付喪神3
「ここが私の家です。どうぞあがってください」
「たすかるよ」
「ありがとうございます。おじゃましまーす」
風が吹いたら飛んでいってしまいそうな家だった。
チヨの家に限った話ではないが、この村の家という家、全てが古かった。
築百年は越えているであろう家ばかりで古い物は二百年は越えているかもしれない。
村全体が重要指定文化財なのではないかと疑うほどであった。
だがそんな話は聞いたことがない。
「ところであんた……いや、泊めてもらっといてあんたは呼ばわりは流石に失礼だな。先に名前を聞いてもいいかい?俺はエンラってんだ。こっちは娘の……」
「キビです。突然押しかけてしまってすみません」
整ったスーツ姿とは対照的な性格の砕けた父と都会の今時の若いファッションに身を包んだ丁寧な美しい娘、なんともチグハグな組み合わせだとチヨは思った。
思ったらなんだか笑みが漏れてしまった。
「俺たち何か面白いことでも言ったかい?」
これはいけないと思ったが今更笑みを引っ込められない。
むしろますます笑えてきてしまう。
「いえ、変わったお二人だなと思いまして」
親子は顔を見合わせたがよくわからない様子だった。
「申し遅れました。私はチヨと言います」
チヨはゆっくりと頭を下げた。
「改めてチヨさん、この家には一人で住んでるのかい?」
「いいえ。弟と二人、この広い家に住んでいます。弟も間もなく帰ってくるかと思います」
玄関の方から鈍い、古臭い、戸が軋んで開くような音がした。
「ただいまー」
若い男の子の声がした。
「あ、帰ってきたみたいです」
ギシギシと床を軋ませる音が徐々に、真っ直ぐこちらに近づいてくる。
そして足音は三人のいる部屋の前へ来ると何の躊躇もなく戸を開けた。
少年だった。
年は10くらいだろうか、幼さの残る男の子は村の外から来た来訪者二人を見て目をパチパチさせていた。
「おかえりなさい」
チヨの声で我に返った男の子は開口一番、こう言った。
「おじさんとおねえさんは村の外から来たの!?俺と姉ちゃんを村の外へ連れ出してよ!」
空気が張り詰め時間が止まったように感じた。
「な、なにを突然言い出すの!?」
チヨが明らかに動揺している。
「何かわけがありそうだな。話を聞こうじゃないか」
エンラの言葉を聞いて男の子がチヨに目線を送る。
チヨは俯き小刻みに体を震わせていた。
エンラが優しいが、何か含みある言葉を言った。
「大丈夫だ。話をしてみな。気づいた時にはぜーんぶ終わってる。世の中なんてそんなもんさ」
キビが美しく長い黒髪をゆっくりと掻き上げた。




