第221想 狂信の刃!雪村誠司
雪村は燈也達を追おうと一歩踏み出す。
だが、ドォンッ!!
鉄景の拳が床を砕く。
『穿て大地、守り抜け――』
≪上級岩魔法 岩壁城塞!!≫
轟音と共に巨大な岩壁が隆起し、通路を完全に塞いだ。
「お前の相手は俺達だ!!」
雪村は答えず、ただ燈也達が消えていった通路だけを見つめていた。
数秒の静寂。
その沈黙が、かえって場の空気を重くする。
やがて。
「……私としたことが……」
ギリッ……
軍刀の柄が軋むほど強く握り締められた。
「邪魔者を通してしまった……。」
ビキィッ!!
雪村の足元から床がひび割れ、同時に押し殺されていた殺気が爆発する。
「あああああッ!!なんたる不覚ッ!!!!」
怒号が大ホールを震わせ、帝国兵達でさえ思わず肩を震わせ、身を固くした。
「……。」
鉄景が眉をひそめ、凛も思わず息を呑む。
雪村の激情は、まるで堰を切った濁流だった。
しかし、その激流は突然止まる。
雪村は静かに目を閉じた。
「……失礼。」
深く息を吸い込み、荒れ狂っていた殺気が少しずつ収束していく。
そして再び目を開いた時、
そこにいたのは、先ほどまで激情を露わにしていた男ではない。
任務だけを見据える、いつもの冷酷な姿だった。
「感情に呑まれるとは……未熟でした。」
「そこまでの忠義を尽くすのか?」
鉄景が静かに口を開く。
「当然です。ヴォルフ閣下は帝国最後の希望。私がこの命を捧げるに値する唯一のお方です。」
雪村は迷いなく答える。
「……そこまで人を神格化するなんて。」
凛は小さく首を振った。
「神格化……?」
その一言で、雪村の瞳が細くなり、空気が凍った。
「今、何と仰いました?」
鉄景が凛を庇うように一歩前へ出る。
「悪いが俺達から見れば、お前は利用されているだけだ。」
ピタリと、雪村の動きが止まる。
長い、長い沈黙。
「…………訂正しなさい。今ならまだ赦しましょう。」
雪村は静かに口を開いた。
「断る、ヴォルフは人質を盾に世界を脅している。そんな奴を正しいとは思えない。」
鉄景は首を横へ振る。
雪村は再び目を閉じた。
「……そうですか。」
ゆっくりと軍刀を抜き放つ。
キィン……
澄み切った刀身が静かに輝く。
「やはり、貴様らは危険思想の持ち主だ……。」
その声音は静かだった、先ほどの怒号とは対照的なほどに。
だからこそ、底知れない冷たさがあった。
「ヴォルフ閣下を侮辱し、帝国を穢す者は、この雪村誠司がここで処刑する!!!!」
ギィン……
刀身が鈍く鳴った。
「帝国式雪村流剣術――」
雪村の姿が掻き消える。
≪無間!!≫
音を置き去りにした一閃が放たれる。
「黒鉄殿っ…!!」
「分かってる!」
鉄景は咄嗟に両腕を交差させ、そのまま拳を地面へ叩きつけた。
『穿て大地、守り抜け――』
≪上級岩魔法 岩壁城塞!!≫
ゴゴゴゴゴゴッ!!
分厚い岩壁が幾重にも隆起し、鉄景と凛の前へ巨大な城塞を築き上げる。
だが、高周波軍刀が岩壁へ触れた、その瞬間だった。
「なっ……!」
ズバァァァン!!
岩壁は抵抗する間もなく、一刀のもとに両断される。
まるで紙を裂くような斬撃。
「ぐっ!」
鉄景は咄嗟に腕を交差し、その衝撃を受け流そうとするが、
床を削りながら十数メートル後方まで押し込まれ、腕には鈍い痛みが走る。
「俺の岩壁を……一太刀とはな……。」
鉄景が低く呟く。
「防御とは、突破するためにあります。」
雪村は歩みを止めずに、まるで当然のことをしたと言わんばかりに冷たい声が響く。
「まだだ…今度はこちらから行く!」
その言葉と同時に、今度は凛が雪村の懐へ飛び込んだ。
≪白金流格闘術――『威風』!≫
鋭い正拳、圧縮された衝撃波が一直線に雪村を貫く。
しかし、雪村は身体を半歩ずらしただけだった。
衝撃波は頬を掠め、そのまま後方の壁を吹き飛ばす。
ドォォォン!!
「遅い。」
低く呟くと同時に、凛の懐へ潜り込む。
≪帝国式雪村流剣術――修羅!!≫
横薙ぎの一閃。
「なっ…!」
≪白金流格闘術――不動!!≫
凛は咄嗟に両腕を硬化させる。
鋼と鋼がぶつかるような轟音。
「……っ!」
だが衝撃の全ては殺しきれず、凛の身体が数メートル弾き飛ばされた。
袖口には一本の刀傷。
あと数センチ深ければ、腕ごと斬り落とされていた。
「大丈夫か?」
鉄景がすぐ隣へ並ぶ。
「はい……なんとか。」
凛は袖へ視線を落とし、小さく息を吐く。
――その姿を、少し離れた場所で校長の砕牙が見ていた。
帝国兵を片手で殴り飛ばしながら、その鋭い一閃を目にする。
「……アイツは少しヤベェな。」
思わず低く漏れた。
雪村誠司――あの剣は強い。
速さだけではない、戦場で命を奪うためだけに磨かれた、完成された剣。
今から割って入れば、二人を助けられる、そんな考えが脳裏をよぎる。
だが、鉄景も凛も一歩も引かずに立ち向かっている。
その瞳に宿るのは恐怖ではなく、静かな覚悟。
砕牙は口元をわずかに緩める。
……そうか、もう俺らが守ってやるだけのガキじゃねぇんだな。
信じて見届けることも、教師の務め――
なら、ここは俺の出る幕じゃねぇ。
(見せてみろ、お前らが積み重ねてきたものを!!)
砕牙は雪村から視線を外す。
そして再び帝国兵の群れへ身体を向けた。
「おらぁぁぁっ!!」
ドゴォォォン!!
一撃で数人の兵士が宙を舞う。
鉄景と凛を見据え、雪村は軍刀を静かに構え直す。
「時間をかけるつもりはありません、次で終わりにします。」
その瞳には一切の揺らぎはない。
次回予告 『第222想 帝国軍残党最強の剣士!真田龍牙』
ヴォルフを追う燈也達の前に現れたのは、帝国軍残党最強の剣士・真田龍牙。
ベルガと紅音は燈也を先へ進ませるため、自ら最後の壁へ挑む!
そして燈也は仲間の想いを背負い、ついにヴォルフとの決戦へ!
それぞれの決戦が、今始まる!




