第223想 帝国連合軍残党『アイゼン・レギオン』総帥!”ヴォルフ・アイゼン”
――魔導客船テティス・簡易指令室。
重厚な鋼鉄の扉がゆっくりと開く。
ギィィィ……
室内では通信兵や操舵士達が慌ただしく動き回っていた。
ヴォルフの姿を見るや、一斉に敬礼する。
「総指揮官!お帰りなさい!」
ヴォルフは軽く頷き、そのまま中央の指揮卓へ向かった。
壁一面に並ぶ魔導モニターには、船内各所の戦況が映し出されている。
「状況を報告しろ。」
通信兵が即座に答える。
「はっ!敵戦力が各区画へ侵入!
拘束していた人質の大半を解放されました!」
「各部隊は現在も交戦中!」
別の兵士が続け、ヴォルフは静かにモニターを見つめる。
「……そうか。」
短い返答、その表情に焦りはない。
映像には、大ホールで暴れる砕牙、鉄重、爆弾の捜索を進めるレイリアス達、
そして別の画面では、雪村と真田がそれぞれ敵を足止めしている様子も映し出されていた。
ヴォルフはわずかに目を細める。
「……時間は稼いでくれているようだな。」
そして、船外を映すモニターへ視線を移す。
そこには、海中で待機する予備潜水艦隊を示す光点が静かに並んでいる。
ヴォルフは静かに命じた。
「予備潜水艦隊へ回線を開け、頃合いだ。」
「はっ!」
通信兵は魔導通信装置へ魔力を流し込む。
「こちら旗艦テティス。予備潜水艦隊へ総指揮官命令、応答願います。」
しかし返ってきたのは、耳障りな雑音だけだった。
「……駄目です、応答がありません。」
通信兵の表情が曇る。
「もう一度だ。」
ヴォルフは静かに目を細める。
その一言と共に、指令室の空気がわずかに張り詰めた。
「はっ!潜水艦隊!応答してください!」
しかしやはり返ってくるのは、耳障りな雑音だけ……。
その時、別の通信兵が顔色を変えた。
「総指揮官!緊急映像が入りました!」
暗い深海の海を進む帝国潜水艦隊。
その時、海底の彼方から、一筋の紅い光が走る。
「……何だ?」
次の瞬間、ゴォォォォォッ!!っと
海中とは思えぬ灼熱の炎が噴き上がった。
「ば、馬鹿な!炎だと!?」
炎は鳳凰の姿を描きながら海を翔ける。
その中心には、一人の女性。
優雅に扇子を広げる校長の一人”紅蘭”が海上に立っていた。
「見つけましたわ。」
静かな微笑み。
パチン、と扇子を閉じる。
『南天に宿りし鳳凰よ。その神炎を翼に宿し、天地を舞え。
一扇は命を与え、一扇は万軍を焼き尽くす。』
《最上級炎魔法 天武・鳳凰炎熱舞》
巨大な火が鳳凰のように翼を広げ、潜水艦が次々と爆炎に包まれる。
一隻、二隻、三隻……と瞬く間に沈んでいく。
「回避ぃぃ!!」
「間に合いません!!」
「ぎゃあああああ!!」
魚雷庫が連鎖爆発を起こし、海底が赤く燃え上がった。
「これで……片付きましたわね。」
紅蘭は静かに目を閉じる。
――指令室
映像が途切れ、通信兵の顔は真っ青だった。
「予備潜水艦隊……。全滅しました。」
兵士達は言葉を失う。
「……そうか。」
ヴォルフだけが短く呟き、ゆっくりと窓の外を見る。
「潜水艦隊も失ったか……。」
ヴォルフは静かに机へ歩み寄り、
その上にある魔導起爆装置にそっと手を添える。
「人質も解放され、潜水艦隊も封じられた。ならば残された手段は一つ……。」
部下達が息を呑む。
「最後の命令だ。総員撤退せよ。」
兵士達が目を見開く。
「し、しかし総指揮官!、雪村隊長と真田隊長が、まだ……!」
「承知している。」
ヴォルフは淡々と答える。
「ホールへ向かえ。そして現在戦闘中の全部隊は退路の確保に努め、
頃合いを見てこの船より撤退せよ。」
一人の兵士が震える声で言う。
「……総指揮官は?」
ヴォルフは静かに起爆装置へ視線を落とした。
「私は残る。」
それだけで、全員が悟った。
この人は――船と共に沈むつもりだと。
「……。」
兵士達は唇を噛む。
「……承知しました。」
「どうか、ご武運を。帝国に栄光あれ!」
兵士達は一斉に敬礼した。
ヴォルフは背を向けたまま、小さく頷く。
「ああ、……帝国に栄光あれ。」
兵士達は最後の敬礼を終えると、静かに指令室を後にした。
扉が閉まり、広い指令室に残ったのはヴォルフ、ただ一人。
静寂が流れ、彼はゆっくりと起爆装置を手に取った。
「帝国の火はまだ消させぬ……。」
その時だった――
ドゴォォォン!!っと指令室の入口が轟音と共に吹き飛ぶ。
爆風が室内を駆け抜け、無数の破片が宙を舞う。
立ち込める白煙、その向こうから一人の少年燈也が姿を現す。
彼はヴォルフだけを見据え、ゆっくりと構える。
「……ようやく追いついた。」
静かな足音だけが指令室へ響く。
「ヴォルフ!これ以上、お前の好き勝手にはさせねぇ!!
お前の野望を止めて、この船も仲間も全部俺が守る!!」
燈也の声が室内に響き渡る。
真っ直ぐな叫び、その瞳には強い意思が宿っている。
ヴォルフは焦りも驚きの表情もせず、ただその姿をゆっくりと見定める。
「まさか、ここまで辿り着くとは……。」
ヴォルフは手にした起爆装置へ視線を落とし、小さく息を吐いた。
「……いいだろう。」
起爆装置をゆっくりと懐へしまい、燈也が目を見開く。
「では見せてもらおう……。貴様にこの私を止める力が本当にあるのかどうかを。」
指令室で二人の視線がぶつかる。
張り詰めた空気が、決戦の始まりを告げていた――
次回予告 『第224想 決戦!それぞれの戦場』
時限爆弾のタイムリミットは、残り三時間。
ヴォルフとの決戦がついに幕を開ける。
一方、大ホールでは雪村の圧倒的な剣技に鉄景と凛が苦戦を強いられていた。
それでも互いに譲れないものがある。
理想か、祖国か――
信念と信念が激突する時、戦いはさらに激しさを増していく




