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Himeyuri ―魔法を嫌う元学園最強の主人公ー  作者: 小鳥遊 千夜
第六章 マジック・ウィザード・トーナメント前夜祭――魔導客船テティス編

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第192想 隣にいる理由

 

 ――帝亜(てぃあ)が会場を後にした頃。


 燈也(ともや)は窓際のテーブルでグラスを傾けていた。

 もちろん中身はジュースだ。


 巨大な窓の向こうには夜の海、月明かりが静かに波を照らしている。


「ここにいたんですね」

 聞き慣れた声に振り返ると、怜花(れいか)が立っていた。


 手には小さな皿、色とりどりのケーキが乗っている。


「なんだ…それ?」


「デザートですよ。」


「それは分かるんだが、そんな食べたら太るぞ?」


「もう、相変わらずデリカシーが無いですよ!」

 怜花が少しだけ頬を膨らませた。


「悪い悪い」

 その様子に燈也は思わず笑う。


「もう……」

 怜花もつられて笑った。


「あの隣、いいですか?」


「ああ。」


 怜花はそっと腰を下ろし、しばらく二人で海を眺める。


 賑やかな会場の音もここまでは少し遠い。


「綺麗ですね」


「ああ、そうだな。」


「客船なんて私、初めて乗りました」


「俺もだ。」


「なんだか夢みたいですね。」

 そう言って窓の外を見る怜花の横顔は穏やかだった。


 だが、どこか浮かない表情にも見える。


「どうかしたのか?」


「え?」


「何か考え事してるだろ?」


「あはは…分かりますか?」

燈也の言葉に、怜花は少し困ったように笑う。


「長い付き合いだからな。俺で良ければ話を聞くぜ?」


「……。」


 怜花は視線を会場へ向ける。


「皆さん凄い人ばかりですよね。

 それなのに私は強くもありませんし、魔法だって苦手です……」

 

 怜花は小さく息を吐く。


「ランクだって低いですし、そんな私なんかが本当にこの大会に出て良いのかなって。」


 その声は弱々しかった。


「…お前な。」

 燈也が苦笑する。


「だって……」

 怜花は俯いた。



「…お前は何でここに来たんだ?」

 燈也は少しだけ肩を竦めた。


「え?」

 怜花が目を瞬かせる。


「ちゃんと試験を突破したからだろ?

 ランクが低いとか関係ない。お前は実力で出場権を取った。

 …だからここにいるんじゃないか?」


「……」


 怜花は黙り込む。

 だがすぐに首を横へ振った。


「でも、…それだって燈也さんがいたからです、私一人じゃ絶対に出来ませんでした。」


「皆さんが、燈也さんがいてくれたから。だから私は――」


「それを言うなら…」


 燈也が言葉を遮る。


「俺だって同じだ。仲間が、()()がいてくれたからクリアできたんだ。」


 怜花が驚いたように顔を上げる。


「私が……ですか?」


「ああ」


「お前、自覚ないだろうが、

 困ってる奴がいたら放っておけないし、才能なんかなくても諦めずに努力し続ける。

 そんなお前の姿に、俺も気持ちを奮い立たせることが出来たんだぜ。」


「でも私は……」


「”強さ”だけが全てじゃない。

 お前にはお前にしか出来ないことがある。だから選ばれたんだよ。」

 燈也は静かに言った。


「燈也さん……」

 怜花の胸の奥が少しだけ温かくなる。


「だから、大会も一緒に頑張ろうぜ。そのための仲間だろ?」


「そうですね。」

 怜花はふっと小さく笑う。


「…やっと笑ったな。」


「だって、燈也さんにそう言われると安心しますから」

 怜花は少し照れ臭そうに微笑む。


「単純だな」


「あーひどいです!」


 窓の向こうでは月が海を照らす静かな夜に二人の笑い声が優しく響く。


「ありがとうございます。私、頑張ります!」

 怜花がぽつりと呟く。


「おう。」


「皆の足を引っ張らないように…」


「だからその考え方をやめろ。()()()()()()んだよ」


 燈也は当然のように笑う。


「勝つ時も負ける時も、それがチームだからな。」


「……はい」


 怜花は嬉しそうに頷いた。


 その笑顔は先程までよりずっと明るい、まるで夜空で輝く星のように。



次回 『第193想 終わらぬ戦争』


 十六年前に滅んだはずの帝国。

 だが、その炎は消えてはいなかった。


 祖国を失い、歴史の闇へと消えて尚、彼らは信じ続ける。


 己こそが正義であると――


 彼らの戦争はまだ、終わっていない。


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