第199想 反撃への布石
――薄暗い空調ダクトの中。
金属板の向こうから、微かに聞こえる怒号と泣き声。
客船テティスは、すでに敵の手に落ちていた。
「……」
燈也は壁にもたれながら静かに息を吐く。
「みんな……大丈夫でしょうか……」
隣では怜花が不安そうに膝を抱えていた。
「今は信じるしかない」
燈也が答える。
「……ええ。」
怜花は小さく頷く。
その時、ダクトの奥から小さな影が飛んできた。
「戻ったわ!」
リエラは肩で息をしながら燈也の前へ着地する。
「それで何か分かったか?」
「ええ、まず敵の正体だけど……帝国軍の残党みたいよ。」
リエラは背中の魔導書を開く。
幻術で盗み見た情報を整理しているらしい。
「やっぱりか…装備が露骨だったからな」
燈也は苦笑する。
「どうやら、戦争で負けたあとも潜伏していたみたい。」
「そんな人達が……どうして」
怜花が息を呑む。
「さあな。まだ諦めきれないだけなのか…だが、なんにせよ。
良からぬことを企んでいるに違いない。」
燈也が答える。
「船の方はどうだ?」
「操縦室は占拠されていて、外部との連絡手段もあらかた破壊されてる。」
「脱出は?」
「救命艇も見張られていて、厳しそうね。」
リエラは首を振る。
「つまり、救援は期待できそうにないな。」
燈也は小さく息を吐く。
「悔しいけど、そうなるわね」
リエラが頷く。
「そんな……」
怜花の表情が曇る。
「でも」
リエラが続けた。
「希望が無いわけじゃないわ。」
「それって?」
「敵は複数部隊に分かれて動いてるみたいんだけど、
それぞれの部隊長が指揮してるみたい」
燈也が顔を上げた。
「指揮系統が分散してるのか…」
「ええ、だからその人達を倒せば、敵の統率はかなり乱れると思うわ」
「なるほどな。軍隊なら尚更ってわけか…」
燈也が考え込む。
「悪くない。他には?」
「敵は科学兵器が主体、だから魔法使いはいないんじゃないかしら?
少なくともワタシが確認した限りでは魔法使いは見かけなかったわ。」
「それなら魔法戦の心配は無さそうだな。」
「じゃあ……私達にも……」
怜花が少し顔を上げる。
「勝ち目はある。」
燈也が答えた。
怜花の表情が少しだけ明るくなる。
「それと、どうやら捕まってない生徒がいるみたいよ。
誰かまでは分からないけど…ワタシ達以外に何人か…」
「なら十分だ」
燈也は静かに笑った。
「燈也くん?」
「一人じゃないなら戦える。
まずは仲間を探す。次に敵の指揮官を潰す」
「それで人質を助けるんですね」
怜花も頷く。
「ああ」
燈也は立ち上がった。
狭いダクトの中で拳を握る。
「向こうは軍隊だ。だが戦いってのは人数だけで決まらない。」
「ようやく、燈也くんらしい顔になったわね」
リエラが小さく笑った。
「うるさい」
「褒めてるのよ?」
「なお悪い」
怜花が思わず吹き出し緊張が少しだけ和らぐ。
だが、その先に待つのは帝国残党軍、戦場を知る者達。
船内には多くの人質が囚われたまま――
戦いは、まだ始まったばかりだ。
次回 『第200想 共闘戦線』
帝国残党軍に占拠された豪華客船テティス。
仲間たちが人質となる中、燈也たちはダクトを進み、反撃の糸口を探していた。
そこで待っていたのは、思いもよらぬ再会。
白虎魔法アカデミーのベルガ・ダークネスだった。
大会ではライバルとなる他校とはいえ、この危機を打開する為に手を組む。
反撃への第一歩が今、始まる!!




