第208想 立ちはだかる悪鬼
指令室と化した操縦室では重苦しい空気が流れている。
「神代。アレの用意をしておけ。」
ヴォルフ・アイゼンは窓の外へ視線を向けたまま口を開く。
「……例の準備ですね。」
神代はすぐ意味を理解したように口元をわずかに緩めた。
「ああ。使わずに越したことはないが、風谷程の男を破った者達だ。
作戦遂行の為にもあらゆる策を講じるのだ。」
「了解しました。配置も最終確認しておきます。」
神代は懐から小型端末を取り出す。
「誰にも気付かれるな。」
「もちろんです。切り札は最後まで伏せておくべきですから。」
そう言い残し、神代は静かに操縦室を後にする。
一方で、船内にある空調ダクトを燈也たちは身を低くしながら慎重に進んでいた。
先頭はリエラ。
二十センチほどの小さな身体を活かし、静かに前方を偵察しながら進む。
「おい、次はどうする?」
ベルガが小声で尋ねる。
「敵はまだ多数。人質を助ける為にももう少し戦力を削る。」
燈也は足を止めない。
「でも正面からは危険ですわ。
あれだけの人数を相手にすれば、すぐ包囲されますわよ?」
紅音が続ける。
「ああ、だから狙うのは部隊のリーダー。敵の指揮系統だ。」
燈也は頷く。
「それをどうやって見つけるんですの?」
「…なんとか探す。」
燈也の返答は短かった。
「簡単に言ってくれますわね…。」
紅音が呆れる。
「まぁ、でもそれしかねえだろ。気長に頑張ろうぜ。」
ベルガが場を和ますように微笑む。
「……!」
その瞬間だった。
ピタリとリエラの動きが止まる。
「燈也くん。前方から……すごく大きな反応。」
全員が息を潜める。
「人数は?」
「一人よ。」
「でも……。」
リエラの表情が曇る。
「今まで会った敵とは全然違うわ。」
「ああ、俺も感じる。威圧と言うか凄い殺気だ。」
ベルガも眉をひそめる。
「近付いてきますわ。」
紅音が静かに魔力を練る。
通路の向こうから重い足音がゆっくり近付いてくる。
一歩ごとに床が震え、怜花が思わず息を呑んだ。
「な……何……?」
燈也が右手を上げ、全員が物陰へ身を潜める。
だが、ドォン!!
と巨大な鉄扉が内側から蹴り開けられた。
「…見つけたぞ。」
現れたのは、身長二メートルを超える巨漢。
肩には巨大なガトリング砲、背中にはロケットランチャーと
全身を重装備で固めた男――幹部の”鬼堂剛鉄”が
片手で軽々と重機関銃を担いでいる。
「……マジでデカいな。」
ベルガが小さく笑う。
「…大きさだけじゃない、さっきまでの兵士とは明らかに格が違う。」
燈也も静かに男を見据える。
「おそらく、幹部ですわね。」
紅音も視線を逸らさない。
「……ほぉ?」
男はゆっくり燈也達を見回す。
「ガキばかりかと思えば、なかなか面白そうなのがいるじゃねぇか?」
ベルガが一歩前へ出る。
「お前……。」
男は豪快に笑った。
「ハッハッハ!!名も名乗らず戦うのは礼儀知らずってもんだ。」
胸を叩く。
「俺は”鬼堂剛鉄”、今は帝国残党軍アイゼン・レギオンの制圧部隊隊長をやってる。」
その名を告げるだけで、空気が重く沈んだ。
「お前らだな?……風谷を倒したのは?」
鬼堂は燈也達をじっくりと眺め口元を吊り上げた。
誰も答えない。
「その沈黙…。図星ってことか」
鬼堂はニヤリと笑う。
「だったらどうした?仇討ちでもする気か?」
ベルガが肩を鳴らした。
「仇討ち?」
ガハハハッ…違ぇ違ぇ。俺達は軍人なんだいつ死んでもおかしくねぇ。
…風谷の野郎も承知の上だろう。」
鬼堂は豪快に笑う。
「だがな、幹部一人落とされたまま黙ってるほど、帝国軍は甘くねぇ。」
その笑みが消える。
「一つ聞く。他の兵士はどうした?」
燈也が静かに問い返した。
「部下のことか?あいつらは人質を監視させてる。今回は連れてきてねぇ。」
鬼堂は鼻で笑う。
「なぜだ?」
燈也が眉をひそめる。
「俺の戦い方は派手なんでな。部下がいたら巻き込んじまう。」
鬼堂は拳を握りゴキゴキと骨を鳴らす。
「それによぉ、大勢でガキ共を追いかけ回すようなカッコ悪い真似なんぞ出来るかよ。
ガキの相手くらい俺一人でまとめて相手してやらぁ!!」
獰猛な笑みを浮かべる鬼堂。
「へッ…言うじゃねぇか。」
それに呼応するかのようにベルガが笑った。
「ええ。油断してると痛い目見ますわよ?」
紅音も静かに一歩踏み出す。
「油断?違ぇな、自信だ。
俺ぁ正面からぶっ潰すしか能がねぇ。…だから逃げも隠れもしねぇ!
来いよ。力比べだ。」
「すごい……。」
その圧力に怜花が思わず一歩後ずさる。
「燈也くん。この人……今までとは別格よ。」
リエラも真剣な表情になる。
「ああ。」
燈也は短く頷き、二人へ視線を向ける。
「怜花、リエラ。二人は下がってくれ。」
「……分かったわ。」
リエラが心配そうに下がる。
「燈也さん……く気を付けてくださいね。」
怜花も悔しそうに唇を噛む。
「ああ。分かってる。」
燈也は小さく頷く。
「さて、思いっきりぶっ飛ばしてやるぜ。」
ベルガが拳を構える。
「短期決戦で終わらせますわよ。」
紅音の足元に炎が揺らめく。
三人が横一列に並ぶ。
それを見た鬼堂は心底嬉しそうに笑った。
「ガハハハハハ!!いい面構えだ!それでこそ叩き潰し甲斐がある!」
次回予告 『第209想 第三幹部・神代千景』
戦場を支配するのは剣でも拳でもない。緻密に張り巡らされた爆破工作だ。
帝亜と英明は、帝国残党軍屈指の頭脳を持つ幹部の神代と対峙する。




