第195想 魔導客船テティス襲撃
――夜の海。
魔導客船テティスは、煌びやかな灯りを纏いながらゆっくりと進んでいた。
船内ではまだパーティーが続いていて、誰もが平和を疑っていない。
だが、その船の下では暗い深海の中を一隻の潜水艦が進んでいた。
艦体に刻まれた古い帝国軍の紋章、忘れ去られた敗残兵達の牙。
その艦内で指揮官のヴォルフ・アイゼンは腕を組んだまま前方を見ていた。
「状況は?」
「目標まで三千、更に周囲に護衛艇三隻確認。予定通りです」
ヴォルフが頷く。
「そうか。では作戦を始めろ」
「はっ!了解」
――その頃、テティスの周囲を航行する護衛艇。
敵が近づいていることも気付かずに護衛隊員達は退屈そうに雑談している。
「ふあ…しかし暇ですね。」
「こんな海の真ん中で襲撃なんてあるかよ」
「ハハハハ!それもそうですな」
その瞬間、海面が盛り上がる。
「……ん?」
隊員が振り返る。
だが、遅かった。
ゴォォォォォォ!!
水中から飛び出した魚雷が護衛艇へ直撃し船体が大きく破損し炎上する。
「てっ…敵襲ーーー!!」
叫び声が響く、だが反撃する暇もなく、二発、三発と次々に魚雷を撃たれ
周囲の護衛艇艦隊が全て轟沈する。
潜水艦内部では幹部の風谷がニヤニヤしていた。
「派手だねぇ、まるで祭りみたいだ」
「ガハハハ!!これぞ、戦の花火!!戦いはこうでなくてはなぁ!!」
幹部の鬼堂が笑う。
「これこそ、帝国の力、ヴォルフ様の手腕には惚れ惚れ致します、」
幹部の幸村も盲信的にその様子に見惚れている。
「当然でしょう。我らの計算が狂うことなど有り得ないのですから。」
幹部の神代も眼鏡を布で拭きながら当然のように笑う。
「浮かれるな。任務はこれからだ」
ヴォルフだけが静かだった。
「はっ」
全員の表情が引き締まる。
一方、テティスの縦室。
「おい、一体何が起きている、誰か応答しろ!!」
通信士が慌てていた。
「どうした!?」
船長が叫ぶ。
「それが、全ての護衛艇との通信が途絶しました!」
「何だと!?」
その時、船体がドン。と鈍い衝撃で揺れる。
「今のは何だ!?」
「わ…分かりません!!」
――その頃、潜水艦では神代が端末を操作する。
「EMP発射準備完了。通信設備無力化まで三十秒」
「失敗は許されんぞ。やれ」
ヴォルフ。
「はっ!了解」
神代がスイッチを押すと、次の瞬間、テティス全体に強力な妨害電波が流され、
バチバチッ。と通信機器が火花を散らす。
「うわっ!?」
通信士が飛び退く。
モニターが真っ黒になり、レーダーも外部との通信も全て遮断される。
「なっ…何が起きている!?」
船長の額に汗が浮かぶ。
潜水艦内では神代が端末を見て笑う。
「作戦は成功です。これで船は完全に孤立しました。」
「ここまでは手筈通りだな。」
ヴォルフが立ち上がる。
「では…総員、これより突入せよ!!」
空気が変わり、兵士達が立ち上がる。
帝国軍の古い軍服に身を包み、
それぞれが自動小銃、振動ブレードといった武装を手に取る。
「目的は要人の確保、無意味な殺害は禁止。だが抵抗する者は容赦なく排除せよ!!!」
ヴォルフの号令で兵士達が動く。
「了解!!」
潜水艦のハッチが開き兵士達がテティスの船内に乗り込んでいく。
――魔導客船テティス。
船内の照明が一斉に消え、ホールがざわつく。
「きゃっ!?」
「何だ!?」
いくつかのシャンデリアが落ち、明かりは非常灯の赤い光のみ。
不気味な暗闇の中で、館内放送が鳴る。
――ザザッ。
低い男の声。
『諸君。楽しいパーティーの最中失礼する。』
ホール全体が静まり返った。
『我々は”アイゼン・レギオン”。帝国連合軍の正統後継組織である。』
ざわっ。と空気が変わり、要人達の顔色が青ざめていく。
『現在この船は我々が制圧した。抵抗は無意味だ。
従わなければ死ぬ。』
それだけを言い終えると放送が切れる。
次回 『第196想 占拠された、魔導客船テティス!』
突如現れた帝国残党軍アイゼン・レギオン。
その奇襲により、魔導客船テティスは完全に制圧されてしまう。
船員も各国の要人も代表選手達もほとんどが人質になってしまった中で、
運よく拘束を逃れた燈也達。
自由に動ける者はほとんどいない絶望的な状況で
仲間を救うため、この船を取り戻すために燈也は静かに立ち上がる。




