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Himeyuri ―魔法を嫌う元学園最強の主人公ー  作者: 小鳥遊 千夜
第六章 マジック・ウィザード・トーナメント前夜祭――魔導客船テティス編

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第217想 交わらぬ答え

 

 ――魔導客船テティスの大ホール。

 数百人もの人質が膝をつかされ、帝国兵の銃口に囲まれていた。


 その最前列に燈也達がゆっくりと前へ歩き出す。


 壇上では、一人の男が静かに立っている。

 黒い軍服に年季の入った軍刀、歴戦を物語る鋭い眼差し。


 周囲には幹部の雪村(ゆきむら)真田(さなだ)が率いる部隊の兵士達が並び、

 人質へ銃口を向けていた。


「ようこそ。逃げずに来たか。」

 男は燈也達を見ると、小さく口元を緩めた。


「約束通りに来た。人質は無事なんだろうな。」

 燈也は真っ直ぐ見据える。


「安心したまえ。私は約束は守る人間だ。」

 男は静かに頷く。


 場の空気がさらに重くなる。


「お前が親玉だな?」

 ベルガが睨みつける。


「ああ。……改めて私は帝国連合軍残党アイゼン・レギオンの総指揮官の”ヴォルフ・アイゼン”だ。」


 軍帽へ軽く手を添え、ヴォルフが四人を順番に見渡す。


「君達のことは報告で聞いている。帝国軍幹部を二人も討ち取ったようだな…。

 学生とは思えぬ実力、敵ながら賞賛に値する。」


「挑発のつもりかよ?」

 ベルガが警戒をしながら返す。


「いや、そのようなつまらぬものはせぬ。

 私は敵であれ、純粋に評価しているだけだ。」


 ヴォルフが冷静に返しその視線が先頭の少年へ向く。


「君達ほどの人材なら、帝国にも欲しいと思えるほどにな……。」


「御託はいい、さっさと要件を言え!」

 燈也は表情を変えない。


「では本題だ。……君達を解放しよう。」

 ヴォルフは静かに続ける。


 その一言で、人質全員が顔を上げた。

「え……?本当か……?」


「ああ。君達に恨みはない。君達は未来ある若者だ。

 不要な血は流したくない。大人しくここを去るのだ。もっとも…」

 ヴォルフは振り返った。


 視線の先には、膝をつく要人達。


 政治家、財界人、その他の著名人……誰もが青ざめている。


「全員では無いがな…。彼らは世界へ宣戦布告するための礎となる。

 帝国は滅んではいない、それを世界へ示す。そのためにな…。」


 その言葉に要人が叫び出す。

「ま、待ってくれ!学生だけ助けるだと!?」


「そんな馬鹿な話があるか!」


「そうだ、そうだ。私は国家議員だぞ!

 学生なんかより私の方が価値がある!」


「国家を動かしているのは我々だ!」


「学生などまた育てれば済む!まず我々を解放しろ!」



 そして今度は一人の実業家が燈也達へ怒鳴る。


「君達は若い!未来がある!

 だったら我々を助けるために犠牲になれ!」


 さらに別の男が喚く。


「そうだ!私には会社がある!私を助けろ!学生などどうでもいい!」


 その醜い叫びに、学生達は誰も言葉を失った。


「……ヒデェ…自分達だけかよ……。」

 郷夜(ごうや)も唇を噛む。


「……最低ね。あれが大人がやる事なの。」

 流水(るみ)は拳を震わせる。


「……なるほど。この国が何故ここまで腐ったのか、よく分かる。」

 ヴォルフは要人達を冷めた目で見下ろす。


「き、貴様!何を偉そうに!」

 その言葉に要人達が顔色を変える。


「敗戦国の残党風情が!貴様らなど歴史の敗北者だ!」


 次の瞬間、銀色の閃光が走り――


 ドサリ。っと男の身体が崩れ落ち首が床へ転がった。


「ひっ……!」


「きゃああああ!」


 会場が凍り付き、悲鳴だけが響く。


 軍刀を納めた雪村が無言で下がり、ヴォルフは小さく息を吐く。

「すまない。騒がしい者は苦手でね。」


 その一言だけだった。


 誰も二度と口を開こうとしない。


 静寂の中で、ヴォルフは再び燈也達を見る。


「さて。返事を聞こう。」


「……断る。」

 燈也は迷わなかった。


「俺達だけ助かる。そんな選択をするくらいなら、最初からここへは来ない。」


「へへッ!そういうことだ。悪いな。俺達は仲間を見捨てる趣味はねぇ。」

 ベルガが笑う。


「ああ、同感だ。」

 鉄景(てつかげ)も一歩前へ出る。


「全員で帰る。それが私達の答えですわ。」

 紅音(あかね)は静かに頷いた。


 ヴォルフは四人をじっと見つめ、やがて小さく笑った。

「フッ…そうか。君達は期待を裏切らんな。

 その覚悟、その信念。敵であることが惜しい。」


 ゆっくりと軍刀へ手を掛ける。

「君達ほどの逸材。帝国に迎えたかった、だが…。」


 鞘から鋼が抜き放たれ、ヴォルフの瞳からわずかに残っていた柔らかさが消える。


「任務は任務だ。……帝国の未来を阻むなら、私は容赦しない。」


 その切っ先を燈也へ向ける。


「少年。君達には敬意を払い全力で排除させてもらう。」


「総員、戦闘準備!これより帝国の敵を排除する!!」



次回  『第218想 起死回生の一手』


帝国軍の猛攻に防戦一方となる燈也たち。

絶体絶命の窮地へ、頼れる仲間たちがついに合流!戦場に生まれたわずかな隙が、逆転への第一歩となる。

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