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006 Monochromatic flowers girl



 歌う君に魅せられて

 風舞う輪舞(こえ)と花の波の中で

 ユラリユラリ

 狼と少女の

 出逢いは焔の揺らぐあの森


 ……ねぇ、扉の鍵は捨ててしまおう?




「だから、」

「………………」

「いやいやいや! そんなんじゃないから! 断じて違うから!」

「…………」

「……お前冷たい……よし! そんじゃま生きてくために作戦決行ー!」

「……」

「よお、そこのお2人さん。旅人か?」

 と、その厚めのローブで覆った銀髪を揺らし、その、高く細長い身体を簡単に装飾している笑顔の青年。

 その後ろで、妙に気品に溢れ釈然と立っている、その綺麗に切り揃えられた紫色の髪を、白い花の髪飾りでまとめ腰までにユラユラと揺らし、シンプルな黒いドレスに身を包む、連れらしい、表情の乏しい印象を与える小さな少女。

 まるで年の離れた兄妹のような、下手をすれば親子のようなそんな2人組。

 前者の彼は歩きながら1人独り言で何かを決断した後、その街で1番大きな木の下で、なにやら話している金色の髪の少年と、碧の髪の少女の2人連れに話しかけた。

 修羅場中だった。

 修羅場が戦場になりそうだった。

 第三者が入ったことで。

「………………」

「……り、リタ~……あのね」

 その金髪の少年には、木の元で腰掛けている――リタという名の少女の周りをウロウロしつつ、こちらから見ても、少女へ事のやむなきを弁明しようとする表情が見られた。

 何か、あったのだろうか。

 その少女は、その少年にかなりの忌諱に触れられたようだ。不機嫌そうだった。

 でも美人だなぁ。

 そんな中でもその青年は呑気にそんなことを思っていた。

「何か、用ですか?」

 と、その少女が口を開く。

「……無視?!」

 と、その少年も口を開く。

「…………」

 青年の後ろにいる幼い少女は、相変わらずの無表情だった。

「えーっと、あ、あのさ、お2人は、これからどちらの方向へ?」

「南だ」

「そ、そうかぁ……じゃああの、でっかい山越えていかねぇといけねぇなぁ……」

「そうだな」

 青年の質疑にあまりにも淡々と答える少女に、一時彼はたじろぐが、

「えっと、道案内してやろうか?」

 と、1つの提案をした。

 それを聞いた少年少女は突然に、キョトンとした表情になる。

「え? え? なに、そのハトが豆鉄砲くらったような……」

「いや、そこまで驚いてはいないのだが……ほ、本当か?」

「うん」

「そ、それを何故私達に、言う?」

「えー……」

「それが君の仕事か?」

「え……んー」

 と、その青年はチラッと隣にいる少女を一瞥する。目が合った。

「………」

「あー、そうだなぁ」

「…………」

「ん、おっけー。任せとけ」

 と、その少女に向かって言った。

 ……今何か、喋ったか? ……独り言か?

 そう考えているリタの手を、突然、その青年が優しく両手で包んだ。

「なぁ?!」

「いやぁ、あの山には無粋な盗賊などがたまに彷徨(うろつ)いておられましてね。美しい貴女の身の上がこの上なく心配で、1人の紳士としてあなたをお守りしようかと思いまして」

 と、爽やかな笑顔で囁くように言った。

「……貴様、なんだか言語の使い方を間違ってないか?」

 リタはと言うと、なにやら幻滅顔である。

 あの長身が、かなりの低姿勢、言葉通り、平身低頭だった。

「それにあれだろ。あの山は越えるのに1日はかかるし、今争いしてちゃあダメだぁ。あの山を越えるのには協調性が必要! 俺たちが援護(サポート)するぜ!」

「最後までやる気をださんか」

 飽きたのか、途中で青年の口調は変わった。

 ……どうも、この青年達には何か企みがある……ということはリタは元より悟っていたのだが、どうも調子が狂う。

 何故だろうか。

 ……やはり、そういうことは、2人で決めねば、な……。

 少々気まずい顔をしながらも、リタは一刻にもその手を離して欲しいと思っていた。

 なんていうか、ほんとに気まずい。

「と、というか、貴様いつまで私の手を」

「いつまで掴んでるの、銀髪お兄さん」

 そしてリタの言葉は切られた。軽く握られていたので片手でも易々と外されたリタの手を握っていてのは、アスカの白い手袋で包まれた手だった。

「紳士になりたいんなら、それなりの嗜みは心得ておきなよ? というか、まずは名前でも名乗ったらどうなの?」

 そう言って、アスカは握っている手の方を静かに下ろし、優しくリタの手を離した。そしてすぐに、顔をリタから背けた。何か、不機嫌そうだった。

「…………」

 その手を、リタが何気なく見つめていると、

「お、おぉ、悪い悪い! おい、ミカ、ちょっと来い来い」

 と、妙に慌てふためき、その青年はその幼い少女をヒョイッと持ち上げ、自分の前方へと降ろした。その少女は上を見上げ、その青年を見た後、またリタ達に視線を戻す。

「俺はトーヤ! え、えーっと……西の森に住んでた!」

「西の森?」

「あ、あぁ! 今はコイツと旅してる! コイツは連れの――」

 その少女がスッ……と前に出た。

「………………………」

「…………」

「………………」

「で、そっちは、何て名前だ?」

「……え? ……あ、すまない……私はそちらの名を聞こえなかった。君は何という名だ?」

 と、考え事を中断したリタは幼い少女に顔を近づける。それでも少女は微動だにせず、ただただ黙っている。

「どうした? 名を言ってくれなければ、呼べないぞ」

 リタは少女から顔を話し、はきはきと言う。すると、アスカが、


「何言ってるの? リタ。この子、さっきから何回も言ってくれているよ、自分の名前を。その子の名前は、ミカミラ・サウザンダーエル。ちゃんと聞いていなよ」

 

 そう言った。

 平生とした表情で。

 リタは、驚きの表情を隠せなかった。

 え?

 いつ?

 いつその言葉、というか名前が出ていた?

 耳は悪くない方なのだが……。

 と同時に、その幼い少女の表情にとても小さな変化が見られた。そして、それはトーヤにも起こった。

「……す、すげぇ! お前、ミカの声聞こえるんだな! 俺以外で、初めてだよ!」

 かなり興奮気味だった。銀髪と共に、頭に被さっているローブも揺れる。

「…………?」

 しかし、リタ達は頭に疑問符を並べるばかり。

 な、なんだ、こいつ……何を言っているんだ?

「いっやぁなんていうかさ、コイツ、声が小さすぎて、普通の人間にゃあ声なんて聞こえねぇし、表情も読めねえからさ、うわぁ、すげぇすげぇ! お前名前なんて言うの?」

 まるで、初めてサーカスを見たかのような、まるで、初めて誕生日を祝って貰ったかのような、そんな巨体に似合わない子供のような態度の彼に、アスカは若干引き気味に名乗った。

「……アスカ・キリミヤ」

「そうか! アスカか! 悪ぃ! ちょっと一回、ミカが何言ってるか当ててみてくれよ。ミカ、なんか喋ってくれ!」

「えぇー……」

 そう言いながらも、アスカは少女の顔から目を離さない。何故か、それはとても真剣な表情に見えた。

「………………」

「そんなこと言わずにさぁ」

「…………」

「おし! あ、今なんて言った?」

「え……なんかそんなことに意味ある? ……的な」

「おぉ、合ってる。完璧。お前、耳いいんだな!」

「いや、それほどでも」

「アスカはピアニストなんだ。だからじゃないのか?」

 まんざらでもなさそうなアスカに、さらにリタが補足する。

 ……可笑しい。

 しかしながら、本当に、風も何もないときでも、そのミカミラという少女の声というのは、彼女には聞こえなかった。特に普通に話は成り立っているし、アスカが耳が良すぎると言っても、彼はずっと(・・・・・)彼女の後(・・・・)ろにいた(・・・・)のだ。

 ……可笑しい。

 そして、この銀髪の青年も、どうしてそれを聞き取れるのだろうか。

 その厚めのローブは両耳をしっかりと隠しているし、考えられるとしたら……。

「へぇ、そうなのか。ぴあにすとってなんだろうな。それで、君は何て言うんだ?」

「あえて突っ込まないが、貴様今凄いこと言ったぞ……。私は、その……リタと呼んでくれ」

「そうか、可愛い名前だな、リタ!」

「なっ! ……気安く……あ、でも私は愛称しか名乗ってないから私が悪いのか……」

「名前長いんだな、リタは。まぁ大丈夫だ。俺多分お前らよりかなり年上だから。大丈夫だ! なんとかなるなる!」

 無防備すぎる笑顔と、警戒心のない呆れ顔の2人組。

「俺、あの山には馴れてんだ! ほら、迷うと腹が減るだろう? 腹が減るのは耐えられん! なので俺達は、そういう迷いの子羊共を救おうとしているのだ!」

 あの山はよく迷いやすい、というか、樹木達が旅人を迷わせて遊んでいるらしい、と言う噂をよく聞くし、本にもそう載っていた。

 こんな所で時間を取られては、それこそが耐えられない。

「あ、お代とかはいらないからな! 任せろ!」

 早く南に行きたい、それに……此奴らの企みを、確かめた方が良いんじゃないか?

 リタは暫く考えたあと、アスカに提案する。

「あー……アスカ、私は、良いと思うんだが……」

「リタが良いんなら良いんじゃない。でもリタはもう少し警戒した方が良いと思う。特にあそこの銀髪軟派男とか」

 アスカは即答だった。少々不機嫌だった。けれどもリタは少し驚いた表情をして、

「……確かにそうだが」

 彼女は微笑んだ。

「どうせ、お前が守ってくれるだろう?」

「……!」

「それに、急ぐ旅だからな。賛同感謝するぞ」

「り」

「? どうした、アスカ」

「リタが」

「?」

「……リタがデレたー!!」

「え、え、ええ? 何が、何がどうした、アスカ!」

 リタはその用語は知らないらしい。

「生きてて良かった-!」

「ひっつくな!」

 まぁ、とりあえず。

「話まとまったかー?」

「あぁ」

 リタの後ろでゆっくりと立ったアスカがまだ、何かを言いたそうなのを知らず、彼女は了承する。

「貴方達を旅の仮同胞者として歓迎する。謹んで、道先案内人の役割を許可する。……よろしく頼んだ!」

「おう!」

 無邪気に了承したトーヤも、銀髪を揺らし子供のように笑った。

 ミカミラはというと、相変わらずの無表情だが、ゆっくりと、会釈をした。

 その2人の素振りに、あまり企みというようなものは感じられなかった。

 ただ1人、アスカだけが、とあることを知ったために顔を歪ませていた。

 彼だけが気づいていた、彼が聞いたという、彼が読み取った(・・・・・・・)、彼らの事実を。

 リタがそれを知ることになるのは、すぐになることを。



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