表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Himeyuri ―魔法を嫌う元学園最強の主人公ー  作者: 小鳥遊 千夜
第六章 マジック・ウィザード・トーナメント前夜祭――魔導客船テティス編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
222/230

第221想 狂信の刃!雪村誠司

 

 雪村(ゆきむら)は燈也達を追おうと一歩踏み出す。


 だが、ドォンッ!!

 鉄景(てつかげ)の拳が床を砕く。


『穿て大地、守り抜け――』

 ≪上級岩魔法 岩壁城塞(グラン・ウォール)!!≫


 轟音と共に巨大な岩壁が隆起し、通路を完全に塞いだ。


「お前の相手は俺達だ!!」


 雪村は答えず、ただ燈也達が消えていった通路だけを見つめていた。


 数秒の静寂。

 その沈黙が、かえって場の空気を重くする。


 やがて。


「……私としたことが……」


 ギリッ……

 軍刀の柄が軋むほど強く握り締められた。


「邪魔者を通してしまった……。」


 ビキィッ!!

 雪村の足元から床がひび割れ、同時に押し殺されていた殺気が爆発する。


「あああああッ!!なんたる不覚ッ!!!!」


 怒号が大ホールを震わせ、帝国兵達でさえ思わず肩を震わせ、身を固くした。


「……。」

 鉄景が眉をひそめ、凛も思わず息を呑む。

 

 雪村の激情は、まるで堰を切った濁流だった。

 しかし、その激流は突然止まる。


 雪村は静かに目を閉じた。

「……失礼。」


 深く息を吸い込み、荒れ狂っていた殺気が少しずつ収束していく。


 そして再び目を開いた時、

 そこにいたのは、先ほどまで激情を露わにしていた男ではない。

 任務だけを見据える、いつもの冷酷な姿だった。


「感情に呑まれるとは……未熟でした。」


「そこまでの忠義を尽くすのか?」

 鉄景が静かに口を開く。


「当然です。ヴォルフ閣下は帝国最後の希望。私がこの命を捧げるに値する唯一のお方です。」

 雪村は迷いなく答える。


「……そこまで人を神格化するなんて。」

 凛は小さく首を振った。


()()()……?」

 その一言で、雪村の瞳が細くなり、空気が凍った。


「今、何と仰いました?」


 鉄景が凛を庇うように一歩前へ出る。

「悪いが俺達から見れば、お前は利用されているだけだ。」


 ピタリと、雪村の動きが止まる。


 長い、長い沈黙。


「…………訂正しなさい。今ならまだ赦しましょう。」

 雪村は静かに口を開いた。


「断る、ヴォルフは人質を盾に世界を脅している。そんな奴を正しいとは思えない。」

 鉄景は首を横へ振る。


 雪村は再び目を閉じた。

「……そうですか。」


 ゆっくりと軍刀を抜き放つ。


 キィン……


 澄み切った刀身が静かに輝く。


「やはり、貴様らは危険思想の持ち主だ……。」


 その声音は静かだった、先ほどの怒号とは対照的なほどに。

 だからこそ、底知れない冷たさがあった。


「ヴォルフ閣下を侮辱し、帝国を穢す者は、この雪村誠司がここで処刑する!!!!」


 ギィン……

 刀身が鈍く鳴った。


「帝国式雪村流剣術――」


 雪村の姿が掻き消える。


 ≪無間!!≫


 音を置き去りにした一閃が放たれる。


「黒鉄殿っ…!!」


「分かってる!」

 鉄景は咄嗟に両腕を交差させ、そのまま拳を地面へ叩きつけた。


『穿て大地、守り抜け――』

 ≪上級岩魔法 岩壁城塞(グラン・ウォール)!!≫


 ゴゴゴゴゴゴッ!!


 分厚い岩壁が幾重にも隆起し、鉄景と凛の前へ巨大な城塞を築き上げる。


 だが、高周波軍刀が岩壁へ触れた、その瞬間だった。


「なっ……!」


 ズバァァァン!!

 岩壁は抵抗する間もなく、一刀のもとに両断される。


 まるで紙を裂くような斬撃。


「ぐっ!」


 鉄景は咄嗟に腕を交差し、その衝撃を受け流そうとするが、

 床を削りながら十数メートル後方まで押し込まれ、腕には鈍い痛みが走る。


「俺の岩壁を……一太刀とはな……。」


 鉄景が低く呟く。


「防御とは、突破するためにあります。」

 雪村は歩みを止めずに、まるで当然のことをしたと言わんばかりに冷たい声が響く。



「まだだ…今度はこちらから行く!」

その言葉と同時に、今度は凛が雪村の懐へ飛び込んだ。


 ≪白金流格闘術――『威風』!≫


 鋭い正拳、圧縮された衝撃波が一直線に雪村を貫く。


 しかし、雪村は身体を半歩ずらしただけだった。

 衝撃波は頬を掠め、そのまま後方の壁を吹き飛ばす。


 ドォォォン!!


「遅い。」

 低く呟くと同時に、凛の懐へ潜り込む。


≪帝国式雪村流剣術――修羅!!≫


 横薙ぎの一閃。


「なっ…!」


≪白金流格闘術――不動!!≫

 凛は咄嗟に両腕を硬化させる。


 鋼と鋼がぶつかるような轟音。


「……っ!」


 だが衝撃の全ては殺しきれず、凛の身体が数メートル弾き飛ばされた。


 袖口には一本の刀傷。

 あと数センチ深ければ、腕ごと斬り落とされていた。


「大丈夫か?」

 鉄景がすぐ隣へ並ぶ。


「はい……なんとか。」

 凛は袖へ視線を落とし、小さく息を吐く。



 ――その姿を、少し離れた場所で校長の砕牙が見ていた。

 帝国兵を片手で殴り飛ばしながら、その鋭い一閃を目にする。


「……アイツは少しヤベェな。」

 思わず低く漏れた。


 雪村誠司――あの剣は強い。

 速さだけではない、戦場で命を奪うためだけに磨かれた、完成された剣。


 今から割って入れば、二人を助けられる、そんな考えが脳裏をよぎる。


 だが、鉄景も凛も一歩も引かずに立ち向かっている。

 その瞳に宿るのは恐怖ではなく、静かな覚悟。


 砕牙は口元をわずかに緩める。


 ……そうか、もう俺らが守ってやるだけのガキじゃねぇんだな。


 信じて見届けることも、教師の務め――


 なら、ここは俺の出る幕じゃねぇ。


 (見せてみろ、お前らが積み重ねてきたものを!!)


 砕牙は雪村から視線を外す。

 そして再び帝国兵の群れへ身体を向けた。


「おらぁぁぁっ!!」


 ドゴォォォン!!

 一撃で数人の兵士が宙を舞う。



 鉄景と凛を見据え、雪村は軍刀を静かに構え直す。

「時間をかけるつもりはありません、次で終わりにします。」

 その瞳には一切の揺らぎはない。


次回予告 『第222想 帝国軍残党最強の剣士!真田龍牙』


 ヴォルフを追う燈也達の前に現れたのは、帝国軍残党最強の剣士・真田龍牙。

 ベルガと紅音は燈也を先へ進ませるため、自ら最後の壁へ挑む!

 そして燈也は仲間の想いを背負い、ついにヴォルフとの決戦へ!


 それぞれの決戦が、今始まる!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ