第187想 朱雀のエース、最強を名乗る少女
「それにしてもすげぇなぁ……」
郷夜が会場を見回しながら口笛を吹く。
「いい?くれぐれも問題なんか起こさないでよ?」
流水が腕を組む。
「分かってる分かってる。」
郷夜が適当に返事をする。
そして、次の瞬間。
「おい見ろよ!!あっちめっちゃ可愛い子いるぞ!!」
郷夜が一点を指差した。
真っ赤な長髪、気品あるドレス。
周囲とは明らかに違う存在感。
「行ってくる!!」
「もう言ってる傍からぁぁぁぁ!!」
流水が頭を抱え掛けだそうとする郷夜を捕まえる。
「なんで、止めるんだよ?ヤキモチか?」
「黙りなさい!
あんたを野放しにして置いたら、青龍学園の恥になるわ!」
「ヒドイ言い草だな。少しは信用してくれよ」
「いやよ。」
「まぁ、風間だしな。」
燈也が苦笑する。
その時だった――
「これは、これは随分と賑やかな方々ですね」
柔らかな声が響き、一同が振り向く。
そこには五人の男女が立っていた。
全員が赤と白を基調とした制服を着ており、纏う魔力も尋常ではない。
「ん?あんたらは?」
燈也が目を細める。
前に出たのは金髪の青年だった。
犬耳と尻尾を持つ半獣人で、爽やかな笑顔を浮かべている。
「失礼しました。僕は”レオン・ボルフォード。”
生徒会役員であり、朱雀魔導学院代表選手です」
胸に手を当て礼儀正しく答える。
「同じく生徒会役員の書記の”飛苑寺彩芽”と申します」
続いて長い黒髪の少女が一礼する。
「副会長の”心月院燕”だ」
隣の無愛想な青年が短く言った。
そして、
「会計の”ライラ・ガーネット”ですわ~♪」
金髪の少女が優雅にスカートを摘まむ。
最後に全員が自然と一歩下がり、中央に立つ少女へ視線が集まった。
燃えるような紅い髪、鋭い紅眼。
黙って立っているだけで空気が変わる。
「そして、我ら朱雀魔導学院のリーダー、生徒会長の”鳳凰紅音”様です」
レオンが微笑み、紅音は軽く視線を向けた。
「……様はやめてと言っているでしょう?」
「も…申し訳ありません。」
「全く…では改めて鳳凰紅音ですわ。」
たったそれだけ――
名前を告げただけなのに、妙な圧迫感がある。
「へぇ、結構可愛いじゃん?」
郷夜が感心したように言う。
「郷夜、あんたは黙ってなさい。」
流水が額を押さえた。
「なんでだよ!?」
「面白い方ですね。まぁ嫌いじゃありませんよ」
レオンが苦笑する。
そう言って、今度は燈也を見る。
「それにしても、お会いできて光栄ですよ。不知火燈也さん?」
「俺?」
「ええ。今や世界中の魔術関係者が注目していますから。
何と言っても最強と謳われるSランク所持者ですからね。」
周囲の空気が少し変わり、燈也は肩を竦めた。
「そんな大したもんじゃねぇよ。」
「ふふ、ご謙遜を」
レオンが笑う。
だが、その目は笑っていない。
「ですが、Sランクは貴方だけではありません」
そう言って、隣の紅音を見る。
「彼女もSランクです。しかも最年少記録保持者」
「……なっ!」
リエラが驚き、周りも同様に目を見開く。
「燈也くんと同じ…Sランク……?」
リエラが紅音を見る。
「…レオン。」
紅音が口を開く。
「余計なことは言わなくていいわ。」
「あ、失礼しました。つい自慢したくなりまして…」
レオンが肩を竦める。
「後で覚えてなさい。」
「怖いですね。」
全然怖がっていない顔だった。
そして、紅音が燈也へ向き直る。
「不知火燈也ですわよね?」
「……なんだ?」
「世間ではSランク最強と呼ばれているそうだけど…」
「勝手に言われてるだけだ」
「そう、でもその肩書きも長くは続きませんわ」
紅音は静かな声で話す。
しかし絶対の自信が滲んでいた。
「本当の最強は私ですから」
空気が張り詰める。
「はあっ!?何よアンタ!」
リエラが一歩前へ出た。
「アンタよりも燈也の方が――」
「リエラ」
燈也が止める。
「でも!」
「いいんだ。」
燈也は首を振り、紅音を見る。
「自信あるんだな」
「当然ですわ」
「ならトーナメントで確かめればいい。」
紅音の目が少しだけ細くなる。
「……面白い返事ですわね」
「喧嘩売る気はねぇからな」
「そう」
紅音は興味深そうに見つめしばらく沈黙が流れる。
やがて、くるりと背を向けた。
「レオン、行くわよ。」
「はい」
レオンが会釈する。
「それでは青龍学園の皆さん、トーナメントでお会いしましょう」
朱雀の面々は去っていく。
残された燈也達はしばらく誰も喋らない。
最初に口を開いたのは郷夜だった。
「……なんか、いけ好かねぇ連中だったな」
「そうね……」
流水も頷く。
「でもあの鳳凰紅音って子…かなり強いわ」
「でも可愛かったぞ?」
郷夜が笑う。
「はあ…アンタは黙ってなさい」
「何で!?」
そして、リエラが燈也を見る。
「何で言い返さなかったのよ。Sランク最強は私だとか言われてたじゃない!」
燈也は苦笑した。
「こんな場所で騒ぎ起こせないだろ?…それに」
表情が少し真面目になる。
「…腐ってもSランクだ。あれはハッタリじゃない。…本物だよ」
一同の表情が変わる。
「下手にやり合うのは危険だ。」
「……へぇ。成長したじゃない。」
流水が口元を緩めた。
「なんだよそれ?」
「昔なら売られた喧嘩全部買ってたでしょ?」
「否定できねぇな。」
燈也が笑う。
「それに大会前だ。手の内を見せる意味もないだろ?」
「あー!知ってるぞそれ!」
郷夜が指を鳴らした。
「能あるハゲタカは頭隠すってやつだろ!」
「ハゲタカが頭隠してどうすんのよ!
それを言うなら能ある鷹は爪を隠すでしょ!」
流水のツッコミが炸裂する。
「あーそれだ、それだ!似たようなもんだろ?」
「全然違うわよ!!」
再び賑やかな声が響く。
だがその頃、会場の別の場所で紅音が一度だけ振り返っていた。
「……不知火燈也……。」
小さく呟く――その瞳には、対抗心とは違う。
何かを確かめるような光が宿っていた。
次回 『第188想 もう一つの四大魔法学校!白虎魔法アカデミー、参上』
四大魔法学校の一角、朱雀魔導学院との邂逅を終えた燈也たち。
しかし、出会うライバルはそれだけではなかった。
個性の塊のような集団、白虎魔法アカデミーが燈也たちの前に現れる!
強さを求める純粋な闘志。拳と拳で交わされる約束。
白き牙は、最強へと挑み続ける。




