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Himeyuri ―魔法を嫌う元学園最強の主人公ー  作者: 小鳥遊 千夜
第六章 マジック・ウィザード・トーナメント前夜祭――魔導客船テティス編

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第206想 散り際の誇り

   

 風谷(かざたに)の足が止まり、目の前には5人。


 燈也(ともや)、ベルガ、紅音(あかね)

 そして後方には怜花(れいか)

 小さなリエラも燈也の肩へ舞い戻る。


「増援は潰した。これで、ようやく本気で殴れそうだな。」

 ベルガが拳を鳴らす。


「潰したのは私ですわよ?」

 紅音も静かに前へ出る。


「たくっ…細けぇことはいいだろ。とっととやろうぜ。」


「…分かってますわ。」


 風谷は二丁拳銃をくるりと回した。


「へぇ……。」


 その笑みは消えていた。


「最初は逃げ回るだけの学生かと思ったが…」


 長年の勘が告げていた、この場にいる5人。

 誰一人として、生半可な魔導士ではない。


「面白ぇ。…名前も知らねぇまま殺すのは惜しいくらいだ。」

 風谷がニヤリと笑う。


「悪いが、名乗るつもりはない。」 

 燈也は一歩踏み出した。


「……そうか。じゃあ力だけ覚えとくぜ。」

 風谷が肩をすくめる。


 瞬間、姿が消えた。


「どこにいった…?」


「右よ!」

 リエラが叫ぶ。


 風谷の短剣が燈也の首筋へ迫る。

 

 キィィン!!


 燈也が寸前で弾く。


「コイツ、…さっきよりも速いっ!」


 ベルガが踏み込む。


「おらぁぁぁ!!」


『叩き潰せ!これが悪魔の拳だ!』

魔神(ディアブロ・)衝撃(インパクト)!!》

 

 影を纏った重い拳、しかし風谷は身をひねるだけで回避した。


「そんな遅ぇ攻撃じゃあ、俺には当たらねぇよ!」


 そのまま回し蹴りでベルガが腕で受け止める。


 ドゴォッ!!


「ぐっ!…スピードだけじゃねぇ、コイツ…パワーもあるのか」

 ベルガが数歩押し戻される。


「当たり前だろ?。軍人を舐めんなよ!」

 風谷が笑う。


 パンッ!パンッ!


 二丁拳銃が火を吹く。標的はリエラと怜花。


「まずいっ…二人とも」

 燈也が叫ぶ。


 《魔法障壁(プロテクション)!》


 怜花が障壁を展開し、弾丸が透明な壁へ弾かれる。


「だ…大丈夫です。でも長くは持ちません。今のうちに」

 ひび割れていく障壁を怜花は必死に維持する。


「ここは私が追い込むわ。」

 紅音が静かに詠唱した。

右手を掲げ掌に小さな火種が灯った。


「燃え盛る翼よ。空を裂き、獲物を焼き尽くせ。」


 紅い魔法陣が幾重にも展開される。


≪Lv4 上級炎魔法 フラム・アクィラ≫


 ゴォォォッ!!巨大な炎の鷲が翼を広げ、風谷へ襲い掛かった。


「っ!追尾型か…」

 風谷が舌打ちする。


 床を蹴り、壁を蹴りながら天井へ跳ぶ。

 その間にも炎の鷲は軌道を変え、その背を執拗に追う。


「しつけぇんだよ!」


 その瞬間。


「今だ!」

 燈也の声が飛ぶ。


「≪補助魔法加速強化(アクセル・ブースト)≫!」


 身体が一気に軽くなり、爆発的な加速で

 一瞬で風谷の着地点へ回り込む。


「なっ!?」


「逃がさない!!」


 右腕へ魔力が集束し拳に纏わせる。

 ≪魔斬(マギ・ブレイク)!≫


 ガガガガンッ!!


 風谷は短剣で受け流す。


「本当に学生の動きかよ!?…ハッ…最高じゃねぇか!」

 笑いながら後退する。


 だが、その退路は既に読まれていた。


「逃がさねぇよ。」

 ベルガが拳を地面へ叩きつける。


 『闇よ縛れ。魔神の枷となれ!』


悪魔(デモン・)黒鎖(ブラックチェイン)!!》


 ズズズズッ!!と床一面が黒く染まり、影が幾重もの鎖となって噴き上がった。


「何っ!?」


 風谷の両足、両腕に絡み付く。


「捕まえたぜ!」

 ベルガが歯を見せて笑う。


「クソ…この程度…。力比べなら負けねぇぞ!」!!」


 風谷が強引に鎖を振り解こうと暴れ、影が悲鳴を上げ千切れる。


 しかし、ほんの一瞬。

 

 ――動きが止まる。それだけで十分だった。


「リエラ!」

リエラが魔導書を掲げる。


『夜の幻よ。霧となれ。

 視界を奪い、真実を隠せ!』


幻夜の霧(ミラージュ・ミスト)!》


 淡い霧が周囲を包み、霧の中から現れる無数の幻影。


 燈也達の姿が幾つにも増殖する。


「くそっ……!どれが本物だ!」

 風谷の瞳が揺れる。


「終わりよ。」


 静かな声、本物の紅音だけが、一歩前へ出る。


 その掌へ巨大な炎が収束していく。


『世界を焦がす紅蓮よ。神炎となれ!。』

《Lv3 上級炎魔法Lv3 ギガ・イグニ》


 ゴォォォォォッ!!

 極大の火柱が一直線に走る。


「ぐあぁぁぁぁ!!」


 風谷は炎を避けるため、反射的に横へ飛ぶ。


 その先には――燈也が既に待っていた。


「終わりだ。」


 ≪夢幻の断斬(マギア・ブレイカ―)!!≫


 腕に纏ったの魔力の刃が、風谷へ炸裂する。


 ズバァァァン!!


「がっ……!」


 風谷の身体が宙を舞い、船の手すりへ激突した。


「ぐっ……なるほどな」


 血を拭い、燈也たちを見る。


「学生に……こんな化け物みてぇなのが、まだ隠れてやがったとはな。」


「大人しく降伏しなさい。」

 紅音は静かに構える。


「降伏?軍人がそんな真似するかよ。」

 風谷は鼻で笑い、腰のホルスターから拳銃を抜く。


 だが狙いは誰でもない、自分自身だった。


「…まずい!!」

 ベルガが目を見開く。


「……大佐。申し訳ありません。最後まで、お役に立てませんでした。」

 風谷は静かに空を見上げた。


 そして、不敵に笑う。


「だがな……」

 血の滲む口元を吊り上げる。


「帝国の栄光は消えねぇ……。俺が倒れても……

 志は、必ず誰かが継ぐ。帝国は……必ず蘇る。」


 その瞳には、一切の迷いはなかった。


 敗北を認めても、信念だけは、最後まで折れない。


「帝国に……栄光あれ。」


 パンッ。


 乾いた銃声が夜空へ響く。


 風谷の身体は、そのまま手すりの外へ傾いた。


「……っ!」


 ベルガが駆け寄るが間に合わずに身体は暗い海へ落ちていく。


 ザバァァァンッ!!


 波飛沫だけが高く舞い上がり、

 夜の海は、何事もなかったように静かに揺れていた。


 誰も言葉を発しない。


 敵であり、倒すべき相手だったとしても――

 最後まで軍人として散ったその姿だけは、そこにいた全員の胸へ重く刻まれていた。





次回 『第207想 第二幹部、鬼堂出陣』


 第四幹部を撃破し、新たな仲間を得た燈也達。

 だが、その勝利は帝国軍を本気にさせる引き金だった。


 次に動くのは、第二幹部・鬼堂剛鉄。

 討伐命令が下され、新たな死闘の幕が上がる。

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