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5話 災厄討伐第一任務作戦会議

目を覚ました私の目に映ったのは、いつもの白い漆喰の天井ではなく、三年ぶりの白い壁紙の天井。

そして豪華なシャンデリアではなく、丸いシーリングライトだった。


自身の体に目線をやると目に入るのは、聳え立つ二つの双丘。

そして黒い髪。


まさか日本に戻った?


しかし、そんな私の考えは一瞬にして消え去ることとなった。


「おはようございます、杏奈さん。

 いえ、ソフィさん、と言った方が良いでしょうか?」


長い銀髪の少女が、そう言って私をからかう。


「リーゼロッテさん、これはどういうことですか?

 私に接触するのは、私が五歳になってからのはずでは?」

「未来が変わったんです。」

「未来が変わった?」

「はい。

 詳しいことは後でゆっくり話しましょう。

 まずは、顔を洗って来てはどうですか?

 あ、朝食は用意されてますよ。」

「え????」


もうどこからつっこめば良いか分からない。

私は一旦考えることを止め、取り敢えず顔を洗って、朝食を食べに行くことにした。


部屋を出て階段を降り、洗面所に入り、洗面台の前に立つ。

三年前まで、毎朝のようにしていた行為なのに、今は凄い違和感がある。

心がソフィアリスとして染まりつつあるのだろう。


ヘアバンドを付け、どこから持って来ているのか分からない冷たい水道水で顔を洗う。


「そういえば、私ってこんな顔だったのか……。」


三年間ソフィアリスとして生きた私は、今のこの杏奈の顔を忘れ始めていた。

鏡に映る私の顔は確かに私の物なのに、どういうわけか他人の顔のように感じる。


「三年間、別の体で生きれば、元の体に違和感を覚えても仕方ないか……。」


顔を洗い終わると、私はリビングへと向かった。

日本にいた頃は、この後、自分で朝食を作っていたが、ここでは既に用意されていた。


テーブルの上に置かれていたのは、焼いた食パンと苺ジャムとスクランブルエッグ、そしてレモンスカッシュ。

私が毎日のように作っていた適当な朝ご飯だった。

スクランブルエッグの見た目は私が普段作っていたものと瓜二つ。

食パンも、いつも私がしていたのと同じくらいの焼き加減。


まるで、もう一人の私が料理を用意した、みたいな……。


あ、あれ……?

もう一人の、私……?

それって、ド、ドッペル……、ゲンガー……。

ドッペルゲンガーと言えば……、


・・・『心霊』。


「キュウ……。」


私は泡を吹いてぶっ倒れた。


ーーー

ーーーーー

ーーーーーーー

ーーーーーーーーー


目が覚めると、目の前に天井があった。

天井が近過ぎる。

それに何だか丸っこい。


次第に目が冴えて来て、そして気が付く。

自分が膝枕されていることに。


だとしたら、目の前の天井は何だ?


・・・胸?


確かリーゼロッテは、ここまで大きくなかったはずだ。

なら、今、私を膝枕しているのは、一体誰だ?


「あ、あの……?」


私が声を出すと大きな双丘の向こう側から、声が聞こえた。


「あ、起きた?」


声の主はそう言うと、私の頭を優しく持ち上げ、何やら柔らかい地面へと下ろした。

そこで私はソファの上で膝枕されていたことに気づいた。

持ち上げられた際、顔が若干彼女の胸の中に沈んだことは秘密だ。


「いやー、びっくりしたー。

 特訓が終わって、水飲もうと思ってリビングに来たらさあ、人が気絶してんだもん。

 泥棒かと思って、危うく剣の錆にするところだったよね。」


私は体を起こし、物騒なことを言いながら腰にぶら下げた剣を撫でる少女に目を向ける。


ショートカットの青い髪に、それと同じ色の目。

背は高く、顔つきもキリッとしている。

凄く大人っぽい見た目だ。

しかし一番目を引くのは、なんと言っても『胸』である。

ちょっと、いや、かなりありえない大きさである。

ほんと、どうなってんの?

流石は異世界である。


ところで・・・、


「あ、あの、誰ですか?」

「あ!

 そういえば、君と会うのは今回が初めてだったね。

 アタシはレフィーリア。

 ボクスデンでは『英雄王』なんて呼ばれてたりしたんだけど……、千年後でも、そう呼ばれてたりする?

 ソフィアリスちゃん?」

「え?」


レフィーリア・ヴィクトリアナ。

千年前、災厄を追い払い、ヴィクトリア王国を建国し、剣技を生み出したボクスデンの偉人。

そして私の、ボクスデンでのご先祖様に当たる人物。


「いやー、にしても君も大変だよねー。

 リーゼに聞いたよ。

 アタシの生まれ変わりだなんて言われてんでしょ?

 全く凄い発想力だよね。

 ルイス・ストレアだっけ?

 あの人、只者じゃないと思うよ?

 アタシの時代にも欲しかったなー、ああいう人。」


んー、凄い喋る。

何だ、この人。

取り敢えず、私のことは全てリーゼロッテから聞いていることは理解した。

私は自己紹介をしなくても良さそうだ。


しかし気になるのは……、


「どうして知ってるんですか?

 ルイスさんのこと。

 それに、何で生きてるんですか?

 千年前の人間ですよね?

 あれ?

 そういえば、二千年前の大賢者が何で生きてるの?」

「あれ?

 リーゼの権能、聞いてないの?」

「権能?」

「あー、なるほど。

 全て理解した。

 リーゼ、何にも説明してないんだ。」


レフィーリアはそう言ってソファから立ち上がると、テーブルの方を指差した。


「取り敢えず、朝ご飯食べちゃいなよ。

 その間にアタシが色々教えてあげる。」


ーーー

ーーーーー

ーーーーーーー

ーーーーーーーー


「まず何から話そうかなー。」


私は食パンを頬張りながら、真正面の席に座るレフィーリアを眺める。

どうやら、かなり多くの話さなければならないことがあるようだ。

何から説明を始めるか、かれこれ五分以上悩んでいる。

このままでは朝ご飯食べ終わっちゃうな~と思っていたら、やっとレフィーリアの口が開いた。


「ソフィちゃんはさ、この空間ってどうやって創られてると思う?」

「リーゼロッテの魔法じゃないんですか?」

「んー、ちょっと違うかな。」


どういうことだろうか。

私は首を傾げる。


「少し思い出してほしいんだけどさ、魔法って属性があるのは知ってるよね?

 風とか土とか。」

「はい。」

「じゃあさ、リーゼロッテがこの空間を作り出す際に使った魔法って、何属性だと思う?」

「そ、それは……。」


ボクスデンの魔法には属性が存在する。

火、水、氷、土、風、雷、草。

主にこの七つで構成されており、そこにレフィーリアが広めた剣技を合わせることで、ボクスデンでは『人には八つの道がある』とされている。

これは『八道(やどう)』と呼ばれ、人々の精神に深く根付いている。


例外として、『鑑定』のようなどの属性にも属さない「無属性魔法」というものも存在するが、それらは魔法を極めた者にしか扱えない魔法であるため、八道には含まれていない。


よく考えてみると、リーゼロッテの『空間を創り出す』という力は、八道のどれにも当てはまらない。

リーゼロッテは大賢者と呼ばれるほどの存在だし、つまりは無属性魔法だろうか。


「実は魔法は二種類あるんだ。

 一つは魔法の女神アナスタシアと其に仕えた十二神獣たちが使った魔法。

 もう一つは、リーゼロッテがアナスタシアと十二神獣たちが使っていた魔法を一般人でも使えるまでに簡易化して生み出した魔法。

 歴史って二千年も経つと色々とごちゃつくものだからさ、ソフィちゃんの時代の人々は勘違いしてるかもしれないんだけど、ソフィちゃんの時代の人々が思う魔法ってさ、アナスタシアが広めたものじゃなくて、リーゼロッテが広めたものなんだ。」

「そ、そうなんですか……。

 ということは、アナスタシアと十二神獣が使う魔法が『権能』ということですね?」

「そういうこと。」


要するに私たちが使っている魔法は、『紛い物』というわけだ。


「権能は魔法を遥かに上回る力を有してる。

 それこそ、世界そのものに干渉するレベルのとんでもない力を。

 まあ神話上の神様たちが使う力だから、当然っちゃ当然なんだけどね。」

「でも、リーゼロッテさんは権能を使えるんですよね?」

「うん。」

「一体どうやって手にしたんですか?」

「さあ?

 アタシもよく知らない。

 ただ、本当にとんでもない権能だよ。」

「どういう権能なんですか?」

「『時空』だよ。」

「時空?」

「そ。

 その名の通り、『時間と空間を操る力』だよ。」


リーゼロッテは私の体の時間を止め、今私たちがいるこの空間を創り出した。

確かに時間と空間を操っている。


「アタシたちがボクスデンで魔法を使えるのはリーゼのおかげなんだよ。

 元々、ボクスデンに魔力なんて存在しなかったからね。

 リーゼロッテがボクスデンっていう『空間』を過去の歴史ごと作り替えて、世界中の人々に魔力を作る器官を創ったんだ。

 凄いよね。

 人類の進化の過程から変えちゃったんだよ?

 本当に神の領域だよね。」


私は言葉を失う。


人類を進化の過程から作り替えた?

それは、人が手にしていい力なのか?


「ちなみに、アタシたちがこうやって話せるのもリーゼのおかげだよ。

 アタシの体の時間はリーゼによって、十六歳で止められてるから。」

「え?

 てことは死んでないんですか?」

「うん、死んでないよ。

 まあ、色々事情があって、ボクスデンにはいけないんだけどね。」

「えぇ……。」


千年前のご先祖様がご存命。

これが、異世界。


「実はアタシも君と同じで元日本人なんだ。

 日本に戻るためにボクスデンの救世主になろうと思ったけど結局駄目で、千年くらいボクスデンに閉じ込められてる。

 だから君が災厄を倒せば、アタシも日本に帰れると思うんだけど……、ただ、もう千年もこの体で生きてるからなぁ……。

 元の体に戻った時、違和感が凄いだろうなぁ……。」


レフィーリアはそう言いながら、リビングの入り口の扉の方に目を向ける。


「って感じで、ちゃんと説明しないと。

 なんのための神様役か分かんないよ、リーゼ。」


私も振り向いて、そちらに目を向ける。

すると、そこにはリーゼロッテが立っていた。


「杏奈さんの帰りが遅いので気になって来てみたら……。

 レフィ、今日は随分と早い帰りなのですね。

 いつもは昼頃まで特訓しているというのに。」

「昨日のリーゼの動きから、今日ソフィちゃんがここに来ると察したんだ。

 だから、一応会っとこうと思ってね。

 リーゼは昔っから、何かと説明が足りないから、ソフィちゃんきっと困ってんじゃないかなーって思ってさ。

 そしたら、案の定ほとんど何も聞かされてないままにボクスデンに送り出されてた。

 やっぱりアタシが神様役担った方が良いんじゃない?」

「説明にはタイミングがあるのです。

 それに一度に大量に説明されても混乱するだけでしょう?」

「タイミングが大事ってのは、アタシも分かってる。

 でも千年前、タイミングを見計らい過ぎて重要な説明をアタシにするのを忘れて、結果的に十二神獣が七柱も死んじゃう大失敗をアタシに犯させたのは、どこの誰だっけ?」

「あれは戦っていれば分かることだったでしょう?

 何も考えずに戦っているから、ああなるのです。

 私に責任を押し付けるのはお門違いというものですよ。」

「へぇ、そっかぁ……。

 お門違いかぁ……。

 実に無責任。

 真の他責人間。

 ・・・一回、アタシの剣の錆になっとく?」

「私に喧嘩を売る気ですか?

 全く懲りませんね。

 もう一度、卵子と精子の状態で一か月間過ごしたいのですか?」


ヤバい。

この二人、バッチバチなんだけど。


私は止めなければならないという使命感に駆られた。


「あ、あの!」


私は大きな声を出し、言い争う二人の間に割って入る。

二人はキョトンとした表情で、私を見る。


「喧嘩はその辺にして下さい。

 争いの種にするために私をここに呼び出したわけではないですよね?」


私の言葉に二人は気まずそうな顔をする。


「そうですね。

 ごめんなさい。」

「命拾いしたね、リーゼ。」

「果たして命拾いしたのはどちらでしょうね。」


リーゼロッテはそう言うと、私の隣に座って、タブレット端末を取り出した。

この空間に誘われたあの日、全く読めなかった文字は、今でははっきりと読める。


「私が今日、杏奈さんをここにお呼びしたのは、『ソフィアリス・ヴィクトリアナ』の体にとある力を与えようと思い、それに関する説明と、その他に災厄との戦いに備えてやってもらいたいことを説明するためです。」


リーゼロッテはそう言うと、タブレット端末の画面を指差した。

画面には『星矢杏奈』風の少女のイラストと『ソフィアリス・ヴィクトリアナ』風の幼女のイラストが描かれており、その頭上に杏奈からソフィアリスに向けての矢印が、足元にソフィアリスから杏奈に向けて矢印が描かれている。


そして、それらのイラスト下に題名とも取れる文字が書かれていた。


「『変身』?

 何ですか、これ?」

「このイラストの通り、ボクスデンで『星矢杏奈』の体に変身できる力です。

 あなたは異世界人ですから、災厄を倒したら、日本へと帰還することになります。

 しかし、あまりに長く別の体で生きていると、魂の形がそちらの体の形に定着してしまい、元の体に戻った時に大きな違和感が発生します。

 目が覚めてすぐ、感じませんでしたか?

 自分の体なのに、自分の体じゃないような感覚を。」


洗面台で自分の姿を見た時の感覚を思い出す。

確かに感じた。

冷や汗が出始めた。


「千年前と同じであれば、杏奈さんの転生から災厄の襲来までおよそ十五年の空白が生まれるはずです。

 その間、杏奈さんは『ソフィアリス・ヴィクトリアナ』の体で生きることになります。

 それほど長く別の体で生きていると、日本に戻った時に日常生活に支障を来たす可能性があります。

 それを回避するための措置です。

 一か月の内の一日は『星矢杏奈』の体で過ごしてほしいのですが、今の状況ですと難しそうですから、今は出来る時にやってくれれば結構です。」

「分かりました。」


私が返事をすると、リーゼロッテはタブレット端末の画面を次のスライドに移した。


そこには、様々な衣装を身に纏う星矢杏奈のイラストがあった。

制服、メイド、体操服、水着、ジャージ、そして今の私が着用しているパジャマまで、ありとあらゆる衣装を着せられている。


「な、何ですか?

 これ……。」

「『ソフィアリス・ヴィクトリアナ』と『星矢杏奈』は、体格が違うでしょう?

 なので変身する際、着ている服も変えなければ大変なことになってしまいます。

 それを考慮して、『星矢杏奈』に変身する時、好きな格好になれるようにしておきました。

 ちなみに変身時に着られる服は随時増やしていく予定です。

 着たい服があったら教えてください。

 準備しますので。」

「は、はい……。」


レフィーリアの「リーゼロッテが魔法を作った」という説明、どうやら事実のようだ。

実際、こうして魔法を作っているのだから。

それも私限定の。


大賢者の二つ名は伊達じゃないようだ。


リーゼロッテはタブレット端末の画面を次のスライドに移す。

そこには大量の文字の羅列あった。

どうやら『変身』の使い方が書いてあるようだ。

私は説明文を読み始めた。


『魔法は想像したものを自身の魔力を用いて具現化させたものです。

 「変身」も例に漏れず、その仕組みの中にあります。

 「星矢杏奈」の姿と着たい服を想像し、体内の魔力を消費することで変身することが出来ます。

 「星矢杏奈」の体から「ソフィアリス・ヴィクトリア」の体に戻りたい時は、「ソフィアリス・ヴィクトリアナ」の姿を想像し、「戻りたい」と念じれば戻ることが出来ます。

 その際に魔力は消費しません。

 「星矢杏奈」に変身中に魔力切れを起こした場合、強制的に「ソフィアリス・ヴィクトリアナ」に戻ります。

 ご注意ください。』


なるほど。

『変身』の使い方と仕組みについては理解した。

しかし、問題がある。


「私、魔力を消費出来ないんですけど……。」

「そこは安心してください。

 『変身』使用時に行われる魔力消費は、『体の状態を常に一定に保つ』という特性より優先されるように設定したので、問題なく変身できますよ。」

「そうですか……。」


なら安心か……。

いや、ちょっと待って!


「それが出来るなら、魔法使えるようにしてくださいよ!

 私、結構不便な生活してるんですよ!

 魔法を使えないことを隠しながら生活するの、結構大変なんですからね!」

「そ、それは……、同情はしますが、ちょっと難しい相談ですね。」

「どうしてですか?」


私が少し強い口調で質問すると、リーゼロッテは困ったような顔をした。


「物事には知るべき順序というものがあります。

 今はまだそれを説明できる段階にないのです。

 分かってください。」

「そんな答えじゃ納得できません!」


私がそう言うと、レフィーリアがいたずらっぽい笑みを浮かべて言った。


「ほんとリーゼってさ、人を納得させるの下手くそだよね。

 ソフィちゃん、全然納得してないじゃん。」

「う、うるさい!」

「だって、ほんとのことじゃん。

 こういう時はさ、包み隠さずに事実を言っちゃえばいいんだよ。

 ねえ、ソフィちゃん。

 理由、知りたい?」

「え?」


教えてくれるならそれは勿論知りたいけど……。


「やめなさい!

 レフィ!」


リーゼロッテが凄い剣幕でレフィーリアの口を止めようとしている。


「なぜアタシたちが魔法を使えない体にされたのか。

 それはねえーーー」

「レフィーリア!」


「ーーー災厄からアタシたちを守るためだよ。」


真剣な眼差しで、レフィーリアはそう言った。

災厄から私たちを守るため?


「どういうことですか?」

「悪いけど、魔法を使えない体にすることが、一体なぜ災厄から身を守ることに繋がるのか。

 それについては、まだ言えないかな。」


レフィーリアはそう言うと、手に持っていたグラスをいじり始める。


「ねえ、ソフィちゃん。

 千年経った今でも、魔法が使えない者は差別されてる?」

「え?」


突然どうしたのだろう。

疑問が湧いたが、取り敢えずレフィーリアの質問の答えを考える。


私の知る限りでは、魔法が使えないことで差別されている者の話は聞かない。

どちらかと言えば、身分の違いで差別が生まれているように感じる。

勿論、私の知るボクスデンは未だお城の中と葬儀会場と空葬場に限られるため、「ない」とは言い切れないが。


「私の知る限りでは、そのような話は聞かないです。」

「そっか。

 良い時代になったね。」


レフィーリアの顔が、嬉しいような悲しいような複雑な表情になる。


「何かあったのですか?」

「千年前、世界は魔法至上主義だった。

 魔法が強い者が偉い立場に就いて、弱い者は強い立場の人々に迫害された。

 アタシは生まれつき魔法が使えなかったから、勿論迫害された。

 親や兄弟から、毎日のように暴行を受けてたよ。」

「え……。」


折角転生したのに、そんな状況に陥ったら、私は絶対耐えられない。


「世界の救世主になることを諦めて自殺も考えていたある日、リーゼに言われたんだ。

 『魔法が全てではありませんよ。』ってさ。

 そこでアタシは考えたわけさ。

 自分に何が出来るのかって。

 それで生み出したのが、『剣技』。

 魔法が使えなくても、剣一本さえあれば力を手に出来る。

 新たな道を作ったんだ。

 そして魔法を使うのが下手っぴな人々をかき集めて剣技を教えて、魔法使いのお偉いさん方に戦争を吹っ掛けた。

 凄かったよ。

 島が一つ地図から消えるほどの大戦争。

 結果は惨敗だったけどね。

 ただ、世界の人々の意識を変えるきっかけにはなった。

 まあアタシが何を言いたいのかっていうと、要するにリーゼはいつだってアタシたちのことを考えて行動してるってこと。

 必要な時に必要な言葉を掛けてくれるんだよ。

 人々が当たり前の様に魔法を使う世界で魔法を使えないっていうのは、何とも惨めなものだ。

 魔法が使えるように出来るなら使えるようにしてほしいっていうソフィちゃんの考えは最もだと思うよ。

 でもね、ソフィちゃん。

 リーゼは権能でボクスデンの未来を視てる。

 その行動には全て意味があるんだ。

 リーゼは、アタシたちの体をこんな風にしたくてしてるわけじゃない。

 災厄の脅威さえなければきっと、いや、間違いなく普通の体で転生させてる。

 知るべきことは知るべきタイミングで教えてくれる。

 リーゼがタイミングを逃してるようなら、今みたいにアタシが教えてあげる。

 だから、あまりリーゼを困らせないであげてね。」


そう言って優しい表情を浮かべるレフィーリア。

どうやらレフィーリアは、とんでもないクソデカ感情をリーゼロッテに向けているようだ。


「す、すみません。

 少々、取り乱しました。」

「いやいや~、分かってくれればそれで良いんだよ。」


レフィーリアはそう言うと、リーゼロッテの方へ目線を向け、その視線で「何か言うべきことがあるんじゃない?」と訴える。

リーゼロッテは少し不服そうな顔で言う。


「まさかあなたが私に助け舟を出してくれるとは思いませんでした。

 たまには良い仕事をするものですね。」

「え~。

 それが人に感謝する態度~?

 アタシ頑張ったのに酷くない?」

「ありがとうございます!!!!

 これでいいんでしょう?

 これで!!!!」

「あっはは~、耳まで真っ赤にして照れてやんの~。

 アタシにクソデカ感情向けられて照れてやんの~。」

「っ?!?!」


リーゼロッテはそう言われ、慌てて耳に掛けていた髪を下ろした。

そして、その手で両耳を隠しながら、レフィーリアを睨む。


「さ!

 リーゼ、そろそろ次の説明したら?

 ソフィちゃん、待ってるよ?」

「くっ……、覚えてなさい……。」


リーゼロッテは「コホン」と咳払いをし、少し汗ばんだ手でタブレット端末の画面を次のスライドに移す。

そこには、二つの年表が並んでいた。


「レフィから話を聞いていると思いますが、私の権能『時空』はボクスデンの時間と空間に作用する力です。

 そのため、この力を用いれば、ボクスデンで起こりうる未来の出来事を『視る』ことができます。

 杏奈さんが初めてここを訪れた際、最初の重要ポイントは五歳だとお伝えしました。

 しかしそれは、杏奈さんがそこで巻き起こる事件を引き起こす張本人に自身の存在をバラしてしまうというミスを犯してしまうことにより、少し早まってしまいました。

 元々、賢暦1998年春頃にヴィクトリア王国でギルバートム・ヴィクトリアナによるクーデターが起こる予定でした。

 しかし、杏奈さんが彼に接触し、勇気を与えてしまったことで、クーデターの実行が一年ほど早まってしまったんです。」


どうやら彼は本当にクーデターを引き起こすつもりだったらしい。

一体なぜ?


それにしても、もしかして、私、やらかした?

私は内心で焦り出す。


「私、やらかしました?」

「はい。

 それはもう盛大に。」

「ご、ごめんなさい。」

「いえ、同じ状況に陥れば、私もきっと杏奈さんと同じ行動をしていたでしょうから、責めはしません。

 ただ、次からはもう少し慎重にお願いします。」

「分かりました。」


これは気を付けなければならない。

次からは、自身が転生者であることを話すのは最終手段にすることに決めた。


「私は何をすれば良いのですか?」

「彼が処刑されないようにするためのサポートです。」

「しょ、処刑?!」


思わず大きな声が出る。


「まあ、そうなるよね。

 クーデターって立派な国家反逆罪だし、失敗したら処刑一択になるのは必然。

 アタシが三つの国のお偉いさんに戦争吹っ掛けたあの時も、アタシを処刑する案は当然上がってたしね。

 だからアタシも死に物狂いで戦ったわけだし。

 まあ結局、アタシはリーゼに体の状態が一定に保たれるようにされてるから、誰もアタシを処刑出来なかったんだけどね。」


レフィーリアは得意げに言う。

それを見て、呆れたようにリーゼロッテが続ける。


「レフィは例外です。

 普通は処刑されれば死にます。

 ギルバートム・ヴィクトリアナは災厄との戦いにおいて、重要な役割を果たします。

 そのため、ここで死なれては困るのです。」

「だから、処刑されないようにサポートを、ですか。」

「はい。

 元々あなたには、ルイス・ストレアと協力して、クリストファンペア・ヴィクトリアナがギルバートム・ヴィクトリアナに遺したとある手紙を見つけ出してもらい、それを国民に見せることによって彼を処刑から回避させるという手筈でした。

 元々の未来では、あなたとルイス・ストレアがあの広いお城から手紙を見つけ出すのに二年の歳月をかけています。

 しかし時間が早まり、クーデター開始まで二年を既に切ってしまいました。

 もし、私の権能が未来を視ることに特化したものだったなら、きっと手紙の位置まで視えたのでしょうが、あくまで私の権能は時間と空間を操るものですから、そこまで詳しくは見れないのです。

 この計画ではもう時間が足りません。

 そこで、別のプランを用意しました。」


リーゼロッテはタブレット端末の画面を次のスライドに移す。

そこにはソフィアリス、ギルバートム、それと赤い髪を足元まで伸ばした女性の三人が、城へ突撃していく光景が描かれていた。


「何ですか、この絵?」

「こうなった以上、彼を助けるなら外側からではなく内側からサポートした方が良いでしょう。

 というわけで、ギルバートム・ヴィクトリアナのクーデターに加担しちゃいましょう!」

「正気ですか?!」


私は驚愕して、椅子から立ち上がる。

加わる……?

嘘でしょ……。

一体何を考えているのだ?


言葉を失う私の前では、レフィーリアが盛大に爆笑している。


「はははははは!

 リーゼ、君、やっぱり狂ってるよ!

 止められないと踏んで、まさか加わる方に舵を切るなんて!」

「ギル兄様がクーデターをしないように説得するとかじゃ駄目なんですか?

 クーデターに加担するだなんて、そっちの方がリスキーなのでは?」


 私が質問すると、リーゼロッテは真剣な眼差しで答える。


「彼は誰に何と言われようとクーデターを引き起こします。

 なぜなら、彼が引き起こすクーデターは、彼の意思で引き起こされるものではないからです。」

「どういうこと?」

「それはギルバートム・ヴィクトリアナ本人から直接聞いた方が良いでしょう。

 一つ教えられることがあるとするなら、彼は絶対にクーデターを引き起こさなければならない状況に置かれているということです。」


どうやらギルバートムは、私の知らないところで大きな事件に巻き込まれているようだ。

次、会ったら聞いてみよう。

答えてくれるかは分からないが。


「では、この赤髪の女性は誰ですか?」


私はそう言って、画面の中の長い赤髪の女性を指差す。


「エレーナ・ダグラスという名の女性です。」


リーゼロッテがそう言った瞬間、レフィーリアが「エレーナ?!」と驚いたような声を上げた。


「どういうこと?

 彼女は千年前の災厄戦で死んだはずだ。

 それにこの姿、どう考えたって……。

 いや、違う……。

 そういうことか……。」


レフィーリアは苦しいような悲しいようなそんな表情をする。


「リーゼロッテさん、レフィーリアさんとエレーナさんの間には一体どんな関係があるのですか?」

「千年前の災厄との戦いの際、レフィには十二神獣の他に数人の仲間がいたんです。

 エレーナ・ダグラスはその内の一人です。」

「え?!

 それはまた随分と長生きですね。」

「彼女は少し特殊な出来事に巻き込まれてしまって、現在『不老不死』の状態になっています。」

「なるほど。」


おそらくレフィーリアは、その『特殊な事情』とやらの内容を知っているのだろう。

しかしここまで辛そうな表情をされると、それを訊くのは流石に憚られる。


「エレーナ・ダグラスは今回の災厄戦においても、非常に重要な役割を果たします。

 故に、クーデター終結後に迎えに行く予定だったのですが、いい機会ですので先に迎えに行きましょう。

 彼女がいれば、クーデターは三人だけでも問題がなくなるでしょうしね。」

「え?!」


待って。

ウチの城、魔女いるんだが?

メイドたちの会話によれば、騎士団もだいぶ強いと聞くぞ。

それなのに、エレーナが一人いれば三人でもクーデターを成功させられるって?

どれだけ強いのだろうか、そのエレーナという女性は。


「ソフィちゃん、エレーナを迎えに行くなら、一つ注意しておくことがある。」

「注意ですか?」

「うん。

 エレーナの目隠しを外してはいけない。

 エレーナは普段、目隠しをして、視界を完全に塞いだ状態で生活してるんだ。」

「え?!

 な、何故?!」 


自ら目隠しをして生活……?

どういうことなのだろうか……。


「エレーナが見たものは瞬時に灰塵に帰す。

 目隠しを外し、彼女が目を開いたその瞬間、辺りは火の海と化す。

 今の彼女は特殊な事情に巻き込まれたことで、とんでもないバケモノになっている可能性がある。

 だから、彼女と意思疎通を図りたいなら、細心の注意を払ってね。

 エレーナのこと、よろしく頼んだよ。」

「わ、分かりました。」


私は化け物を仲間にしなきゃいけないらしい……。

正直言って怖い。

果たして私に扱える存在なのだろうか。


「それではまとめましょう。

 エレーナ・ダグラスは、ヴィクトリア王国領内最東端に位置する洞窟の中で、人の迷惑にならないように細々と暮らしています。

 クーデターが開始される賢暦1997年春までのおよそ一年と五か月の間に、この洞窟へと赴き、彼女を仲間にしてください。

 これが、ボクスデンであなたに課される最初のミッションです。

 次に、ギルバートム・ヴィクトリアナが引き起こすクーデターに参加し、エレーナと共に彼が処刑されるのを防いでください。

 クーデターは成功しようが失敗しようが、どちらでも構いません。

 これが二つ目のミッションです。

 そして、たまに『星矢杏奈』の体で過ごし、元の体の感覚を忘れないようにしてください。

 これはサブミッションと言ったところですかね。

 以上が『災厄討伐第一任務』です。

 杏奈さん、よろしくお願いします。」


リーゼロッテの言葉に、私は漫画やアニメでよく見るあの『お偉いさん方による作戦会議』味を感じた。

何だか自分が凄い立場に就いているかのようで、私は少し緊張した。

その結果、


「い、イエッサー……!」


という、よく分からない返事をしてしまった。

敬礼付きで……。


「あっはっは!

 ソフィちゃん、可愛い!」

「う、うぅ……。」


レフィーリアに爆笑されてしまい、私は顔が赤くなった。


「私もリーゼから災厄討伐任務受けてる時、『イエッサー!』って返事すれば良かった。

 めっちゃイイじゃん!」

「レフィ、あなたが言っても、杏奈さんのように可愛くはありませんよ。」

「はあ?!

 ちょっとそれどういう意味?」

「わ、私は可愛いと思いますよ!」

「そ、ソフィちゃん……!

 はーい、アタシたちはマジョリティ!

 リーゼはマイノリティ!

 故にアタシたちの勝ち!」

「杏奈さん、無理する必要はありませんよ。」

「はは、残念。

 ソフィちゃんは無理して言ってなんかいませんよーだ!

 だよね?

 ソフィちゃん?」

「・・・。」

「え?

 ソフィちゃん?」

「・・・ちょっとキツくは、あるかもしれないです……。」

「そ、ソフィちゃん?!」

「ははは~、レフィはマイノリティ。」

「ちょっと、リーゼ!」


振り回されることは多そうだが、なんだかんだ上手くやっていけそうだなと感じる私だった。


ーーー

ーーーーー

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杏奈がボクスデンへと戻った後、リーゼロッテとレフィーリアは二人で話していた。

杏奈の前では言えない、重い内容の話を。


「ねえ、リーゼ。

 今回の輪廻で終わるかな?」

「分かりません。

 ただ、私の見える未来は賢暦2008年までです。」


リーゼロッテはそう言うと、ベッドの上で眠る杏奈に視線を向ける。


「ソフィアリス・ヴィクトリアナが十六歳になる年、恐らく何かが起こります。

 それを引き起こすのが災厄なのか他の何かなのかは分かりませんが、その年にボクスデン、もしくは『リーゼロッテ・ハクシス』が消えることは確定でしょう。」

「そっか。

 アタシも心構えをしなきゃ。」

「私たちに残された時間は少ない。

 少しでも良い方へ転ぶように努力しましょう。」


デスクの上、パソコンの横で一つの写真がシーリングライトの反射でキラリと輝く。

それは聖壱、善乃、杏奈が写る家族写真。


「・・・待っててね、お母さん。」


リーゼロッテの声が優しく、そして重く響いた。

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