第196想 占拠された、魔導客船テティス!
――魔導客船テティス船内
バンッ!!
轟音と共にホール入口が吹き飛んだ。
「きゃあああっ!!」
「な、何だ!?」
直後に砕け散った扉の向こうから、黒い戦闘服に身を包んだ兵士達が雪崩れ込んでくる。
「動くな!!全員その場に伏せろ!!」
「抵抗した者は撃つ!!」
自動小銃が生徒達に一斉に向けられ、
楽しいパーティー会場は一瞬で地獄へ変わった。
「た、助けてくれ!!」
「嫌ぁぁぁ!!誰か!!」
人々が逃げ惑う。
「止まれ!!止まらなければ撃つ!!」
兵士の怒声が響く。
その時だった、一人の警備員が前へ飛び出す。
「ふざけるな!!」
掌に魔法陣が展開し燃え上がる火球を生成する。
「この程度で――燃やし尽くせ!炎系中級魔法!メガ・イグニ!」
火球が勢いよく放たれる。
しかし、その直後銃声と共に警備員の身体が吹き飛ぶ。
「がっ……!」
床へ叩き付けられ、そのまま動かなくなる。
会場が凍り付き、誰も声を出せない。
兵士は銃口を下ろしながら冷たく言った。
「分かっただろう?お前達もこうなりたくなければ余計な行動はしない方がいい。」
その一言で全員が理解した。
冗談ではない、彼らは本気で撃つ気でいると。
「う、嘘だろ……。」
郷夜の顔から血の気が引いていた。
先程までの軽薄な笑みは消えている。
「マジかよ……」
雄介も皿を置いた。
さすがに食事どころではない。
「まずいわね……」
流水は周囲を見回す。
「どうしましょう?」
癒水が不安そうに尋ねる。
「どうもこうもないわよ」
流水が苦い顔をする。
その瞬間、複数の兵士がこちらへ銃口を向けた。
「全員動くな!!魔法の発動を確認した場合は即射殺する!!」
生徒達の動きが止まり、郷夜が歯噛みした。
「くそっ……!」
「今は駄目よ。見なさい。」
流水が小声で言う。
視線の先には大勢の招待客。
誰かが暴れれば巻き添えが出る。
「…分かってる……!」
郷夜は拳を握ったまま俯いた。
その頃、別のホールには各校の校長達もいた。
歴戦の魔導師達であり、本来ならばこの程度の兵士に遅れを取る相手ではない。
しかし、
「校長先生……!」
生徒が震える声を漏らす。
兵士達は既に生徒達へ銃口を向けており、要人達も人質に取られている。
敵の数も目的も何も分からない、
下手に動けば大量の犠牲者が出るのは避けられない。
「ぬぅ……」
砕牙が低く唸る。
「厄介ねぇ……」
紅蘭も静かに目を細めた。
「相当訓練されとるのう」
鉄重は兵士達を見渡す。
「……今は従うしかありませんね」
レイリアスも動かず、静かに状況を観察していた。
校長達ですら動けない、その事実に周りもそれに倣うしかなかった。
一方のVIP席。
「ま、待ちなさい!!私は大臣だぞ!!」
岸村大臣は顔面蒼白になりながらも
兵士へ指を突き付ける。
「貴様ら自分が何を――」
兵士は無表情だった。
「大臣?だからなんだ?」
「ひっ……」
岸村の言葉が止まる。
先程まで威勢の良かった要人達も同じだった。
誰も何も言えない、
ゴールド・レイマンも永良口も金平も奏議員も。
全員が兵士達に誘導されていく。
その動きは異様なほど手慣れていて迷いがない。
完全に計画通りだった。
その頃、外のデッキでは
燈也はホールへ戻る途中だった。
隣には怜花、そして肩にはリエラ。
その時、館内の方から悲鳴が響いた。
「……!」
燈也の表情が変わる。
直後、ドンッ!!と銃声。
さらに遠くで爆発音。
怜花が息を呑んだ。
「な、なんの音でしょうか……!?」
「船内で何か起きてる…」
燈也が鋭く振り返る。
ホールへ向かおうとしたその瞬間、
リエラが慌てて声を掛ける。
「待って、燈也くん!」
「リエラ?」
「怪しい集団が迫ってる!それもかなりの数よ!」
「何?」
燈也が意識を集中する。
すると。
ドタドタドタドタ――
船内各所から重い足音が聞こえた。
複数、しかも統率されている。
「……まずいな」
燈也が低く呟く。
「このままホールへ行けば見つかるわ!」
リエラも焦っている。
「ど、どうしましょう……?」
怜花の顔が強張る。
「ホールには行けない、だがここに居てもいずれ見つかる……なにか…」
燈也は周囲を見回す。
そして、ふと視線が止まる。
それは天井近くにある、整備用の大型ダクト。
「あれだ。」
「え?」
「あのダクトを使おう」
燈也が指差す。
「確かにあれなら見つかりにくいし、移動にも使えそうね。」
リエラの目が輝いた。
近付いてくる足音、迫る兵士達。
「急ぐぞ。」
その直前、三人はダクトの中へと姿を消した。
船内の大半は制圧され乗客もそのほとんどが人質となる。
こうして魔導客船テティスは、帝国残党軍によって完全に占拠されたのだった。
次回 『第197想 亡霊達の宣戦布告』
豪華客船テティスを占拠した帝国残党軍。
人質となった要人達の前へ姿を現したのは、指揮官のヴォルフ・アイゼン。
責任を押し付け合う大人達、広がる恐怖。
そして語られる、帝国軍の執念。
「我々の目的は戦争だ」
敗北から十六年、戦争の亡霊達は再び牙を剥く。




