第212想 譲れぬ信念
鬼堂の全身が真紅に染まっていく。
「ハハハハハ!! 帝国に栄光あれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
狂気にも似た雄叫びが通路を震わせ、
鬼堂の胸部にある魔力炉が限界を超え、眩い閃光を放ち始める。
「くそっ…。間に合わない……!」
燈也は歯を食いしばり腕を構える。
「…ここまでかよ!」
ベルガが叫ぶ。
「燈也くん……!」
リエラが怯えた声を上げる。
爆発まで、あと一瞬。
その時だった――
ドゴォォォォン!!
「……っ!?」
床が激しく隆起し、燈也たちの前へ巨大な岩壁が競り上がる。
さらに低く、よく通る男の声が響いた。
『穿て、大地。守り抜け。』
≪岩壁城塞!!≫
巨大な岩壁が幾重にも重なり、まるで古城の城壁のような巨大防壁を築き上げる。
その直後、鬼堂の魔力炉が炸裂し爆炎と衝撃波を放つ。
船が揺れ、通路が激しく損壊する。
それでも、岩壁が削られながらも、爆発の全てを受け止めていた。
やがて爆音が収まり、瓦礫の落ちる音だけが静かに響く。
「げほっ……げほっ!」
ベルガが煙を払いながら辺りを見回した。
「……皆、大丈夫か!」
燈也も咳き込みながら叫ぶ。
「はい!なんとか……」
リエラが飛び上がる。
「私、もうダメかと思いました……。」
怜花はその場へ座り込み、大きく息を吐いた。
煙の向こうから、ゆっくりと一人の青年が歩いてくる。
スポーツ刈りに、玄武魔法館の黒い学ランに身を包んだ、見覚えある姿に
燈也は思わず目を見開いた。
「……黒鉄!!」
青年は短く頷く。
「無事か。」
「ああ…。」
燈也は苦笑する。
「そうか…なら良かった。」
鉄景は安心したように小さく息を吐く。
「相変わらず愛想ねぇな、お前。
もう少し感動の再会ってもんはねぇのか?」
ベルガが肩を竦めて笑う。
「……自分は口が上手くない。そういうのは苦手だ。」
鉄景は少し困ったように頭を掻いた。
「不器用な奴だな。」
ベルガが吹き出す。
「それにしても見事ですわ。
あれほどの爆発を一瞬で防ぐなんて。」
紅音も崩れた岩壁へ視線を向け、感心したように呟いた。
「祖父によく言われた、守る時だけは迷うな、とな。」
鉄景は照れ臭そうに視線を逸らす。
「でも、おかげで助かったぜ。…ありがとな。」
燈也は笑みを浮かべる。
「礼はいらない。今は人質を助ける方が先だ。」
鉄景は首を横へ振った。
「……それに、お前との決着もまだ着いていないからな。」
少しだけ口元を緩める。
「こんな状況でも、それを言うか。」
燈也は思わず笑う。
「当然だ。一度引き分けたまま終わるつもりはない。」
鉄景は真っ直ぐ燈也を見る。
「俺は、お前を超える。そのためにも、お前にはここで死んでもらっては困る。」
「おお、いいな!それでこそライバルってやつだな!」
ベルガが豪快に笑う。
「不器用ですけれど、真っ直ぐな方ですわね。」
紅音も小さく微笑んだ。
鉄景は照れ隠しなのか咳払いを一つすると、崩れた岩壁の向こうへ視線を向けた。
そこにはもう鬼堂の姿はなく、焼け焦げ半壊した通路と砕け散った装甲だけが残っていた。
「……最後まで覚悟を貫いたか。……敵ながら、見事だ。」
鉄景は静かに目を閉じる。
「ああ、だからこそ……俺たちも立ち止まるわけにはいかない。」
燈也も静かに頷く。
「そうだな。仲間を、人質を救うために……。」
鉄景は真っ直ぐ前を向いた。
「これで幹部は二人撃破。だが、まだ先は長ぇ。」
ベルガが拳を握る。
「ええ。でも確実に前へ進んでいますわ。」
紅音も力強く頷いた。
燈也は仲間達を見渡し拳を握り締める。
「行こう……。ここからが、本当の勝負だ。」
次回 『第213想 最後通告』
鬼堂を退けた燈也たち。しかし、それは帝国軍との戦いの終わりではなかった。
総指揮官ヴォルフ・アイゼンが下した次なる一手は、人質を利用した非情なる最後通告。
交渉か、それとも決戦か――




