第198想 反撃の火種
――豪華客船テティス、大ホール。
そこには重苦しい空気が漂っていた。
要人、来賓客、生徒、船員達が一箇所へ集められて拘束されており、
周囲には銃を構えた兵士達。
少しでも怪しい動きを見せれば撃たれる。
そんな緊張感が場を支配していた。
「いやいやいやいや……」
郷夜が青い顔で頭を抱える。
「マジかよ……マジなのかよこれ……」
「落ち着きなさい。」
流水が小声で言った。
だが彼女自身も余裕はない。
「落ち着けるか!?さっき人撃たれたんだぞ!?」
郷夜は周囲を見回しながら震えた声を出す。
「こんな事になるなんて、オレ様聞いてないぜ!?」
「……誰も聞いてないわよ。」
流水が呆れながら返す。
その横で癒水も不安そうに俯いていた。
「そういえば、義兄さんの姿が見えない。無事だといいのですが……」
近くでは他校の生徒達も動揺していた。
「軍隊が相手とか冗談だろ……」
「護衛艦隊までやられたらしいぜ。」
「通信も全部切られてるって……」
「それじゃあ、助けなんて来れないじゃないか……?」
絶望が広がり、一人の男子生徒が力なく呟いた。
「終わりだ……」
その言葉に何人もの生徒が顔を伏せた。
まだ十代の少年少女達だ、本物の戦争など知らない。
銃を向けられ、人が撃たれる光景など見たこともない。
その現実が少しずつ心を削っていく。
一方、船内上層部の空調管理用ダクト。
薄暗い金属製の通路を燈也達は慎重に進んでいた。
ギギッ……っと金属が小さく軋む。
「こんな場所まであるんですね……」
怜花が周囲を見回した。
「大型船だからな。空調設備は必須だ。」
燈也が先頭を進む。
「でも正解だったわね。普通の通路は敵だらけだし。」
リエラも後ろから続く。
「敵はどれくらいいる?」
燈也が振り返る。
リエラは目を閉じ船内全体へ意識を向ける。
そしてゆっくり目を開いた。
「少なくとも数十人、いやもしかしたらそれ以上かも…」
「そんなに……?」
怜花が息を呑んだ。
「ええ、それに動きがやけに統率されてる。どこかの軍隊かもしれないわ」
リエラは真剣な表情で頷く。
燈也の表情が険しくなる、正直、予想以上だった。
「軍隊か…しかもそれだけの規模となると…。」
「…最初からこの船を占拠するつもりだったんでしょうね。」
「正面から戦うのは論外だな。」
燈也は静かに言った。
そしてダクトの格子越しに下を覗く。
通路には武装兵が巡回している。
統率された動き、全身フル武装…素人ではない。
「……一筋縄ではいかなそうだな。」
燈也が小さく呟いた。
その後、歩きながら怜花が小さく尋ねる。
「燈也さん…みんなは……無事でしょうか?」
燈也は少し考え答える。
「今のところは大丈夫だと思う。」
「どうしてですか?」
「敵の目的が虐殺じゃないからだ。」
怜花が首を傾げる。
「本気で殺すつもりなら船を堕とす方が簡単な筈だ。でもそうしてない。つまり…」
燈也が話を続ける。
「人質として利用するつもりね。」
リエラも頷いた。
「ああ。だから今はまだ生きているはずだ。」
その言葉に怜花は静かに頷いた。
焦る気持ちはある――だが感情だけで動けば全員を危険に晒すことになる、
それが分かっているからこそ燈也は努めて冷静に振る舞う。
その時、遠くから足音が聞こえ三人は息を潜めた。
ガシャン、ガシャン。っと兵士達が通路を歩いていく。
「艦橋は完全制圧。機関部も問題なし。」
「人質の確認は?」
「まだだ。名簿と照合中らしいが人数が合わないって話だ。」
「逃げた奴がいるのか?」
「さあな。正直、生徒も来賓も多すぎるからな。」
足音が遠ざかっていくと燈也達は顔を見合わせた。
「…聞いたか?」
燈也が小声で言う。
「ええ、まだ私達が逃げていることは把握出来てないみたいね。」
リエラが頷く。
燈也は考え込む。
「…ならまだ動ける。相手も完璧じゃない。」
燈也は考え込む。
「これから、どうしますか?」
怜花が尋ねた。
「まず情報収集だ。敵の規模や人質の場所。それらを把握する。」
「反撃はその後ですね。」
リエラが頷く。
「ああ。これだけの相手に勢いだけで突っ込むのは自殺行為だ。」
燈也は静かに言った。
「情報を集めて活路を見つけるんだ。」
「いつもの燈也くんね。」
リエラが少し笑う。
「ああ、無茶して勝てる相手じゃないからな。」
燈也も苦笑した。
そしてダクトの奥を見る。
船内のどこかで、今も多くの仲間達が囚われている。
燈也は静かに拳を握った。
「待ってろ。…必ず助ける。」
魔導客船テティス――帝国残党軍によって占拠された巨大な海上要塞で
反撃の火種が静かに灯ろうとしていた。
次回 『第199想 反撃への布石』
帝国残党軍によって占拠された魔導客船テティス。
人質となった仲間たちを救うため、燈也たちは敵の情報を集め始める。
見えてきたのは、軍隊として統率された敵の姿と、わずかな勝機。
そして、船内にはまだ捕らわれていない仲間がいることも判明する。




