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Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第一章 幽霊少女編

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第19想 友情の協奏曲

前回までのあらすじ


謎の少女――ななの為にバンドを結成した燈也達は、バンド活動を通じて仲間との絆を深めていく。

漣家に居候することになったななは騒がしくも温かな家族との団欒に徐々に心を開く。


一方燈也も、仲間や家族、そして過去と向き合いながら少しずつ、自分自身の本音に向き合うのであった。



 通学路。朝の光が校舎の窓に反射して、通りすぎる生徒たちの影を長く引き伸ばしていた。


「今日も練習なのだー!!」


 ななが両手を突き上げながら元気よく進む。

 胸元で抱えられたビビデバビルも、丸い目を輝かせて――


「ビッ!!」


 と気合いの入った声を上げる。どうやら主人のテンションに連動しているらしい。


「二人とも、朝から元気だな。」


 燈也(ともや)はそんな様子に苦笑(くしょう)しつつも、どこか嬉しそうだった。

 怪しいモンスターと全力で張り切る少女――それがいつの間にか、朝の見慣れた風景になっていることに自分でも驚く。


「にしても、もう二週間か……。」


 ふと(つぶや)いた声は、どこか感慨(かんがい)がこもっていた。

 気づけば、ライブ本番まであと一週間。

 練習でヘトヘトになる日もあったが、それでも妙に心地よかった。


 ――俺、こんなふうに誰かと騒いだり笑ったりするの、久しぶりだよな。


 そんな感傷(かんしょう)を胸の奥に抱えつつ歩いていると――。


「……なんだ? 騒がしいな?」


 校庭の前に差しかかった瞬間、ざわざわとした喧騒(けんそう)が耳を打った。

 普段は適度に穏やかな朝の校庭だが、今日は妙に人だかりができている。


 人々の視線が一点に集中している中央では――


「オイ!!俺にぶつかるとは、ケンカ売ってんのかぁ!? あぁん!?」


 数人の不良グループが、震え上がる男子生徒を取り囲んでいた。


「ひ、ひぃぃっ!! そんなつもりは、滅相(めっそう)もありません!!」


 何度も頭を下げ、声を裏返らせながら必死に命乞いしている。


「そりゃそうだよなァ? 俺ら“黒牙くろきば”の名前知らねぇやつなんざ、この学校にいるわけねぇしよ?」


 金髪の男が薄く笑い、胸ぐらを掴んだまま揺さぶる。

 その態度は完全に“狩りを楽しむ捕食者”のそれだった。


「今なら特別に、有り金全部で許してやるよ。」


「そ、そんな……! 勘弁(かんべん)してください……!」


 泣きながら(すが)る男子生徒。しかし、不良たちのニヤけた顔は変わらない。


 周囲では、多くの生徒が遠巻きに見ながら(ささや)き合っていた。


「どうする?助けるか?」

「いや……奴らに目をつけられたら終わりだって。巻き込まれるのはゴメンだぜ。」


 誰も助けようとはしない。その空気は重く、居心地が悪いほど静まり返っていた。


「燈也、どうするのだ?」


 ななが心配そうに(そで)を引いた。


 燈也は――少しだけ顔をしかめて、内心で深い息を吐く。


 面倒事は嫌いだ。

 まして相手は有名な不良グループとなれば、できることなら関わりたくない。


「……そうだな。」


 そう言いつつも、胸の奥に引っかかるものがあった。


 ――見過ごすのは……なんか、違うよな。


 その微かな苛立(いらだ)ちに気づいた時――


「朝からうるさいわよ。」


 乾いた声が、喧騒を切り裂いた。


 次の瞬間、不良の一人が横から激しく吹き飛ばされる。

 まるで見えない衝撃に弾かれたように、地面を転がった。


「なっ……なんだ!? 一体何が――!」


 不良グループが一斉に動揺(どうよう)し、あたりを見回す。

 群衆からどよめきが上がった。


「……あれ、魔法執行部の連中だ……!」


 生徒の誰かがそう呟いた。

 その声は(またた)く間に人だかりの中に広がり、場の空気が一変する。


「っていうか誰よ? あいつら?」


 不良を遠くへ吹き飛ばした張本人――魔法執行部部長 高天原帝亜(たかまがはらてぃあ)が、今さらのように小首を(かし)げた。


 どうやら“誰かも知らずに”ぶっ飛ばしたらしい。


 ――こいつ、勢いでやったのかよ……。


 燈也は内心で思いきりツッコむ。


「外見を見るからに不良グループのようだが……俺も知らん。」


 横で腕を組んでいた副部長の英明が、興味もなさそうに淡々と返す。


「なんだ……雑魚か。つまらないわ。」


 帝亜は、心底がっかりしたという表情で肩をすくめた。

 その態度は異様なほど自然で、むしろ“退屈”が勝っている。


 ――正直なだけなんだろうけどさ……不良相手にナチュラルに(あお)れるの、逆にすごいな。


 燈也はひとり冷静に分析する。


「あぁ? 誰が雑魚だ!!」


 案の定、不良たちは瞬時にブチ切れた。


「……助けてください!!」


 先ほどまで絡まれていた男子生徒が、帝亜の背後に(すが)りつく勢いで逃げ込む。


 帝亜はため息をつき、長い髪を指で払った。


「争いごとは嫌いなのよね。でも、善良な生徒を放ってはおけないし。」


(よく言うぜ……)


 燈也は半眼(はんめ)になる。

 自分を魔法執行部に勧誘するために、あれだけ容赦のない手段をとったのを忘れてはいない。


 周りの生徒たちも同じ思いなのか、妙な空気が(ただよ)う。


「俺たちに喧嘩売って、生きて帰れると思うなよ!!」


 不良グループが再び威嚇(いかく)し、拳を鳴らす。


 帝亜は逆に微笑(ほほえ)んだ。上品で、しかしどこか挑発的な笑み。


「私、あなたたちみたいな不良が大っ嫌いなのよね。来るなら早くしてくれる?」


「本音はそっちか……。」


 燈也はぼそりとツッコんだ。

 魔法執行部の“善行”より、不良を叩きのめすのが本命らしい。


「なっ……舐めやがって!! 俺たちが学園最強だってことを思い知らせてやるぜ!! 行くぞ、てめぇら!」


「へい! アニキ!」


「へへへ!! 喧嘩売ったこと後悔させてやる! まずは俺からいくぜ!! 食らえ!!」


 不良が黒い魔力を(まと)い、足元の砂塵(すなけむり)が舞い上がる。



≪中級闇魔法 邪極(イビル・)轟刃(エクストリーム)!!≫


 黒紫(くろむらさき)の魔力弾が帝亜へ向かって一直線に走る――。


 しかし、


「それは攻撃のつもりかしら?」


 帝亜は片手をひらりと上げただけだった。

 魔力弾はまるで薄い膜に吸い込まれるように消え、風すら起きなかった。


「ば……バカな……!?」

 不良の顔が真っ青になる。


「すげぇ……これが魔法執行部……!」「いいぞ! やっちまえ!!」

 周囲に歓声(かんせい)が一気に広がる。

 普段は恐れられる不良相手ということもあり、皆のテンションが高い。


「まだ来るの?」

帝亜は涼しい顔で問いかけた。



「ふざけんな!こうなったら全員でかかるぞ!!」


 不良グループのリーダーが怒号(どごう)を上げると、取り巻きどもがビビりながらも一斉に魔力を練り上げる。


「へ、へいっ!」


『燃えよ!』

≪初級火魔法・イグニ!≫


『大地よ!』

≪初級土魔法・テラー!≫


『堕ちよ!』

≪初級闇魔法・ザラム!≫


『痺れよ!』

≪初級雷魔法・レイ!≫


 四属性の初級魔法が同時に放たれ、渦を巻きながら帝亜へと襲い掛かる——。


 だが。


「……ふあぁ。退屈ね」


 帝亜は片手を軽く前に出し、

 その手元に展開した薄い魔力膜が、すべての魔法を軽々弾き返した。


 まるで()を払っただけのような軽さだった。


「むさ苦しい連中ね……あ、そうだわ」


 帝亜の表情がキラリと輝く。嫌な予感しかしない笑みだった。

 左手を上に掲げると、指に着けたリングが怪しく輝き出す。


≪——変化魔法 七彩(プリズム・)月化(ルナフォーム)


 不良たちの身体が光に包まれ、次の瞬間には——。


「……は?」


 メイド服。バニーガール。魔法少女。ナース。

 

 全員、よりにもよってコスプレ。


 しかも妙にハイクオリティ。


「なんじゃこりゃあああああああ!!?」


 鏡のように光る校舎の窓を見て、絶叫(ぜっきょう)する不良たち。


「うわ……なのだ……」


 ななは純粋(じゅんすい)な子ども特有の“本気で引いてる顔”になっていた。


「えげつねぇな……」


 燈也はドン引きしつつも関わりたくない気持ちでいっぱいだった。

(いやこれ、物理的な攻撃より精神にくるだろ……)


 そして周囲の生徒たちはというと——


「あははははっ! なによアレ!!」

「あっ、やば……ちょっと笑ったら可哀想……ぷぷっ……」

「ぎゃははは!! 最高だろこれ!!」


 校庭はほぼ爆笑の渦と化した。


 帝亜は満足げに髪を払って、


「ふふふ。よく似合ってるわよ? その格好」


 と追いコンボを入れる。


「ちくしょう! 覚えてろよおおおーーーっ!!」


 恥に耐え切れなくなった不良たちは、スカートを(ひるがえ)しながら全力疾走で逃げていった。


 その背中は、哀愁(あいしゅう)すら漂っている。


「……さて、片付いたわね」


 帝亜が何事もなかったように眼鏡を()く。


「ありがとうございました!!」


 助けられた男子生徒は、ほぼ泣きそうになりながら頭を下げる。


「当然のことをしたまでよ。困ってる生徒を見過ごすなんてできないじゃない?」


 言ってることは正しい。言ってることは。

(やってることは完全に遊んでたけどな……)


 燈也は心の中で深くツッコみながら、ため息をついた。


「ヤレヤレ……コイツらだけは敵に回したくないな」

 

 それが、この場にいた全員の総意だった。



「……少し話を聞かせてもらおうか?」

 低く響く声が校庭に落ちた瞬間、ざわめきがピタリと止んだ。

 現れたのは——ドライツェン・エクレール。生徒達から恐れられる鬼教師だ。


「ヤ、ヤバイ……エクレール先生だ……」


 ついさっきまで大爆笑していた生徒たちが、蜘蛛(くも)の子を散らすように静まり返る。


 ドライツェンはまっすぐ帝亜へ近寄り、冷気のような視線を突きつけた。


「……高天原。また騒ぎを起こしているようであるな」


 完全に怒りモードだ。


「なんだと……部長はな、せい——」


 帝亜の後ろにいた部員の雄介(ゆうすけ)がフォローしようとするが、


「雄介、黙っていて」


 帝亜が手で制す。

 まるで王が家臣に“控えよ”と言うかのような完璧な手の動き。


 そして帝亜は堂々と言い放つ。


「これは生徒の問題です。何もしない先生方は、引っ込んでいてもらえますか?」


 校庭に走る緊張(きんちょう)

 周りの生徒たちが ヒィッ と息を呑む。


 あのドライツェン相手に物怖じせず正面から挑発するなど、普通の生徒には絶対できない芸当だ。


「ほう……吾輩たちが何もしておらぬと?」


 ドライツェンの眼光(がんこう)(へび)のように細く鋭くなる。

 空気が一瞬にして凍りついた。


「そうでしょう? だから不良共が調子に乗るんです。あなた達のやり方は甘いんですよ」


 帝亜の声は静かで、しかし明確な挑発の刃が込められていた。


「なるほど……少し躾が足らなかったようだ」


 ドライツェンがニヤリと口角を上げる。

 その笑みは完全に“獲物を見つけた肉食獣”だった。


「続きは生徒指導室で聞かせてもらうことにしよう」


「フフ……いやだと言ったら?」


 帝亜も不敵に笑い返す。

 教師であろうと一歩も引く気はない——そんな気迫。


 周囲の生徒はもう戦々恐々(せんせんきょうきょう)だ。


「おい! よせ!」

 英明が慌てて間に割って入ろうとするが、二人の火花は止まらない。


「決まっておろう……」

 ドライツェンは手にした黒檀(こくたん)の杖を構えた。


「力づくで連れていくまでである」


 重い魔力が周囲の風を震わせる。


「面白いですね。一つご指導いただきますわ」

 帝亜の身体にも魔力が立ち昇る。肌がひりつくほどの衝突寸前の気配。


 ──だが、その刹那。


「やめるのだ!! 二人とも!!」


 澄んだ声が空気を切り裂くように(ひび)いた。


 小さな影が二人の間に飛び込む。


「なな!!?」


 燈也の叫びが裏返る。


「バカ! 危ないわよ!」

 帝亜が思わず声を荒げる。


「……ちっ」


 ドライツェンですら、わずかに動揺して動きを止めた。


 魔力の余韻(よいん)が揺らぐ中、ドライツェンの鋭い視線がななへ向く。


「小娘……なぜ吾輩(わがはい)の邪魔をする?」


 空気がさらに冷え込む。

 一触即発(いっしょくしょくはつ)の緊張の中でも、ななはまっすぐドライツェンを見返していた。


 その小さな背中を、燈也は思わず固唾(かたず)を呑んで見つめる。


「こいつは不良から生徒を助けただけなのだ! それに……友達が連れてかれるのを見過ごしなんて出来ないのだ!」


 ななが真剣そのものの声で言い放つ。普段の天真爛漫(てんしんらんまん)な語尾とは裏腹に、その瞳は力強かった。


「フッ……ハハハ! ライブも認めぬヤツらを友と呼ぶとは……笑わせてくれる!」


 ドライツェンの笑いは空気を切り裂くように響いた。


「そんなの関係ないのだ。友達は損得勘定(そんとくかんじょう)で決めるものじゃない。信じる気持ちが大切なのだ。」


 強い風がななの髪を揺らす。彼女は一歩も退かず、まっすぐに訴えた。


「……愚かな。他人を信じて何になる? 歌も同じ、そんなものに価値などないのである」


 (あざけ)る声が静寂(せいじゃく)を重く染めあげた。その瞬間、燈也の中の何かがプツンと切れた。


「好き勝手言いやがって。価値がないかは自分で決める。先生は引っ込んでろ!」

 気づけば燈也は飛び出していた。背後のななの手を引き寄せるように(かば)いながら。


「そ……そうだ、そうだ!」「ななちゃんは何も間違っていないわ!」


 周囲からも同調する声が上がる。尋常ではない緊張の中、皆が一斉にドライツェンを責める形になった。


「皆……」


 ななは小さく目を見開き、胸に込み上げるものを押さえきれない様子だった。


「フン! 興が冷めた……今回は見逃してやる」


 ドライツェンは鼻を鳴らし背を向ける。

「……だが、そんな甘い考えでライブが成功するとは思えんがな」


 最後に嫌味だけ残して、闇に溶けるように立ち去った。


「……ったく、お前も十分だろ。さっさと戻るぞ」


 英明が帝亜の肩を押しながら戻っていく。


「……ええ。」


 帝亜は動揺しながらも、それに従った。


 騒ぎの幕が完全に閉じると、燈也は肩の力を抜き、やれやれと手を後頭部にやる。

「ふう……ヒヤヒヤさせやがって。気を取り直して練習するぞ」


「なのだ!」

 ななもすぐに笑顔を取り戻し、元気よく返事をする。


 そこへ、凛とした声が響いた。


「先程は見事だったぞ、なな」


 白金凛(しろがねりん)が静かに歩み寄ってくる。ポニーテールの長い髪が揺れ、風紀委員長としての威厳(いげん)が自然と(にじ)む。


「アンタは白金……見ていたのか」


「ああ。もっとも、騒ぎを聞き駆けつけたときにはほとんど終わっていたが……

 先生相手に堂々としていたな。風紀委員として礼を言いたい」


 凛は深々と頭を下げた。


「て、照れるのだ……」


 ななは(ほほ)を赤らめ、もじもじと視線を泳がせる。


「我々風紀委員も応援している。ライブ、頑張ってくれ」


「ありがとうなのだ!」

 ななの声は弾んでいた。


「それと──」

 白金は小さく微笑む。

「風紀委員は、君のような勇気ある者をいつでも歓迎している。興味があれば待っているぞ」


 そう言い残し、さっそうと去っていく凛。


 残された燈也は、ぽん、とななの頭に手を置き、優しく笑った。

「良かったな、なな」


「……うん、なのだ!」


 嬉しさが隠しきれない声で、ななは胸を張る。


 騒動の後の空気はまだ冷たかったが、その中に確かな温かさがあった。



 放課後の廊下に、部活帰りの喧騒(けんそう)と夕日が混じり合っていた。

 燈也とななはライブ練習へ向かうため、音楽室の方へ歩いていたが──


「あの野郎……また遊んでやがるな」


 燈也が(あき)れた声を()らす。前方で女子生徒の群れに囲まれ、ひときわ目立つ男の姿がある。


「……どうだい? ハニー達、これからオレサマとデートでも……?」


 悪友の郷夜(ごうや)(あい)も変わらずチャラついた笑顔を振りまいていた。女子たちは困惑(こんわく)しつつも、やや引き気味に距離を取る。


「ビビビッ!!」

 その瞬間、小さな影が飛び出し、郷夜の足首にガブッと噛みついた。ビビデバビルだ。


「えっ……!? うぎゃあああああああああっ!!」


 郷夜はその場で飛び跳ね、廊下に響くほどの悲鳴を上げて暴れる。


「ハァ……ハァ……こいつ……またやりやがったな……!」


 ようやくビビデバビルを引き剥がし、郷夜は荒い息を吐きながら捕まえた。


「ビビー!?」


「コラ! ビビちゃんを返すのだ!」


 ななが慌てて走ってくる。


「うるせえ! こうしてやるぜ!」


 郷夜がビビデバビルを投げ捨てようと腕を振りかぶった──そのとき。


「行くぞ!突撃だぁぁぁ!!」


 廊下の奥から、旗とメガホンを持った生徒の集団が“ドドドッ”という効果音が似合う勢いで迫ってきた。


「ええ!!? う、うわああああああッ!!」


 郷夜はその迫力に完全に飲まれ、固まる間もなく生徒たちの波にのまれる。


「ななちゃんを守れーーーー!!」


「ぶっ……ぶぎゃあああああああああ!!」


 郷夜は想像以上のパワーで吹っ飛ばされ、廊下の端まで転がっていった。


 なながビックリして目を丸くしていると、一人のメガネをかけた男子生徒が前に出てきた。


「怪我はありませんか?」


「お、お前達は?」


 ななの問いに、彼らは一斉に胸を張って叫んだ。


「ボク達は──ななちゃん親衛隊(ファンクラブ)!!」


 生徒たちはみなピンクの法被(はっぴ)羽織(はお)り、鉢巻(はちまき)には“なな推し”の文字。

 統一感のある異様な光景に、燈也は思わず後ずさる。


「親衛隊……?」


 なながぽつりとつぶやく。


「ボク達、ななちゃんの頑張る姿に深く感動しました!!」


 ぽっちゃりした男子生徒が涙目になりながら語る。


「まぁ、そういうわけだ」


 その後ろから、見覚えのある二人が姿を現した。


「お前らは……魔法執行部の、日向(ひゅうが)如月(きさらぎ)?」


 雄介は頭を()きながら、バツが悪そうに笑う。


「いや〜……お前たちの練習姿を見てたら、好きになっちまってな……」


 照れ隠しのように視線をそらす。



「あ、あの……愛紗(あいしゃ)も応援してます。頑張ってください」

 愛紗は少し恥ずかしそうに笑い、ななの手をぎゅっと握る。


「部長には秘密だからな?」

 雄介がいたずらっぽいウィンクを投げる。


「良かったな、なな」

 燈也が柔らかく声をかけると──


「うん!」


 ななは満面の笑みで頷いた。


「俺達はお前らの味方だ! ライブが上手くいくように全力で応援するぜ!!」

 ファンクラブメンバーたちも声を揃えて笑顔を向ける。


「ありがとうなのだ!!」


 ななは嬉しさで身体ごと弾んでいた。


 そして、廊下の(すみ)からかすかな声が。


「……あの〜? 俺サマも……メンバーなんですけど……」


 さっき吹っ飛ばされた郷夜が、倒れたまま手を震わせながら呟いている。

 誰からも気づかれず、哀愁(あいしゅう)だけが漂っていた。


 ──一方その頃。


 離れた場所にある魔法執行部室では、コウモリ型の通信機がその光景を静かに映し出していた。


「……いいのか? 帝亜」


 映像を覗き込みながら、英明が問う。


「……好きにやらせておけばいいわ」


 帝亜は背中を向けたまま、腕を組んで答えた。

 その横顔はどこか複雑な影を落としていたが、それが何を意味するのかは英明にも読み取れなかった。



次回予告 『第20想 二人の共鳴曲』


練習も終盤を迎え、ななたちのひたむきな姿は、ついに帝亜たちの心を動かす。

反対されていたライブは、静かに認められていった。


そんな折、セレナ先生に促され、燈也たちはある場所へと向かう。

そこで待っていたのは――ななの未練、その核心。


時を越え、想いが交わる瞬間。

幽霊少女のなな、そして姉の再会が、物語を大きく動かし始める。


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