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Himeyuri ―魔法を嫌う元学園最強の主人公ー  作者: 小鳥遊 千夜
第六章 マジック・ウィザード・トーナメント前夜祭――魔導客船テティス編

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216/232

第215想 技術だけでは届かない

 

 残された外骨格の左腕ユニットが、再び赤い光を放ち始めた。


 ウィィィィン……


 低い駆動音が地下通路へ響き、幾重にも重なった装甲がゆっくりと展開していく。

 その中心部から姿を現したのは、一つの漆黒の球体だった。


 まるで闇そのものを閉じ込めたような、不気味な黒。


「……まだ隠していたのね。」

 帝亜は眼鏡の奥の瞳を細める。



 神代(かみしろ)は静かに球体へ視線を向けた。


「本来なら、これは使いたくありませんでした。」


「最後の切り札……というわけね。」


「ええ。対S級魔導士用兵装”試作零号機アーク・ジャマー”です。」

 神代は淡々と頷く。


 黒い球体が高速回転を始め、空間そのものが震える。


「……!」

 帝亜の身体から魔力が乱れ、眉をひそめる。


「何だ……?身体が重い……。魔力が吸われてるのか?」

 同様に英明も異変を感じる。


「惜しいですね、吸収しているわけではありません。」

 神代は初めて口元をわずかに吊り上げる。



「周囲一帯の魔力場を強制的に乱します、魔力制御、魔法陣、その全てを阻害する。

この空間では、魔法使いは本来の性能を発揮できません。」

 球体を見つめながら説明する。

 

「……なるほど。だから対魔法兵器。」

 帝亜は静かに周囲を見回す。


「ええ、魔法だけが絶対ではない、それを証明する。私の最高傑作ですよ。」

 神代はゆっくりと歩き出し背部ユニットが大きく展開した。


 ガコンッ!


 大型レールガンが姿を現し青白い電撃が砲身を走る。


 バチバチバチッ!!


「消えなさい。」

 神代が超高速の砲撃が一直線に放たれる。


「部長!狙われるぞ!」

 英明は迷わず、帝亜の身体を抱え込むように横へ飛んだ。


 ズガァァァァン!!


 二人の背後を砲撃が貫く。

 鉄骨が一直線に吹き飛び、壁へ巨大な穴が開いた。


「精度が足りませんでしたか。魔力制御されながらあれだけ動けるとは…。」

 神代は静かに息を吐く。


「ですが、こうしている間にも魔力の乱れは大きくなっていく。

 避けるだけでは不利になるだけですよ?」


「そうね。でも…一つ分かったわ。」

 帝亜はゆっくり立ち上がり、眼鏡を押し上げる。


「……何でしょう?」


「その装置、本体との同期を維持しないと最大出力を出せない。」


 神代の表情がほんのわずかだけ変わる。


「……さすがですね。お察しがいい。これは試験機、完全とは言えない。

 ですが、それが事実だとしてもあなた達にはどうする術も無いのでしょう?」


「何か手はあるのか?」

 英明が短く尋ねる。


「ええ。でも真正面からじゃ無理。隙を作る必要がある。」


「分かった。任せろ。」

 工藤が帝亜の意を汲んだように刀に手を構える。


「残念ですが、魔法も満足に使えない状況であなた達に勝ち目はありませんよ」

 神代は薄く笑い、レールガンが再び唸りを上げた。


 ドォン!!ドォン!!


 連続砲撃が地下通路を蹂躙する。


 英明が砲撃を搔い潜りながらチャンスを狙う。

「今だ!」


≪神楽流体術 黒鴉(くろからす)

 天井や壁を蹴り視界から消えながら、死角から一気に神代へ迫る。


 ガキンッ!!

 英明の刀が左腕のユニットに弾かれる。


「甘いですね。」


「狙いはお前じゃない。」

 しかし、英明は笑う。


「何を戯言を、これであなたは終わりです!」


 神代の銃が英明を貫く。


 パキンッ!!


 貫かれたのは英明ではなく漆黒の球体――”試作零号機アーク・ジャマー”であった。


「馬鹿な……どういうことです!」


七彩(プリズム・)月化(ルナフォーム)

 ……あなたが目を話した隙にその球体を工藤クンの姿に変えさせて貰ったわ」

 帝亜が微笑む。


「そういうことだ。」


「くっ………この私が!」

 神代が目を見開く。


 空間を乱していた力が消え失せた。帝亜達の魔力が一気に戻っていく。


「これで形勢逆転よ。」

 帝亜が左手を掲げ、闇が一点へ収束する。


≪最上級魔法 黒月(エクリプス・)雷砲(バルバロス)!!≫


 ズバァァァァッ!!


 黒雷が弾丸となり一直線に駆け抜け、ユニットを貫く。


 更に英明が続く。

≪|神楽一刀流(かぐらいっとうりゅう) 参式・瞬!!≫

 必殺の居合が関節を狙い、外骨格が耐え切れず砕け散る。


「ばっ…馬鹿なァァァ!!!」

 神代が初めて大きく声を上げ、膝をついた。

 装甲片は通路へ飛び散り、白い煙が立ち昇る。


「……見事です。技術だけでは……。届きませんでしたか。」

 荒い息を吐きながら、それでも彼は笑っていた。


「違う、お前の技術は本物だった。だが…」

 英明は静かに刀を鞘へ納める。


「人を相手にするなら、計算だけじゃ勝てない。」


 帝亜も静かに神代を見つめる。

「ええ……。技術も魔法も、最後に勝敗を決めるのはそれを扱う()()

 あなたはそれを見誤ったのよ。」


 神代は静かに目を閉じ、小さく笑う。

「フフッ……そうかもしれませんね……。」



次回 『第216想 軍人として、人として』


帝国残党軍幹部・神代との戦いは、ついに決着を迎える。

敗れた彼は最後の瞬間、帝亜たちへ一つの忠告を残す。


船内に仕掛けられた脅威、迫るタイムリミット。

そして二人の前に現れる、思いもよらぬ人物とは――


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