第207想 第二幹部、鬼堂出陣
夜風が甲板を吹き抜ける。
海へと消えていった風谷の姿を最後に見届けると、
燈也は紅音に視線を向けた。
「……さっきは助かった。ありがとな。」
「フン、あれぐらい造作もありませんわ。」
紅音が余裕の笑みで答えた。
「これからどうするんだ?」
「決まっていますわ。
私の仲間も捕まっている、このまま見捨てるなんて選択肢はありませんわ。」
その横顔には、一人の代表選手としての責任が浮かんでいた。
ベルガが口元を吊り上げる。
「いいじゃねぇか。そういうの嫌いじゃねえぜ。」
燈也は紅音を見る。
「……俺達も仲間を助けたい。ここは手を組まないか?」
紅音は静かに頷いた。
「…分かりましたわ。大会では敵同士だけど、今だけは協力してあげますわ。」
燈也が笑う。
「それで十分だ、頼んだぜ。」
そう言って互いに頷き合う、敵ではなく同じ目的を持つ仲間として――
一方、船内の大ホール。
拘束された要人と生徒達を監視していた帝国兵達の間に、突然ざわめきが走った。
「第四遊撃部隊と連絡が取れません。」
「どういうことだ?」
一人の兵士が何度も無線へ呼び掛ける。
『第四部隊、応答しろ。』
『風谷隊長、応答願います。』
だが返事はなく、聞こえるのは耳障りなノイズだけだった。
「……まさか。風谷隊長が?」
「そんな馬鹿な……。」
帝国兵達の表情から、少しずつ余裕が消えていく。
その様子は、人質達の目にも映っていた。
「……何かあったのか?敵の様子がおかしいぞ。」
「ああ、さっきまでと違う……。」
兵士達はただ慌ただしく無線を飛ばし続けている。
その様子を見ていた郷夜が、小さく口元を緩めた。
「……なぁ。」
隣の流水へ小声で囁く。
「もしかしてさ。不知火じゃね?」
流水は視線だけを動かした。
「……分からないわ。でもこの船の中で、何もせず捕まっているとは思えない。」
郷夜はニヤリと笑う。
「だろ?」
癒水も小さく頷いた。
「義兄さん……。どうかご無事で。」
三人の胸の奥には、小さな希望が灯っていた。
その人質達の中に、異変を見逃さなかった者達がいた。。
「敵の統率が乱れ始めているわね。」
紅蘭が小声で呟く。
「ああ、良い流れだ。」
砕牙が拳を握った。
「フォフォ……動くなら今かのう。」
鉄重が呟く。
「ええ、ですね」
レイリアスが周囲を確認している。
四人は互いに目配せする。
今しかない――誰もがそう感じていた。
しかし、
「ハハハッ!どうしたどうした?随分と慌てているじゃないか!」
突然、要人のゴールド・レイマンの高笑いが響いた。
「だから言っただろう!貴様ら残党風情では国家には勝てん!」
続くように永良口も胸を張る。
「所詮は時代遅れの敗残兵だ。革命ごっこも終わりだな。」
岸村も鼻で笑う。
その言葉を聞いた瞬間、ホールの空気が凍りついた。
静かに第五幹部の”雪村誠司”が軍刀へ静かに手を添える。
「貴様……帝国を侮辱したな?」
「侮辱?事実を言っただけだ。敗戦国の亡霊が偉そうに──」
ゴールドは鼻で笑った。
キィン。
抜刀したことも見えないほどの光速の一閃と共に、
ゴトリ。とゴールドの首が床へ転がる。
「……え?」
「うわああああああっ!!」
悲鳴がホール中へ響く。
雪村は静かに血を払い、軍刀を納める。
「帝国への侮辱、万死に値する!!!」
先ほどまで威勢の良かった要人達も、青ざめた顔で震えるだけだった。
「次は貴様だ。」
「ひぃいいい…」
永良口は顔面蒼白になる。
「そこまでだ、…雪村。」
ヴォルフが低く呼ぶ。
「……はっ。……失礼しました、大佐。」
雪村は即座に軍刀を納める。
「気持ちは分かる。だがこれ以上は不要だ。
我々の目的は虐殺ではないのだからな。」
「……はっ。」
雪村は敬礼し一歩下がり、帝国兵達に指示を出す。
「警戒レベルを最大へ!人質から離れるな!」
「各出入口を封鎖!少しでも怪しい動きをしたら即座に制圧しろ!」
銃口が一斉に人質達へ向けられる。
先ほどまで生まれかけていた隙は、一瞬で消え去った。
「あのバカ野郎共が余計なことを……。」
砕牙も拳を握る。
「完全に警戒されてしもうたのう……。」
鉄重も深く息を吐いた。
校長達が悔しそうに呟く。
その頃、ヴォルフはゆっくりと巨漢の男へ視線を向ける。
「…鬼堂。」
「おう。」
第ニ幹部――”鬼堂剛鉄”が一歩前へ出た。
巨大な身体から圧倒的な威圧感を放っている。
「相手は風谷を討つ程の人物だ。生死は問わぬ……発見次第、始末しろ。」
ヴォルフの瞳が鋭く光る。
「ガハハハハッ!!ようやく暴れられるってわけですな!」
鬼堂は豪快に笑い、肩へガトリング砲を担ぎ上げる。
「任せろ、大佐。骨も残さず叩き潰してやる。」
次回 『第208想 立ちはだかる悪鬼』
幹部の1人風谷を倒すも帝国残党軍は次なる刺客、
"剛腕の悪鬼"の異名を持つ幹部の鬼堂剛鉄を差し向けた。
真っ向勝負を望む怪物と、燈也たちが激突する!




