管理されていない場所があるはずだ。
そこでは何かを交換し、食料を得ることができるかもしれない。
見つけた。
都市の端に古い物流倉庫の区域があった。
そして、その先には記録されていない空間が広がっていた。
わたしはテリトリーの外縁部へ向かい、監視の薄いエリアを抜けた。
(ここは……)
わたしは、そこに足を踏み入れた。
そこは、テリトリーの都市とはまるで違っていた。
ところどころ崩れかけた建物。
壁に貼られた無数のステッカーやマーキング。
街灯が途切れ、ネオンの光がちらつく薄暗い路地。
何もかもがランダムで、煩雑で、カオスだ。
そして、人々の様子も違っていた。
取引―― 道端で何かを交換する者たち。
監視の目―― 遠巻きにこちらを窺う者たち。
生存のための交渉―― 騒がしく何かを叫び取引をしている者たち。
(ここでは、所属がなくても生きていける……?)
だが同時に、またも違和感を覚えた。
サンタクララの乗組員たちとは明らかに異なる雰囲気。
彼らは社会の中での役割を持ち、それを果たしていた。
だが、ここでは――。
(ただ、生きるために奪い合っている……?)
テリトリーにいた人間たちが身につけている服は画一的だった。
同じような色、同じようなデザイン。
一方で、この場所を行き交う住人の服装はネオンのようにバラバラだった。
ある者はカラフルな服をまとい、ある者は揃いのマークが入った背中を見せている。
個々が異なるスタイルを持ち、同時にどこか群れのような雰囲気もあった。
(個として生きる者と、群れを作る者……?)
この世界のルールを理解しなければならない。
管理されていないこの場所ならわたしは異物とは思われない。
なら、ここで人間がどのように食料を得てどのように生活しているのか。
それを観察し適応することがわたしの次の課題だった。
わたしは、それから何日も人の流れを観察してすごした。




