第219想 眠れる獅子
――魔導客船テティス 大ホール
帝亜達の乱入によって、帝国残党兵の意識は人質から完全に逸れていた。
それは、ずっと待ち続けていた者達にとって唯一の好機。
反撃の狼煙が静かに上がる。
「……ようやくか。」
低く響く声に帝国兵の一人が目を見開いた。
「なっ!?……!」
ミシッ……バキィィィン!!
魔力拘束具が、まるで紙細工のように砕け散る。
「ば、馬鹿な!拘束具を素手で!?」
「ガハハハハッ!!良くやった、小僧共!!」
学園長の”砕牙”は首を鳴らしながら豪快に笑う。
ズドォォォォン!!
一歩踏み出しただけで床が陥没する。
「しまっ──」
兵士が銃を向けるより早く、砕牙の拳が唸った。
ドゴォォォォォン!!
空気が爆ぜ、拳圧だけで数人の帝国兵がまとめて吹き飛び、壁へ激突した。
「ぐあぁぁぁっ!!」
「ば……化け物だ!」
「何なんだ、このジジイは!」
砕牙は豪快に笑う。
「誰がジジイだっ…!!俺はまだまだ若いわ!!」
兵士達が慌てて引き金を引き、銃弾が飛ぶ。
だが、砕牙は人質の前へ一歩踏み出した。
「そんな豆鉄砲で、俺を傷付けられると思ったか?」
拳を振るい、巻き起こった衝撃波だけで銃弾の軌道が逸れ、天井へ弾かれていく。
「なっ!?銃弾が……逸れた!?」
砕牙は兵士の懐へ潜り込む。
「おい…お前ら…。」
銃身を片手で掴む。
ミシ……グシャァァァ!!
鋼鉄の銃が握力だけで握り潰された。
「そんなの振り回して、ガキ共に当たったらどうする?」
「ひぃっ!!」
兵士は腰を抜かし、砕牙の拳が腹へめり込む。
ドォォォン!!
兵士は十数メートル吹き飛び、そのまま気絶した。
「クソ……ひ、人質を盾にしろ!!」
一人の兵士が叫び、周囲の兵士達が一斉に人質へ銃口を向ける。
「…遅いのう。」
同じく校長の鉄重の静かな声が響く。
拘束具は、すでに足元へ砕け落ちている。
「ワシらを誰だと思っとる。学園を預かる校長じゃぞ?」
杖で床を軽く叩き、床が唸る。
『山は動かず。岩は語らず。
千年の時を越え、不動の理ここに在り。北方を鎮めし神獣よ、その堅牢を我が前に示せ――』
≪最上級土魔法 玄武・金剛壁!!≫
大ホール全体が震え、人質を囲む床が隆起し、巨大な岩壁が幾重にも重なっていく。
まるで巨大な城塞であり、最後の一枚が閉じた瞬間。
ダダダダダダダッ!!
無数の銃弾が岩壁へ叩き込まれるが、傷一つ付かない。
「嘘だろ!?破壊できない!?」
「ほっほっほ。守りは老人の役目じゃ。」
鉄重は穏やかに笑った。
その隣で校長の紅蘭が優雅に扇を広げると、淡い光が人質全体を包み込んだ。
「皆さん、安心してください。ここから先は私達教師の時間です。」
ふわりと柔らかな光が一人、また一人と人質を包み込む。
傷付いた者の傷が癒え、震えていた生徒達の表情が少しずつ落ち着いていく。
「怪我が治っていく……。」
「先生……」
生徒達の瞳に希望が戻る。
燈也達もその光景を見つめ、思わず息を呑む。
「すごい……!これが先生達の魔法……!」
怜花も思わず息を呑む。
「これほど広範囲に……しかも同時に治癒と防御を……。」
「くぅ~! やっぱスゲェな、校長達は!」
ベルガは豪快に笑う。
「……ああ。これが、SSランク。俺達とは次元が違う。」
燈也は拳を握り締めた。
「ええ。悔しいですけれど……。雲の上の存在とは、まさにこの方達のことですわね。」
紅音も静かに頷く。
「さて、帝国の亡霊共、ここからは大人の喧嘩だ。」
砕牙は拳を鳴らしながら、不敵に笑う。
その一歩に合わせるように、ホール全体へ凄まじい威圧感が広がり
帝国兵達は思わず一歩後ずさった。
校長達の参戦で戦況は完全に逆転しようとしていた――
次回 『第220想 『託された使命』
校長たちの参戦により、戦況はついに逆転。だがヴォルフは次の一手を打つ。
船内に残された最後の装置。その起動を阻止するため、燈也たちは再び走り出す。
そこに、幹部の雪村が立ちはだかる。




