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Himeyuri ―魔法を嫌う元学園最強の主人公ー  作者: 小鳥遊 千夜
第六章 マジック・ウィザード・トーナメント前夜祭――魔導客船テティス編

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202/230

第201想 通信室攻略!!共闘の狼煙

 

 ――警備区画・通信室前。


 燈也たちは通路脇の物陰へ身を潜めていた。

 やがて、小さな換気口の蓋が内側から開いた。


「戻りました」

 ひょいっと小さな身体を滑り込ませ、リエラが静かに着地する。


「お疲れ。どうだった?」

 燈也(ともや)が小声で声を掛ける。



「通信室内部に指揮官が一名。室内に護衛十名。扉の外に二名です。」


「全部で13人か……思ったより多いな。」

 ベルガが腕を組み、小さく息を吐く。


「増援を呼ばれたりしたら終わりね…。」

 リエラは真剣な表情で頷いた。


「どうするんですか……?」

 怜花(れいか)が不安そうに尋ねる。


 燈也は通信室の扉へ視線を向けながら、頭の中で敵の配置を組み立てる。


 そして…

「……ベルガ。」


「ん?」


「お前の魔法で何人止められる?」

 ベルガはニヤリと口元を吊り上げた。


「全部。……ただし数秒だ。長くは保たねぇ。」

 ベルガが肩を竦める。


「十分だ。」

 燈也は迷わず頷く。


「そして…リエラ。」

 今度はリエラの方に向く。


「少しでいい、お前の幻術で敵を攪乱させて欲しい。」

 

「任せて。」


「怜花は増援が来ないか見張っていてくれ。あとは俺が一気に制圧する。」


「分かりました。」


「なるほど。正面から殴り込むより成功率は高そうだな。」

 ベルガが笑う。


「ああ、迅速に終わらせる。それが最優先だ。」

 燈也も口元だけ僅かに笑った。


 三人が同時に頷く。


 ベルガが通信室の前にある床を見つめた。

「さて、まずは外の二人だな。アイツらは俺が片付ける。」


「大丈夫か?」


「ああ、音は立てねぇ。」

 そう言うとベルガは膝をつき、床へ手を添えた。


 赤い瞳が静かに細まる。


『闇は道、影は我が翼…』


 黒い魔力が足元へ静かに溶けていく。


魔神(ディアブロ・)影歩(シャドウ・ウォーク)!!≫

 スゥッ……とベルガの姿が影へ沈んだ。


「き、消えちゃいましたね……。」

 怜花が思わず目を丸くする。


「影渡りね…」

 リエラも小さく感心する。


「便利な能力だな。」

 燈也は静かに通路を見つめたままだ。


 ――その頃、通信室入口。

 二人の帝国兵が小声で会話していた。


「交代まであと十分か。」

「ああ。」

「人質の方は?」

「問題ない。ガキどもも大人しくしてるらしい。」

「当然だ。逆らえば命はないからな。」


 二人が笑う。

 その瞬間だった、足元の影が僅かに揺れる。


「……?」


 兵士が視線を落とす――だが、何もない。


「気のせいか。」


 そう呟いた直後。


 ズッ……


 影の中から黒い腕が飛び出した。


「なっ!?」


「ぐっ!」


 口を塞がれ、同時に足首を掴まれる。


「んーーっ!!」


 悲鳴すら上げられない。


 影が二人の身体を包み込み、そのまま壁際の暗闇へ引きずり込んでいく。


 僅か数秒。


 ドサッ。


 鈍い音だけが響いた。


「ほらよ。入口は空いたぜ。」


 気絶した兵士二人を縛り上げて壁際へ寝かせると、ベルガは再び影から姿を現した。

 制服についた埃を軽く払う。


「……さて。ここからが本番だな。」

 燈也の言葉に仲間達が頷く。


 通信室内では数名の帝国兵が通信機器を操作していた。


『第五班異常なし』

『第三通路制圧完了』

『機関室、問題ありません』


 淡々と報告が飛び交う。


 中央では一人の男が腕を組み、その様子を見守っていた。


 元帝国軍通信士の大田(おおた)少尉。

 眼鏡を掛けた、実直そうな顔立ちの男である。


「定時報告を続けろ。通信は戦場の命綱だ。気を抜くな。」


「はっ!」


 誰も、扉が開いたことに気付かない。


 ベルガが一歩前へ出て足元へ静かに魔力を流し込んだ。


「逃がさねぇぜ。」


 赤い瞳が妖しく輝き、床を這う影がゆっくりと膨らんでいく。


悪魔(デモン・)黒鎖(ブラック・チェイン)!!≫


 ズズズズズッ!!室内すべての影が、一斉にうねりながら敵の足元に迫る。


「!?」


「何だ!?」


 兵士達の足元の影の中から無数の黒い鎖が飛び出す。


「ぐあっ!」


「足が!」


 鎖は兵士達の両足へ絡みつき、そのまま床へ縫い付ける。


「くそっ!」


 一人が力任せに引き剥がそうとするが今度は腕にも絡み付き

 更に動けば動くほど、強く食い込む。


「俺の影からは逃げられねぇ。」

 ベルガが不敵に笑う。


 兵士達が拘束された、その一瞬。


「今です!」

 リエラが魔導書を開き淡い光が室内へ広がった。

 兵士達の視界が揺らぎ、耳に届く音も僅かに歪む。


「な、何だ……!」


「見え……な……」


 違和感を覚えた時には、もう遅かった。


「チャンスだ。」

 燈也が床を蹴り、姿が掻き消えた。


補助加速魔法(アクセル・ブースト)!≫


「――っ!?」


 最前列の兵士が目を見開く。


 次の瞬間、鳩尾へ拳が突き刺さる。


「がっ……!」


 身体がくの字に折れ、そのまま崩れ落ちる。

 そのまま、振り向きざまに二人目、三人目……と瞬く間に制圧していく。


「ぐっ……」


「が……」


 兵士達が次々と沈んでいく様子にベルガは思わず息を呑んだ。


(速ぇ……こいつ、本当に人間かよ)


 だが、その時。


「まだだ…!」


 一人の兵士が拘束を振りほどこうと暴れ始め、筋力任せに鎖を引き千切ろうとする。


「この程度で…帝国軍人を押さえられると思うなァァ!」


 ギシッ!と鎖が軋む。


 だが、ベルガはニヤリと笑った。


「悪いけどよ。……俺の影を舐めんな。」


 影へ片足を沈める。


『闇は道、影は我が翼…』

魔神(ディアブロ・)影歩(シャドウ・ウォーク)!!≫


 一瞬で兵士の背後へ回り込む。


「なっ!?」


 ドゴォッ!!と肘打ちが脇腹へ炸裂する。

 兵士は壁へ叩き付けられ、そのまま意識を失った。


 さらにもう一人拘束を抜けようと銃へ手を伸ばす。


「その銃。渡してもらうぜ。」

 ベルガの影が銃へと絡みつく。


 ギギギギッ!!と銃身が黒い鎖に締め上げられ、ひしゃげる。


「ば、馬鹿な……!」


 兵士が動揺した、その隙にベルガの拳が鳩尾へめり込む。


「悪いな。寝てろ。」


 兵士は白目を剥いて倒れ、その横を燈也が駆け抜ける。


補助強化魔法(パワー・ブースト)


 残る護衛へ一気に距離を詰め、回し蹴りを放ち、最後の一人も床へ崩れ落ちる。



 この間――わずか数十秒。

 通信室を守っていた護衛は、全員戦闘不能となっていた。


 リエラが思わず目を丸くする。

「すごい……。」


 怜花も呆然と呟く。

「二人とも……。」


 燈也とベルガ、戦い方はまるで違うが二人の呼吸は不思議なほど噛み合っていた。


 だが、中央に立つ大田少尉だけは違った。


「貴様ら――!」


 即座に拳銃へ手を伸ばす。

 さすが元帝国軍将校――反応だけは誰よりも速い。


 しかし、それよりも速く燈也の姿が目前へ迫る。


 ≪補助加速魔法(アクセル・ブースト)!!≫


 大田が引き金へ指を掛ける、その寸前――

 燈也の手刀が拳銃を弾き飛ばす。


 ガランッ!


 拳銃が床を滑り落ちると同時に、魔力で形成された燈也の手刀が

 大田の首筋へ添えられ、さらにベルガの影が足元から伸び、大田の両腕を拘束し捕らえる。


「くっ…」


 燈也が低く告げる。

「終わりだ。…大人しくしてもらう。」


次回 『第202想 帝国軍人の矜持』


 通信室の制圧に成功した燈也たち。

 しかし、拘束した大田少尉の口から語られたのは、

 敗北を知りながらも決して捨てることのなかった"帝国軍人としての誇り"だった。


 敵にもまた、守るべきもの、譲れない信念がある。


 その覚悟に触れた時、燈也たちはこの戦いの本当の重さを知る。


 敵は、ただ悪だから戦うのではない。


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