第213想 最後通告
幹部の一人”鬼堂剛鉄”が倒れた――
その報せは、わずか数分で帝国残党軍全体へと伝わった。
簡易司令室。
船内の一室を急造して作られた指揮所では、通信機器が慌ただしく鳴り続けている。
「そんな……鬼堂隊長が…。まさか、本当に……。信じられません……。」
一人の通信兵が青ざめる。
「風谷隊長に続いて鬼堂隊長まで……。」
「相手は一体何者なんだ……。」
部屋のあちこちでも動揺が広がる。
兵士たちにとって、幹部達は"負ける姿が想像できない男"だった。
その幹部が二人も敗れた、この事実は兵士たちの士気を確実に揺るがしていた。
そんな空気を、一人の男が断ち切る。
「静まれ。」
総指揮官の”ヴォルフ・アイゼン”が鋼のような眼差しで部下たちを見渡す。
「動揺するな、戦場では想定外など日常だ。風谷も鬼堂も……。帝国の誇る優秀な軍人だった。
その功績は決して色褪せることはない。」
一拍置く。
「そう、戦死は敗北ではない。目的を見失った時こそが敗北だ。」
兵士たちの視線が集まる。
「我々の目的は、帝国の再興。それを世界へ帝国の意思を示すこと。
それは今も何一つ変わっていない。」
ヴォルフが静かに続ける。
「……はっ!」
その言葉に兵士たちの返事が揃う。
ヴォルフは机に広げられた船内図へ視線を落とした。
「幸村。」
「はっ。」
呼ばれた男が一歩前へ出る。
「人質の警備をさらに強化しろ。鼠一匹、近付けるな。」
「承知しました。」
幸村は即座に踵を返す。
ヴォルフはその背中を見送り、静かに口を開いた。
「敵はこちらの幹部を二人討ち取った。……ならば、こちらも手を変える。」
「放送を繋げ。」
通信兵へ視線を向ける。
「はっ!了解であります!」
船内各所のスピーカーから小さなノイズが響き
ヴォルフの重厚な声が客船全域へ流れる。
『こちらは帝国連合軍残党”アイゼン・レギオン、総指揮官の”ヴォルフ・アイゼン”だ。』
その放送に燈也たちも顔を上げた。
『まず最初に、我々の幹部を二人討ち取った者へ敬意を表そう。
諸君らの実力は十分理解した。』
「敵が評価するとはな……。」
鉄景が眉をひそめる。
「フン、褒められても嬉しくねぇな。」
ベルガが鼻で笑う。
「何を企んでいるの……。」
紅音も小さく呟く。
『だが、我々もこのまま退くつもりはない。……そこで提案だ。』
ヴォルフの声は淡々と続く。
『諸君と交渉したい。』
その一言で、船内の空気が凍り付く。
「交渉……?」
怜花が不安そうな声で呟く。
『貴様らが人質を救いたいというのなら、三十分以内に大ホールへ来い。』
「完全に罠だろ。」
ベルガが低く呟く。
「ああ、だが人質を見捨てることもできない。」
鉄景も頷く。
『もし来なければ、交渉は決裂したものと判断しここにいる人質を一人残らず処刑する。』
「っ……そんな!」
怜花が息を呑む。
「……ふざけやがって…。」
燈也の拳がゆっくり握られる。
『これは脅しではない、最後通告だ。諸君らの選択を待つ。』
その言葉を最後に放送が途切れた。
「交渉だと……。舐めやがって、最初から俺達に選択肢なんざ与えちゃいねぇだろうが!」
ベルガが声を荒げる。
「どうしますの?」
紅音は燈也を見る。
「決まってる……行くしかない。」
そう言って真っ直ぐ前を見据える、燈也の瞳に迷いはない。
次回 『第214想 魔法 vs 技術』
鬼堂との激闘の裏で、もう一つの戦いが始まっていた。
帝亜と英明の前に立ちはだかるのは、帝国残党軍が誇る技術将校・神代千景。
魔法と科学、二つの叡智が激突する時、勝利を掴むのはどちらか――




