付喪神2
集会所の様な、東の最果ての国を連想させる古い建物、その部屋では今、一つの話し合いが終わろうとしていた。
「決まりだな」
「異論はあるまい」
「ありません」
真っ白い髭を携えた老人の言葉に皆が頷く。
チヨに異論はあった。
思っていても口には出さない。
いや、出せない。
決まったのではない。
決まっていたのだ。
チヨ、真っ黒い髪の美しい、清楚と呼ぶに相応しいその女は、天井からぶら下がっている白熱灯を見上げていた。
どのくらいの時間が過ぎただろうか?
今日ここへ来て話し合いが始まった時から見ていた気がする。
べつに面白いわけでもなんでもない。
ただ時間が早く過ぎるよう祈っていただけだ。
嫌な時間というのは長く感じるものだ。
チヨにとってはこの数分が何十分にも何時間にも感じられたに違いない。
「では解散」
白髭の老人が立ち上がろうとしたその時、部屋の襖が外から開いた。
「誰だ!?」
誰かが荒げた声に視線が一斉にそちらへ注がれる。
「おや、町内会か何かだったのかい?」
皆の視線の中心にいるスーツの男が無精髭をさすりながらゆっくりと部屋の中へと歩みを進めた。
男は先程まで山道でも歩いていたのか、ズボンの裾に植物の葉や泥などが付いていた。
「見ない顔だな。余所者か?」
「あー……森で道に迷っちまって偶然この村にたどり着いたんだ。できれば一晩過ごせるところを紹介して欲しいんだが……」
「こんな辺鄙な村に泊まるところなんかねぇよ!」
「余所者は帰れ!」
「そーだそーだ!」
男は頭をぽりぽりと掻き、顎をさすった。
「参ったねぇ……」
台詞と顔が合っていない。
全く困ってはいないようだ。
声は男の後ろからした。
「人はいた?」
若い女の声だ。
男の後ろから若い女が顔を覗かせた。
美しいというよりは可愛らしいと言う表現が相応しいだろう。
男は振り向きもせず女に言った。
「いたにはいたんだが……今交渉中だ。ちょっと待ってろ」
「うん。わかった」
言うと女は外へと出て行った。
「俺一人なら野宿でもいいんですが、今見たら通り年頃の愛娘も一緒なんで、そういうわけにはいかないんですわ。なんとかなりませんかね?」
「それなら……」
この親子を助けたい。
頭で考えるより先に言葉が出ていた。
その場にいた全員が一斉に声の主を見る。
「うちでよろしければ、一晩だけでしたら」
絞り出された声の主はチヨだった。




