1話 ボクスデン
私がボクスデンに誕生してから、早くも半年が経過した。
とは言っても、まだ自由に動き回れない私はベッドの上でゴロゴロしていることしかできないので、この『半年が過ぎた』ということも周りにいるメイドたちの世間話を盗み聞きして得た情報に過ぎない。
早く歩けるようになりたい。
生まれたばかりの時に懸念点となった『一生赤子の姿かもしれない』という点は、首が座るという体の成長をもって払拭された。
また髪が伸びたり、食べたものが便として出ていることから、一応時間という概念の影響は受けていることが分かった。
ただ、傷はすぐに癒える。
どうやら私に都合の良い条件で体が一定に保たれる状態になっているようだ。
そして今日は、私のもとに凄腕の医師がやって来る。
私を診てもらうらしい。
まあ、生まれた瞬間に城を破壊し「音撃の王女」と呼ばれることになった赤子など普通でないので、忌み物でも憑いているんじゃないかと疑う気持ちは分かる。
私だって、産んだ赤子が今の私のようなバケモノだったら病院へ直行するだろう。
凄腕の医師とやらがどんな人物なのか想像していると、白を基調とした豪華なドレスに身を包んだ長い銀髪の女性と黒い大きな帽子と同じく黒いローブを身に纏った黒髪の女性が部屋に入って来た。
母・アデリアと凄腕の医師である。
アデリアは公務で忙しく、普段私の世話はメイドに任せきり。
こうして顔を合わせるのは一か月ぶりだ。
アデリアは私を抱っこすると、満面の笑みを浮かべて言った。
「久しぶりね、ソフィ!
会いに来れなくてごめんね!」
アデリアが私の頬にキスをする。
すると、医師が私を見ながら言った。
「この子が『音撃の王女』……?」
「はい。
この子がこの国の第二王女であり、私たちの次女。
ソフィアリス・ヴィクトリアナです。
そして、その……、音撃の王女です……。」
「へえ。
見た目は普通の女の子ね。」
医師は私の頭を撫でる。
きっと何人もの赤子を診て来たのだろう。
頭を撫でるのが物凄く上手い。
この部屋には何人ものメイドがいるが、その誰よりも上手い。
「それじゃ、ちょっと見させてもらうわね。」
医師は頭を撫でる手を私のおでこに移し、何か呪文のようなものを唱え始めた。
ここは剣と魔法の世界だとリーゼロッテは言っていた。
となると、これが俗に言う詠唱とやらだろうか。
生で見るのはこれが初めてだ。
医師の指から眩い光が放出されて行き、その光が私の体内に伝わっていくのを感じる。
すると突然、何かに弾かれたように光が霧散した。
「拒否された?!」
医師は驚いた表情で言った。
アデリアは何が起こったのか分からなかったようで、医師に問う。
「何が起きたんですか?」
「『鑑定』という魔法をご存じかしら?」
「はい。
確か対象にした人物に関する詳しい情報を見ることが出来る魔法ですよね?
学生の頃、扱うのが難しい魔法だと習いました。
世界でも扱えるのは魔法使いの上位五パーセント程度の魔法だとも。」
「ええ。
その鑑定の魔法を使ってソフィアリス様の情報を得ようと思ったのだけれど、鑑定を拒否されたわ。」
「と、言いますと?」
「アデリア様、この子の異常さがあまりピンと来ていないようね。
鑑定が失敗する条件はおおまかに言って三つ。
一つ目が、鑑定の対象にした人物が自身よりも所有魔力量が多い場合。
二つ目が、鑑定の対象にした人物が魔力絶縁体質、要するに魔法の影響を受けないが扱うこともできない体質の場合。
三つ目が、鑑定の対象にした人物が『鑑定拒否』という『鑑定』よりも難しい魔法を使った場合。
そして、今ソフィアリス様の身に起こった現象は、そのどれにも該当しないの。
まず一つ目の『鑑定の対象にした人物が自身よりも所有魔力量が多い場合』。
アデリア様も知っての通り、人体が魔力を生成するようになるのは生後一年以上が経ってから。
だから生後半年のソフィアリス様が私よりも所有魔力量が多いということはない。
次に二つ目の『鑑定の対象にした人物が魔力絶縁体質だった場合』。
私が『鑑定』を使った時のことを思い出してほしいのだけど、魔法によって出現した光が体内に侵入していたでしょう?
魔力絶縁体質の人間には起こりえない現象よ。
そして三つ目の『鑑定の対象にした人物が「鑑定拒否」を使った場合』。
魔力がなければ、魔法は使えない。
さっきの説明の通り、生後半年のソフィアリス様はまだ魔力を持っていないのだから、当然魔法は使えない。
ここまで聞けば、流石に分かるかしら?
この子の異常性が。」
医師の長い説明を聞いて、私は戦慄した。
私に『鑑定』が効かなかった理由は、間違いなくリーゼロッテのせいだ。
恐らく、私に都合の良い条件で体の状態が一定になるよう細工した際に一緒に細工したのだろう。
どうやら私は、あの自称大賢者に体を自由に弄り回されている可能性がある。
最悪な気分になった。
「ソ、ソフィは大丈夫なのですか?」
「分からないわ。
前例がないもの。
『鑑定』が出来ない以上、もうどうすることも出来ないし、女神様に祈るしかないわね。
この子の身に何も起こりませんように、と。」
「そうですか……。」
アデリアは凄く不安そうな顔をする。
それを見て医師は優しく言う。
「でも、現状この子に特に異常は見られない。
心臓はちゃんと動いているし、脈拍も正常、呼吸も安定しているわ。
だから、体が魔力を生成し始める一歳までのおよそ半年間は問題ないと思うわよ。
この半年の間に必ず解決策を見つけるから、安心してちょうだい。」
「はい……。」
アデリアの表情が少し穏やかになった。
「それじゃ、帰ろうかしら。」
医師がそう言った瞬間、部屋の扉が思いっきり開いた。
「やっと終わりましたわね!
ソフィ!
今日はたくさん絵本を持って来ましたの!
読み聞かせてあげますわ!」
そこに立っていたのは大量の本を抱えた少女。
胸の辺りで切り揃えられた少しだけ水色が混じった白い髪に薄い青色の瞳。
雪女のような見た目のこの少女は、メローネフィリム・ヴィクトリアナ。
ヴィクトリア王国第一王女、つまりはこの世界での私の姉である。
メローネフィリムは生粋のシスコンであった。
私のことが大好きで仕方がないらしく、毎日のように私が寝ているベッドのもとに来ては相手をしてくれる。
私としても助かっている。
ただ寝ているだけの暇な毎日に彩りを与えてくれるのだから。
大量の本を抱えたメローネフィリムが私のベッドへと歩いて来る。
その後ろにもう一つの小さな影があった。
「今日は俺も来た!」
ブルーグレーの短髪に灰色の瞳。
如何にもわんぱく少年といった見た目のこの少年は、ジルモニアストレア・ヴィクトリアナ。
ヴィクトリア王国第二王子、この世界での私の二人いる兄の内の一人である。
ジルモニアストレアはメローネフィリムほど頻繁に来るわけではないが、時折やって来ては私の相手をしてくれる。
あと何かよく分からないものをくれる。
たぶん今回も……。
「これ、やるよ。」
そう言ってポケットから取り出したのは、おかしな形をした石。
何これ……?
私にどういう反応を求めてるの……?
「な、何ですの、これ?」
メローネフィリムもたまらずツッコミを入れる。
「ソフィだよ。」
「え?」
メローネフィリムが絶句する。
私も心の中で絶句する。
え?
待って?
私、こんなに真ん丸としてるの?
「ジル?
あなたの目は節穴でして?
何をどうしたらこうなりますの?」
メローネフィリムは私をモデルにした石を舐めるように見回しながら駄目出しする。
すると、ジルモニアストレアが泣きそうな声で言う。
「しょ、しょうがねえじゃん。
俺の魔法じゃ……、これが……、限界なんだよ……。」
あ、マズい。
このままでは本格的に泣いてしまう。
そう悟った私は、笑ってみせた。
「あ、あー、あう!」
「う、嘘……。
笑いましたわ……!」
「ソ、ソフィ……!」
ふぅ。
赤ちゃんプレイも楽じゃない。
姉よ、「わたくしも今度、ソフィをモデルにして削った彫像を持って来ますわ!」などと言っているが、7つも歳下の弟に張り合うのは流石にどうかと思うぞ。
そんな私たちの様子を見て、医師が笑みを浮かべる。
「ふふふ、仲が良くて微笑ましいわね。
私も久しぶりにギルに会いたくなっちゃった。
アデリア様、あの子がどこにいるか分かる?」
「この時間ですと、宮廷騎士団の方々と一緒に訓練をしていると思います。
連れて行きましょうか?」
「いえ、大丈夫よ。
あなた、これから公務に出られるんでしょう?
忙しいのに邪魔しちゃ悪いもの。
訓練場なら場所を覚えているから安心なさいな。」
医師はそう言って部屋から出て行った。
医師が言っていた「ギル」とは、十中八九、兄のことだろう。
ギルバートム・ヴィクトリアナ。
ヴィクトリア王国第一王子、この世界での私の二人いる兄の内の一人である。
私がこの世界に生まれてから半年経つが、家族の中で唯一まだ会ったことがない。
メローネフィリムとジルモニアストレアもあまり顔を合わせたことがないのか、二人の口からギルバートムの情報が出て来ることはない。
また、ギルバートムはヴィクトリアナ家において何か訳ありの人物のようで、両親もメイドたちも彼の話をあまりしたがらない。
そのため、ギルバートムという人物は私の中で、この世界において最も謎めいた人物となっている。
そんなギルバートムのことを、あの医師は「ギル」と親しげに呼んだ。
彼女は一体何者なのだろうか。
魔法使いの上位五パーセントしか扱えないという『鑑定』を使い、王妃であるアデリアに敬語を使わず、逆に敬語を使わせていた。
明らかにただの医師ではない。
私は知る由しもない問いに、頭を回し続けた。
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私がこの世界に生まれ落ちてから一年が経過した。
この世界では五歳毎に盛大な誕生日パーティーを開くらしく、私の一歳の誕生日の日には特に何もなかった。
少し寂しかった。
一歳になれば、生まれた時からの成長をだいぶ実感するようになる。
体がしっかりして、自力で座れるようになった。
最近は離乳食にも挑戦している。
日本の食を知っている私にとって、この世界の食事はかなりレベルが低く感じられる。
味は言わずもがな不味いので、最近の食事はかなり大変である。
私の枕元には、一歳の誕生日の日にジルモニアストレアがくれた石の彫像が置かれている。
モデルはもちろん私だ。
半年の間に、彼の彫刻レベルは格段に上達した。
何でも、『土属性魔法』とやらを会得したようで、それを用いて彫像を制作しているらしい。
魔法については、まだよく分からないが、『土属性』という言葉から、魔法には様々な属性があることが分かった。
ここ最近の最大の収獲といったら、これになるだろう。
そして今日は、半年ぶりにあの医師が私のもとにやって来る。
私の体質に関する何かしらの情報を得たので、それをアデリアに伝えに来たのかもしれない。
アデリアに抱き抱えられながら部屋で待っていると、黒髪黒帽子の女性が「相変わらず迷路みたいなお城ね。」と、心底疲れ果てた様子で入室して来た。
「大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。
ただ、次からは案内人をつけてちょうだい。
私、方向音痴なのよ。」
医師は息を切らしながらトボトボと私たちの方へと近づき、そして用意されていた椅子に座った。
そして、テーブルの上に置かれていた水を飲み始めた。
このお城の全貌を私はまだ知らない。
余程広いのだろうか。
自慢じゃないが、私もどちらかと言えば方向音痴寄りだ。
少し不安になった。
しばらくして医師の呼吸が整うと、アデリアは医師に訊いた。
「あの、ソフィに関する重要なお話を、そろそろお聞きしてもいいですか?」
「ええ。
ちょっと待ってちょうだいね。」
医師はそう言うと、バッグの中から数枚の紙を取り出し、それをテーブルの上に広げた。
何の資料だろうか。
私はそれに目を通す。
「レフィーリア……、先祖返り……?
これは一体何ですか?」
「それじゃ、早速だけど説明していくわね。」
そう言って、レフィーリアは紙に書かれたレフィーリアの文字に指を置いた。
「訊くまでもないと思うけど、アデリア様はこの『レフィーリア』という人物をご存じかしら?」
「はい。
この国の初代国王です。
女神の使徒たる十二神獣と共に千年に一度訪れる『災厄』に立ち向かった英雄で、様々な犠牲を払いながらも『災厄』を追い払い、その後、当時未開拓だったこの大陸に国を興し、人が暮らせる場所にした偉人です。
『英雄王レフィーリア』、この名前を知らない者は、この国に居ないと思います。」
「そうね。
そして幾つかの剣の流派を生み出したことでも有名よね。」
「この子とレフィーリアに何か関係があるのですか?」
「私はこの半年間、ソフィアリス様の体質に関する様々な仮説を立てたの。
その内の一つが隔世遺伝。」
「隔世遺伝?」
「そう。
あなたの世代でも、あなたの親世代でも現れなかった体質が、世代を飛び越えてこの子に発現したんじゃないかって、そう推測したの。
それから私はヴィクトリア家に関する歴史書を漁って、ソフィアリス様に似た『魔法の影響を受けにくい体質』の持ち主がいないか探したの。
百年、二百年、三百年……、次々に遡って行って、辿り着いたのはヴィクトリア家が始まった千年前。
そこにたった一人いたの。
ソフィアリス様と同じ体質だった人間が。」
「それがレフィーリア、ということですか?」
「ええ。」
要するに、千年ほど昔のご先祖様が私と同じような都合よく時間の影響を受けない体質で、それが私に隔世遺伝したんじゃないかと勘違いをしているわけか。
そういえば、リーゼロッテが言ってたっけ。
以前送り出した人がどうたらこうたらって。
きっとそのレフィーリアという人物は、私と同じく転生者だったのだろう。
医師は再びバッグを漁ると、中から紫色の丸い石を取り出した。
「アデリア様、これをソフィアリス様に握らせてみてちょうだい。」
アデリアはその石を受け取ると、私の手元に持って来た。
私はそれに触れ、様子を見る。
しかし何も起こらない。
何をしているのか分からず困惑していると、アデリアの表情が曇っているのに気づいた。
あの、私は何をしでかしたのでしょう?
「どうして、光らないの?」
理屈は知らないが、この石は人が持つと光るようだ。
それが光らない。
あれ?
もしかして私、人間じゃない?
リーゼロッテさん?
私、人間として生まれるって言ってたよね?
あれ?
「やっぱりね。
私の仮説は正しかったみたいだわ。」
医師はそう言って、一つの紙切れを指差す。
そこに書かれていたのは
「『レフィーリアの触れた魔法鉱石は微かにしか光らなかった。これは魔法の影響を受けにくいが扱うことも難しい体質であることを意味する。』。
こ、これは……?」
「英雄王の唯一の弱点よ。
全く大変だったわ。
禁書庫の最奥から見つけ出すのは。」
アデリアの開いた口が塞がらない。
どうやらこの『英雄王レフィーリア』という人物は、よっぽどの無敵超人だと言われているようだ。
いや、そうだと思わされているようだ。
禁書庫の最奥にあったということは、この紙切れは千年前のヴィクトリア家にとって都合が悪いとされて意図的に隠された真実ということだ。
まあ、『災厄』を追い払って国を興し、みんなを引っ張っていくリーダー的立ち位置の存在が、ジルモニアストレアのような四歳の子供ですら使える魔法を使えないなど示しがつかない。
隠されて当然っちゃ当然だ。
「それじゃ、最後の検証ね。
ソフィちゃん、ギューって握れるかしら?」
医師はそう言いながら、石もとい魔法鉱石を握るジェスチャーをする。
私はそれを見て冷や汗が流れる。
なぜなら『壊してしまうのでは?』と思ったからだ。
私はこの一年間、身の回りのありとあらゆるものに極力触れずに生きて来た。
この世界のものを私は声だけで木端微塵にできる。
直接触れたりなんてしたらどうなるかは目に見えている。
破壊の王女なんて呼ばれたくはない。
だからできれば握りたくはない。
しかし私が魔法鉱石を握るまで、この医師は見逃してはくれないだろう。
だって、何か、『検証』って言った瞬間から目が座ってんだもん、この人!
私は躊躇いながらも、意を決して魔法鉱石を握った。
いや、握り潰したと言う方が的確だろう。
私が握った魔法鉱石は、力を入れたその瞬間に粉々に砕け散った。
私の服とアデリアのスカートに魔法鉱石だったモノが散らばる。
「な……。」
アデリアは言葉を失う。
それに対をなすように、医師は興奮気味だった。
「ははははは!
まさかこうも簡単にダイヤモンドよりも硬いはずの魔法鉱石を砕くだなんて!
はあ……もしかしたら、私たちは凄い歴史の転換点を見ることになるかもしれないわ!」
「ど、どういうことですか?」
「『災厄』を追い払った英雄王と同じ体質の存在が誕生した!
『災厄』の襲来は千年周期!
そして前回の『災厄』の襲来からもうすぐ千年!
きっとこの子は英雄王が転生した姿よ!
私たちに危険が迫っていることを察知して、舞い戻って来て下さったに違いないわ!
三千年前の『魔法の女神アナスタシア』、二千年前の『大賢者リーゼロッテ』、千年前の『英雄王レフィーリア』、彼らに続く存在がやっと来て下さったわ!
ああ、早く学会に報せなければ!
この吉兆を!
私たちはもう無事だと!」
医師は物凄い早口で色々と捲し立てた後、目にも止まらぬスピードで部屋を出て行った。
テーブルの上に広げた資料をそのままにして……。
本当にこの医師は何者なのだろうか。
『学会』という言葉を口走ったせいで、余計に分からなくなった。
医師という名目で私のもとへとやって来たが、『鑑定』の魔法を使ったことで魔法のエキスパートであることが露呈し、また歴史書から真実を見つけ出す感じや『学会』とやらの繋がりから博士っぽさもある。
『医師』『魔法使い』『博士』。
どれが本当の肩書きなのか分からない。
得体の知れない感じから、私はあの医師にちょっと恐怖心を覚えた。
「相変わらず忙しない人ね、あの方は。」
アデリアはやれやれといった感じでそう言った後、私の方を見て続けて言った。
「それにしても、あなた、相当凄い人物になりそうね。
お母様は嬉しくて仕方ないわ!」
私はアデリアにキスされながら考えていた。
この世界のことを。
私はこの世界のことを、異世界ものの漫画やアニメでよく見る中世ヨーロッパのような世界だと思っていた。
しかし先程の遺伝の話や、ダイヤモンドよりも硬いという魔法鉱石を丸く削り、そして磨くという技術力から、それなりに発展した世界なのかもしれないと思い始めた。
それによく部屋を観察すると、部屋の明かりは蝋燭ではなく電球だし、テーブルの装飾もどこか近代的である。
もしかすると、産業革命後のヨーロッパのような世界観なのかもしれない。
私はまだ見ぬ外の世界に、少しだけ興味が湧いた。
そして、リーゼロッテはちゃんとこの世界の大賢者だったことも分かった。
『災厄』を追い払い国を興した『英雄王』と同列に扱われるくらいには凄い人物だということも分かった。
私は自称大賢者なんて言って馬鹿にしていたことを、心の中で謝罪した。
次にもし会う機会があったら、その時は最大限の敬意を持って接しようと心に決めた。
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賢暦1993年9月某日。
ヴィクトリア王国の宮廷魔女兼「寅」の魂塊の継承者、「白雷の魔女」ルイス・ストレアによって、「音撃の王女」が、かの「英雄王」の生まれ変わりの存在であることが示唆される。
これによって「音撃の王女」は『災厄』襲来までの間、絶対的な庇護対象となり、様々な英才教育を受けさせることが決定事項となる。
これが吉と出るか凶と出るか、この時の人々には知る由もない。




