実家のリビングにて
俺が出て行ってから少し経つが、実家の内装は何も変わっていなかった。
「ささ、ここに座って!」
母さんが七海をリビングの席に誘導する。
「いや、そこ俺の席じゃね?」
「まぁまぁ、いいじゃないの。細かいことは気にしない。ほら椅子取ってきなさい」
「はいよ」
「いや、私が」
「いいのよ。こんなのうちの愚息にやらせておけば」
「いいよ。七海は座ってて」
「でも」
「てか、七海ちゃんっていうのね!」
「は、はひ! 片瀬七海といいます!」
「もっと肩の力抜いて、実家だと思ってくつろいでもらっていいのよ」
「はひ」
七海は母さんのいう通り、元々俺の席であった椅子に座っている。ただくつろぐどころか、肩は上がっていて背筋はピンッと伸びている。俺は小さい椅子を持ってきて長方形のリビングテーブルのいわゆる誕生日席と呼ばれる場所に置いて座った。
「明人、七海ちゃんの緊張をほぐしてあげなさい」
「どうやって」
「しらないわよ。でもどうにかしなさい」
「それよりもまず、母さんが七海の正面で腕を組んで威圧してる父さんをどうにかしてよ」
「いやよ。あの人ただガッチガチに緊張してるだけだし、なによりあの人こうなったら面倒なのよね」
「面倒って」
「とりあえず何とかしなさい」
「分かったよ」
俺はとりあえず席を立って七海の後ろに行く。
「七海大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫だよ!」
七海の視線は父さんに固定されている。まったく大丈夫じゃなさそうだ。京も隣で苦笑いしている。
「七海こっち向いて」
「んぎゅ」
俺はそう言って七海の顔を無理やりこっちに向けた。
「大丈夫。父さん見た目あんなんだけど、ただ緊張してるだけなんだ」
「うん……」
「それにほら、京のこと祝うんでしょ? ならしっかり祝ってあげなきゃ」
「うん。うん。そうだよね! お姉ちゃんとして祝わないとね! それに公認にならなきゃいけないし……」
「そうだね。もう大丈夫?」
「うん! 大丈夫!」
任せろと言わんばかりで、さっきの緊張の影すらなかった。
「改めまして、片瀬七海です! 本日はお邪魔します!」
「よろしくねぇ。私は日野あきらっていいます。そんでこっちが日野誠。今日だけじゃなくて、これからよろしくね」
父さんもその紹介に合わせて頭を下げた。
「じゃあ時間もちょうどいいし、もう夕食作り始めちゃうわね。ご飯後にはケーキもあるから」
「あきらさん! 手伝います!」
「ほんと? じゃあお願いしようかしら。それとあきらさんじゃなくてお義母さんでもいいのよ」
「ふぇ、え、その。お、お義母さん……」
「まぁ、ほんとに娘にしようかしら」
「母さん」
「分かってるわよ。じゃあ、七海ちゃん。冷蔵庫からチャック袋に入っている鶏肉を取ってきてもらえるかしら」
「はい!」
そう言って二人はキッチンへパタパタと行ってしまった。
「俺らが手伝えることもスペースもないし、久しぶりにあれやるか?」
「そうだね。おにぃ、今日は負けないよ」
「父さんもやる?」
父さんは何も言わずただ頷いた。もうここに七海いないのにまだ緊張してるのか。




