第2房 ベスト戦線
四月だというのに暑さが体をむしばむ。この一週間で急に温度が高くなったような気がする。
自転車に乗っていても、あふれる汗がシャツに滲み、それがシャツにへばりつく。こんなことなら着替えを持ってくればよかった。それでも徒歩通学の同級生や先輩が、アスファルトの熱に溶け出しそうになりながらトボトボ登校している様子を見るとまだマシかもしれない。
教室に入ると先に来ていたクラスメイト達は、皆上着を脱いで雑談をしていた。シャツのボタンまで外している男子もいる。女子も暑い暑いと連呼しているけれど、決してシャツの上に着たベストを脱ごうとしない。大きな胸に背中を押された下着が濡れたシャツに透けるかららしい。男子がベストのその先にあるユートピアを拝もうとさりげなく脱ぐように勧めている。
「こんなに暑いんだから、ベスト脱げよー。」(透けブラ見たいからだろ、嘘つけ)
女子は女子で、そのプライドと下着を守ろうと、
「えー、熱くないから大丈夫だよー。」(汗だらだらじゃないか、嘘つけ)
こんな低俗な会話にも僕は全く興味がない。僕が愛してやまないぺちゃんこな胸は透けたりなんかしないのだ。シャツ越しに形が分かるような膨らみなんて価値がない。
大きさこそ力というこのクラスの空気に僕はなじめていなかった。女子を毛嫌いし、男子の会話に加わらない生活は、僕をますます孤独にした。一人の時間を持て余し、一日の大半をうつむいて過ごしていたせいで、その日たまたま落としたペンをとりに行こうと立ち上がるまでその少女の存在に気が付かなかった。
彼女もまた活発な生徒ではないらしい。斜め下を向いて教室の中に入ってきて誰かに話しかけられることもなく、自分の席に着いた。外の暑さは増すばかりなのだろう、彼女はカバンを下ろし上着を椅子に掛けた。軽く汗を拭いたあと中に着ていたベストも脱いだ。
__ベストも脱いだ!?
彼女のシャツは何のハリもなく、重力にその身を任せまッ平らだった。
ものすごい貧乳だったのである。
「せ、洗濯板だ...。」
それは僕の理想だった。A?AA? しばらく見ていなかったサイズだから忘れてしまった。
それまで胸しか見ていなかったが、よく見てみるとかわいい顔をしている。
肌は色が薄めで肩まで伸びた黒髪とのコントラストが美しい。若干釣り目なのがどことなく近寄りがたい印象を与えているが、それもまた品があって素晴らしい。どうしてこんなに魅力的な女性に気づかなかったのだろう。
僕はもうすっかり彼女の虜になってしまっていた。
このままあの胸を拝んでいたい。というか彼女と仲良くなりたい。せめて話しかけてみたい。
そんな不埒なことを考えていると、ふいに彼女はこちらを向いた。というか、睨んでないか!?