第202想 帝国軍人の矜持
――警備区画、モニター室
現在は帝国の通信室として占拠されている。
その中央で通信班のリーダー大田少尉の首筋に燈也の魔力の刃が当てられ
ベルガの影が身体を拘束する。
「…学生か」
大田少尉は静かに燈也達を見た。
「ああ」
「なるほど、若いな」
大田は小さく頷く。
その言葉に侮蔑はない、ただ事実を確認するような口調だった。
「フン、随分余裕じゃねぇか?」
ベルガが腕を組む。
「……余裕ではない。ただ現状を受け入れているだけだ。」
大田は静かに答えた。
「我々は……一度負けた敗者だ。」
そして少しだけ目を伏せる。
「十六年前、仲間も故郷も多くのものを失った…」
その声は淡々としていたがその一言には重みがあった。
「……」
「我々は軍人として祖国のために戦っていただけだ。」
「だが、その結果が今だろう?」
燈也が静かに言う。
「ああ……。分かっている。だが納得はしていない…」
大田のその眼光が鋭くなる。
「帝国が敗れたのも、”魔法”という悪しき術も…」
「魔法……」
怜花が息を呑む。
「私は魔法が嫌いだ。……いや、憎んでいると言った方が正しいかもしれない。
生まれながらに力を持つ者、持たない者、努力では埋められない差、才能という名の理不尽を…」
その声には長年積み重ねられた感情が滲んでいた。
「戦場で何度も見た、優秀な兵士達がたった一人の魔法使いが戦況を覆す。
そこに努力も覚悟も関係ない」
大田が悔しそうに歯を食いしばる。
「だから、帝国は科学を選んだってか」
ベルガが眉をひそめる。
「ああ、誰もが手にできる力、才能ではなく積み重ねで届く力、それが帝国の理想だったのだ。」
そして燈也達を見る。
「君達、個人を憎んでいるわけではない、だが私は魔法という存在を認めることはできない!」
その言葉はあまりにも頑なだった。
理屈ではない、人生そのものがそう結論付けている。
「だから相容れない。」
大田は静かに言った。
「君達と私は違う。守るものも、信じるものも、…歩いてきた道もな」
「面倒臭ぇオッサンだな」
ベルガが鼻を鳴らす。
「フッ…そうだろうな」
大田は否定せずに、ただ少しだけ苦笑する。
「だが、今更変われん。帝国は滅んだとしても……それでも私は帝国軍人だ。」
その言葉には不器用なほどの誠実さがあった。
「捨てられないのだ…。亡き同胞が命を懸けて守ったものを
共に戦った戦友達の誇りを……今更裏切ることなどできない。」
大田という男の背負っているモノを、燈也達は黙って聞いていた。
目の前の男は単なる狂信者ではない、間違いなく現実を理解している。
全てを理解した上で、それでも信念を捨てられないのだ。
「……あんたの理想は分かった。
だが俺達にもやらなきゃいけないことがある。知ってる情報を話せ」
燈也が言うと大田は静かに目を閉じた。
「……話すと思うか?」
「話させるさ、……強引にでもな。」
ベルガも表情を引き締める。
「フッ…残念だが仲間を売ることはできない。それが軍人だ。」
そして燈也達を見る。
「君達も仲間を助けるためここまで来たのだろう?」
「……ああ」
「ならば理解できるはずだ、守るべきもののために戦う気持ちは…」
「……君達は強い。だが忘れるな。力だけでは人は導けない。
信念なき力は……いずれ人を滅ぼす」
そして最後に、軍人らしく背筋を伸ばし。誇り高く言い放った。
「帝国に栄光あれ!!」
次の瞬間、大田の口元から血が流れた。
「!?」
怜花が目を見開く。
「まずいわ!」
リエラが声を上げる。
燈也が急いで駆け寄るが遅かった――
大田は最初から覚悟を決めていたのだ、軍人として散る事を――
崩れ落ちながらも、その瞳に迷いはなく大田少尉は静かに動かなくなった。
通信室に沈黙が落ち、誰もすぐには言葉を発せない。
「……相手も本気だな」
ベルガが拳を握り呟く。
「ああ……」
燈也も頷く。
敵はただのテロリストではない。
敗戦から十六年、なお帝国の理想を抱き続ける軍人達――
その不器用なまでの覚悟と信念だけが、燈也達の胸に重く残った。
次回 『第203想 追跡者 帝国残党軍第四幹部”風谷俊也”大尉』
通信班の撃破に成功した燈也達。
しかしそれは同時に帝国残党軍へ存在を知られることを意味していた。
総指揮官ヴォルフ・アイゼンは即座に動く。
放たれる第四幹部・風谷俊也。
獲物を追うことを楽しむ男が、船内に潜む生き残り達へ牙を向く。
追う者と追われる者。
占拠された魔導客船テティスで、新たな攻防戦が幕を開ける。




