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電界駆動ブレード- compression  作者: 不治痛
序章 Digital Surrender - 降る世界と委ねる者たち
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第4話 チセ―Land of Oblivion/02 新しいわたし

    【Present Day】


 そんな暗い記憶をしまうようにわたしは、メンテナンスハッチを閉じる。

 ようやく、γのメンテが終わった。


(疲れた)


 いつものことだが、悠のγに比べれば後に控えたライノのエリミネーターやケイトのホークのメンテナンスなど楽なものだ。


 二人は悠のようにわざわざ自(・)分(・)に(・)向(・)い(・)て(・)い(・)な(・)い(・)機体を選んではいない。


 こだわりがあって自分のCFを選んでいるが、できるだけリスクは避け、機体の特性に合わせた使い方をする。


 道具の使い方としてこちらの方が正しい。

 そのおかげで消耗品の交換と微調整程度で終わる。

 自分も、機体もすり減らすようなことをする悠とは正反対だ。


 人間は変だ。

 なぜ、こんなにも個体差があるのだろう。

 CFもそうだ、なんでこんなに種類があるんだ。

 人間も人間が使うモノも、姿や形も、なんでこんなに差があるのだろうか。


 でも…… 服も同じなのか……。


 今では、わたしも同じブランドの異なるデザインをいくつも持つようになった。しかもそれを楽しんでいる。


 故郷にいた頃にはそんな非合理性は考えられなかった。


 アジエが言うにはそれはわたしの見つけたフ(・)ェ(・)イ(・)バ(・)リ(・)ッ(・)ト(・)だからなんだそうだ。


 ふと、持っていたデバイスのディスプレイに映る自分の顔を見た。


 そうだ。この姿もわたしが選んだものだ。

 これも、わたしのフェイバリットなのだろうか。


 今となっては、嫌う理由もなく、わたしは自分の姿を受け入れている。

 それはフェイバリットというより、ただの慣れのような気もする。


 かつてのわたしとはまったく違うこの容姿は、生き残るための選択だった……。


    【Flashback】


 白く、薄く発光するわたしたちの姿。


 わたしは狭い貨物スペースの隅で膝を抱えて息を殺していた。

 銀色の箱の表面にぼんやりとわたしの顔が映っていた。


 瓦礫から這い出たわたしは、コンテナに忍び込み、崩壊した故郷から脱出した。


 この光る姿のために何度か危うい場面があったが、なんとか貨物スペースの奥に身を潜めることができたのだ。


 コンテナが動き出すまでわたしはそばにあったシートを被り、光が漏れないようにじっとしていた。

 やがて、微かな振動と浮遊感が伝わりわたしはわずかに安堵した。


 しばらくしてコンテナは再び微かな振動とともに静止した。

 わたしは息を潜めながら静寂を待ち、辺りの気配が消えたことを確認してからシートを外した。


 そして、目立つ自分の姿を見つめていた。

 次に何をすべきか思案を巡らせる。


(情報が足りない……)


 それまでただ脱出することだけを考えていたが、今さら自分が故郷を滅ぼした存在の真っ只中にいるということに気づいた。


 コンテナに近付く間、あのダボダボした姿のモノたちは何かを身にまとっていることだけはわかった。


 でも、黒い巨人に見つからないようコンテナへと潜り込むのが精一杯で、それ以上のことはわからない。


 担当者はあんなモノがこの世界に存在することを、わたしに伝えることはなかった。

 担当者も、仲間たちもあのモノたちの存在を認識していなかったのかもしれない。


 とにかく情報が欲しい。おそるおそる貨物スペースからコンテナの内部に通じているであろう扉を開けた。

 重い扉を押し開けると小さい窓から鈍い光が入って、薄暗い場所に出た。

 そこには椅子らしきものと、どうやらインターフェイスらしきものがあった。


 はじめて見るがこれもデータの塊だ。

 複雑なようだが非効率的だ。

 押すもの、触るもの、摘むものがある。


 繋がりを見る限りたぶんそれはデータを操作する入力のためのものだ。

 なぜこんなものがいるんだろう。


 データを直接触ればいいのに。

 でもインターフェイスがあるのなら操作できるはずだ。

 うまくいけばあのモノたちのデータを見ることができるかもしれない。


 わたしは、インターフェイスの上にそっと手を置いた。インターフェイスに淡く光が灯った。


 同時にわたしの意識はこのインターフェイスを通じて、データを検索する。

 いくつかのシステムのうち安全そうな経路を選び潜っていく。


 この乗り物の情報を見つけた。


 ……オーシャン……ライナー。

 エクサバイト級……巡洋艦サンタクララ。

 メサイア社所有……ゼロ・ホライズン船籍。


 あの黒い巨人……。

 OSR―1100 ハマー……。

 CF……搭載三十六機……。


 先に進んでいくと、何かが見える。

 作戦コード:オペレーション『OVER』……。


 だめだ…… この領域にこれ以上の侵入は危険だ。

 うかつに入れば足跡が残って覗いてることがバレてしまう。


 少し戻り、わたしはこのモノたちの情報をさらに検索することにした。

 わたしの故郷を踏みにじったこの存在はナニモノなのか――。


 あった。ライブラリ…… 公共データの集積地。

 ここなら、いくら覗いても足跡を残しても誰も気にしない。


 この存在の名称は…… ホモ・サピエンス…… 人間?

 有機体? 有機体とはなんだ……。

 組織を持ったもの、この世界の外から来た……?

 人間という有機体は、外部から侵入してきた存在……?

 次々と検索を実行し、この生物の本質を解析していく。


 わたしは驚いた。

 ひとつの種族でありながらあまりにも多様すぎる……。


 なんなのだ、この人種というものは…… 人間というカテゴリは単一の種族ではなく無数に分類が存在している。


 使う言語は音声出力…… これも統一されていない……。

 統一された分類もなく、約七千もの異なる言語体系が存在している。


 まるで無駄の塊だ。

 複雑なのに原始的だ。直感的ではなさすぎる。


 この世界を人間はインター・ヴァーチュアと呼ぶ……。

 ビリー・オズニアック…… ブラックアウト事件…… イントラ…… テリトリー…… コミュニティ……。

 これを、人間は歴史と呼ぶ。


 夢中になって情報を貪った。


 そのうちわたしはこの人間という存在にひどく興味を持っていた。

 ……わたしの故郷を、仲間を消した存在。


 無駄で構成された、自身をデータに変換してまでわたしたちの世界に入り込みその活動範囲を広げていく貪欲な存在。


 今や溢れてしまっている。

 人間はインター・ヴァーチュアに溢れている。


 仲間はもういない、同胞は存在しない。

 この世界には人間が蔓延っている。


 わたしの姿は異質だ。

 人間は自分たちと異なる存在を嫌うらしい…… だからエクス=ルクスは襲われたのか?


 わからない……。

 公共のデータにわたしたちの存在を示すものはなかった。

 理論としては提唱されているが、人間はわたしたちが実在していることを知らない。


 離散量生命体、Discretized Quantum Lifeforms、DQL……。

 それが人間の理論で提唱されたわたしたち種族の名前だ。


 わたしのなかで警告が鳴った。

 このままでは危険だ。


 エクス=ルクスは襲われた。

 人間たちの一部がわたしたちの実在を知っている。

 わたしたちを探している。


 この世界で今の姿のままではわたしは目立ちすぎる。

 すぐにDQLだと知られてしまう。

 ……人間の中にまぎれこまないと、それに音声出力へ対応しなければ――。


 適合が必要だ…… わたしは自らの存在を人間の尺度で確認する。


 わたしは離散量生命体、DQL。

 DQLにも、生命体としての性別がある。

 人間の基準では、わたしは女性に分類される。


 DQLは単一の存在であり、人種という概念を持たない。

 女性に限定して、人間のパターン検索を実施する。

 音声出力を行うには…… 声帯という器官も必要だ。


 DQLはデータで構成されている。

 この世界での人間のデータ構成パターンを確認。

 人種を選定して人間の構成データでわたしを上書きしなければ……。


 ランダムに抽出した人種データを基にロシア系の特徴とアジア系の要素を組み合わせる。

 わたしの発生からの期間を確認し、人間の時間尺度に換算…… 十五歳。

 年齢に比例してイメージを補正。


 一瞬、ほんのわずかに躊躇した――。


 ライブラリで確認したインター・ヴァーチュアのシステム特性からすると、上書きは一度きり。

 そして、上書きすれば二度と元の姿には戻れない。


 このままコンテナに潜み続けるのは不可能だ。


 意を決してわたしはデータを出力した。

 体を包んでいた白い淡い光が消え、わたしの構造が静かに再構成されていく。


 痛みはない、辛くもない。

 わずか数秒で、出力は完了した。


「……ぁぁぁうぁ……」


 喉の奥から音が漏れる…… 声帯を使えるようになるには訓練が必要そうだ。


 インターフェイスのコンソールの光がわたしを照らし、窓に映ったのは――。

 初めて見る、新(・)し(・)い(・)わ(・)た(・)し(・)だった。


 なぜかわたしの目からは透明な液体がとめどなく溢れ出し、流れていた……。

 ――これは、何?

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