第四章 平安王朝文学仮名手書き文字派
綺綺は平安時代の、たとえば、源氏物語のような文体で小説を書く。
しかも、筆を使い手書きの仮名文字で書くのである。
そういう意味では、実在を作品とする、小説の物体化・美術化であり、コンセプチュアル・アートの一端でもあるとも言えた。
書く内容は芸術至上主義的で、アヴァンギャルド寄りな内容が多い。耽美的(BLではないが。いや、BLもあるが)でもある。
それは谷崎潤一郎の『刺青』みたいな意味で耽美的であった。
読み手を選ぶ作風であるが、彼女のキャラのせいで、意外に読者は多い。ブックマークも高評価ポイントも得ている。
また馬琴風に、眼眩くような俚言綺語を弄ぶこともあった。神子斗などはそういうのを見て、文学って奥が深いななどと想うのであった。
なお、話が前後するが、文學倶楽部の部員の作品発表は倶楽部専用サイトで随時行われている。私家版投稿サイトのようなものだ。生徒が代々運営しており、そこで皆、作品を発表する。IDとパウスワードを発行された者しか入れない。「いいね!」や♡やブックマークもできる。評価ptを数値で入れることも可能だ。※評価ptよろしく!
会員は眞神高等学校の生徒のみではない。卒業生も含まれる。
「唐突だけどさー」
綺綺が言った。
「そのままって、ひと。いっぱい、いたんろーね。そん中でも、結構、すごい人もいたりしてさー」
その言葉に眉を顰め、神子斗は、
「何の話?」
彼女がバカっぽい話し方するときって、絶対何かある。神子斗は警戒する。
綺綺は笑い、
「何もないわよ、ゴッホとか、ゴーギャンってさー、生前は全く認められなかったじゃない? 死後に認められて、今じゃ、絵が何億にもなってさあ。
でも、結局、長い歴史を見渡せば、才能を認められないまま、無名のまま、そのままで終わった人だって、ものすごくたくさんいたんじゃないかな?って思ったのよ。
環境や時代や社会が劣悪なせいで、そもそも、作品を創ることもなく終わった人もね、たくさんいたと想うわ。そういう人たちに想いを馳せて上げないとリアルじゃないわ」
「そうだね。でも、君は認められているよ」
「バカ言ってんじゃないわ。この中だけでしょ!」
「彝久紗はこの中でも認められていないよ。
この前も、サウンドだけが直截じゃない、言語だって、文字だって、抽象だって、概念だって、全部それ自体実在で、直截だって言ってたよ。
そんなつまんないこと、いつまでも言ってたら、友だちなくなるよって言ったら、『別に?』だって!」
「そうよ、別にいいじゃない?
誰にも知られなくても、それは実在するわ」
「君が唯一の理解者だね」
「私のコンセプトも、そんなもんよ。でも、どうだっていい。平安の仮名文字・・・美しいわ。昔は文学と書は一体だったのよ。読むこともね。声に出して歌う。和歌は読み上げてこそだわ。
声音と文字とその内容とで。
それで十分だわ。結局、全て想いでしかない。
評価する人もされる人も皆、勝手に空想しているだけよ。
共同幻想ね」
「そだね。
虚しいね」
「別に?
虚しくないわ。
楽しいわよ。
実際、楽しんでいる。
実在派が真実であろうが、虚構であろうが、大差ないわ。幸福よ」
神子斗は綺綺は向日葵みたいな人だと想った。
だから、人から認められるんだよな、・・・って。
でもさ、綺麗だよなあ、仮名文字って。何だか、平安調と言えば、平安調なんだけれども、最近の綺綺って、本阿弥光悦の書みたいだなあ・・・
などと空想するのであった。




