第19想 消えない約束、消えない少女
「よし、今日は無事に間に合ったな」
ギリギリで滑り込み、胸をなでおろしながら廊下を歩いていると、
生徒たちの噂話が耳に飛び込んできた。
「知ってる? また出たらしいわよ……あの噂の“幽霊”」
「なんでも数年前に亡くなった生徒が出るって……」
「よせよ、その話やめろって……俺ホラー苦手なんだから……」
(また七不思議か? うちの学校も飽きねぇな)
肩をすくめつつ歩いていると――。
「燈也くん!なんで早く出たのに今日もギリギリなのよ!」
先に学校へ向かったはずのリエラが、腕を組んで仁王立ちしていた。
「うるせーな。遅刻じゃないんだからいいだろ?」
「そういう問題じゃないの!!」
「お二人さん、今日も仲良いね~」
ニヤニヤしながら風間郷夜が割って入る。
「よう! 今日もビッグニュースあるぜ!
先週育休で休職した小野山先生の代わりに、新しい先生が来るらしい!」
(またかよ……美少女転校生の次は先生に夢見てんのか)
「先生ねぇ……興味ねーな」
「分かってないな~不知火君。いいか!?男にはロマンが必要なんだよ!
新任教師は女性らしい……つまり! 美人の先生に違いないってわけだ!」
妄想が暴走し始め、郷夜の目がギラギラしはじめる。
「風間が燃えてる……」
と、次の瞬間。
「あらら……美人の先生って、私のことかな?それは嬉しいね」
「ひえっ!!?」
郷夜の背後から、いつの間にか女性が立っていた。
気配がまったく読めなかった。
左右で色の違う和服のような上着、アシンメトリーのズボン。
腰まで届く桃色と紫のツートンの長髪に、切れ長のツリ目。
派手なのに妙に品のある、不思議な雰囲気の女性。
「アンタは……! あの時の……!」
燈也が目を見開く。
朝、銀行強盗を一掃していたあの女性だった。
「やあ。また会ったね、主人公くん。
私は臨時教師の――立花セレナ。よろしくね」
「ま、まさかこの人が新任教師の……」
郷夜はあからさまに困惑した。
見た目は確かに綺麗だが、どこか得体の知れないオーラがある。
「あら、不服?」
セレナがゆるく笑う。
「い、いや!! 滅相もございません!!」
郷夜は速攻で平伏。
逆らったらヤバイと本能が告げているのだろう。
「それで、何か用ですか?」
燈也は話を戻す。
ただ挨拶に来ただけとは思えない。
「ああ、忘れるところだった」
セレナは燈也に一歩近づき――。
「魔法執行部からの伝言よ」
ポケットにすっとメモを滑り込ませた。
「なっ……いつの間に……!」
触れられた感覚すらなかった。
「それじゃあまたね~。不知火燈也くん」
「どうして……俺の名を知ってるんだ?」
名乗った覚えはない。
「さぁ? どうしてかな?」
セレナは後ろ手にひらひらと手を振り、周囲の空気を歪ませながら廊下の奥へ消えていった。
「……変わった人だな」
魔法執行部に書かれたメモの通り、集合場所である学校の校門前までやってきた燈也。
時刻は夜。普通の生徒なら誰もいない、不気味なほど静かな時間帯だ。
「で…なんでお前達まで来てるんだよ!?」
振り返ると、当たり前のように両脇にリエラと加ヶ瀬怜花が並んでいた。
「私は燈也くんのパートナーよ? 一緒に来るのは当然でしょ」
リエラは腰に手を当て、自分が来なかった場合の方が問題だと言わんばかりに胸を張る。
「私も“見ている”って約束しましたからね」
怜花は柔らかく微笑む。
夜の薄暗い中でもその笑顔がはっきり分かるほど、穏やかでまっすぐな表情だった。
「……お前らには負けたよ」
どう考えても断れないと悟り、燈也はあっさり白旗を上げた。
そこへ――
「おいおい、不知火ぃ? いつの間にそんな可愛い子ちゃん達と仲良くなったんだ?」
そこに郷夜がひょっこり現れ、さっそく怜花へとロックオンする。
「へーい。オレ様は風間郷夜、不知火の親友さ。よろしくな、お嬢さん」
さっそく怜花にキラキラした笑顔を向けてくる。
「私は加ヶ瀬怜花です。こちらこそ、よろしくお願いします」
怜花は丁寧にお辞儀じぎをした。
「へぇ~怜花ちゃんって言うのかい?
名前まで可愛いとか反則だね。どう?お近づきの印に、これからディナーでも…」
まるでドラマの主人公かのように流れるような動作で誘う風間。
怜花が困っているのにも気づかない。
「あ、あの……」
怜花は一歩下がり、視線が泳ぐ。
「おい、それぐらいにしておいてくれ。っていうかお前まで何で来てるんだよ?」
燈也が割って入り肩を掴つかむ。
(魔法執行部とは無関係のはずだろ、お前…)
しかし郷夜は余裕の笑みを崩さない。
「それがさ、オレ様の下駄箱げたばこにこれが入ってたんだよね」
誇らしげに取り出したのは――どう見てもラブレター。
ハートのシールまで貼ってある。あからさま過ぎて逆に怪しいレベルだ。
「手紙?」
燈也は封筒ふうとうを受け取り、中を読んでみる。
「えーと……“郷夜くんへ。今日の夜、校門前で待ってます”……?」
その瞬間、郷夜の顔が“来た!”とばかりに輝いた。
「フッ……モテ過ぎってのも困るぜ」
星でも飛んでいるのではと思うほど、キラリとウインクまで決める。
そこへ――
「待たせたわね」
冷静な、しかし芯のある声が響く。
振り向くと、メモを書いた本人――魔法執行部部長・高天原帝亜が現れた。
後ろには工藤英明、日向雄介、如月愛紗、セフィリアの四名も続く。
「あら? 加ヶ瀬サン達まで来てくれたのね」
帝亜が怜花に気づき、柔らかく微笑む。
「あの……ご迷惑でしたか?」
怜花が少し不安げに尋たずねる。
「そんなことないわ。むしろ助かるわよ。人手が欲しかったところだし。
リエラさんもよろしく~」
「もちろん」
リエラは胸を張って答える。
「別に要らない思うけど…?」
セフィリアが悪態をつく
「なんですって!」
二人の仲は相変わらずのようだ。
「さて、ここに呼んだ理由だけど――」
帝亜が切り出そうとしたその瞬間。
「ちょい待った。オレ様を忘れていないかい?」
郷夜がずいっと前に出てきた。
「この手紙でオレ様を呼んだのは、どこのハニーだい?」
ラブレターを掲かかげ、なぜか決めポーズ。誰も求めてない。
帝亜は眉間に皺を寄せる。
「なにそれ? 私達は知らないわよ?」
「おいおい、冗談がキツイぜ。確かに“ここ”って書いてあったんだぜ?」
「あっ……お前、これ宛名が違うぞ」
燈也が冷静に突っ込んだ。
「え……?」
郷夜は慌てて封筒を奪い返し、震える手で読み返す。
そこにはしっかりと――
“香山くんへ”
と書いてあった。
「……」
郷夜の目がぐるぐる回り始め、次の瞬間には腕全体がぶるぶると震え出した。
(……流石に哀れ過ぎる)
「……ドンマイ」
燈也がそっと肩に手を置く。
「チクショォォォォー!!!」
絶叫しながら郷夜は闇の中へ走り去っていった。
「えーと……それじゃあ、気を取り直して本題に入るけど……」
帝亜は大きくため息をつき、表情を整えて改めて前に向き直った。
「あなた達をここに呼んだ理由。それは――【学校に出没する《幽霊》の調査】よ」
次回 『第20想 思い出させたくない夜』
夜の学校に集まった主人公達と魔法執行部のメンバー。
夜の校舎を班に分かれ探索する燈也たち。
幽霊など本当に存在するのか?




