船幽霊8
話が単純だからこそ、何か思うことがあったりしますよね
「私はずっと彼を見ていた……」
辺りは激しい雨が降り続けているがなぜか小さな声はちゃんと聞こえた。
「見ているだけで幸せだった。見ていることしかできなかった……」
「そう、あんたは見ていただけなんだ……」
女は目を見開いて男を見た。
男はゆっくりと歩き、寄せる波へと数歩進んだ。
海から何かが近づいてくる。
あの肉の塊だ。
「彼を見ていたあんたはいつからか恋心を持った。いや、恋心から見ていたのかもしれない」
肉の塊、彼が少しずつ陸へと近づいてくる。
「そんな彼に恋人ができた」
「ちがう!」
女が突然大声を張り上げた。
そんなことは御構い無しに男は話を続ける。
「小さなボートの上で男女に何があったかは知らないが、あんたはずっと見てたんだ……。その黒い瞳でな」
女の黒い目から黒い何かが一気に溢れ出る。
辺りを、世界を更に黒く染め上げていく。
「ちがうちがうちがうちがうちがうちがう!」
「この雨はあんたの涙、この黒い世界はあんたの心だ」
「違う!!」
「あんたの溢れる涙がボートを沈め二人を殺した。まさに船幽霊のように……。あんたは彼を自分だけが見れるようにしたかった。その結果が海の底だ」
男は女の方へ体の向きを変えた。
近づいてきた肉が男の横を素通りし女を押さえつける。
男は目を見開いた。
「言い訳は地獄で聞く。さよならだ」
もう少しだけ続くんじゃよ




