第184想 強者達が集う魔導客船”テティス”
――合宿が終わってから、数日後。
青龍魔術学園の校庭には、朝から張り詰めた空気が漂っている。
校庭中央には、青龍学園の紋章が刻まれた大型の魔導バスが停車しており、
既に周囲には教師達や一般生徒達まで集まり、小さな人だかりになっていた。
これは来月開催される”マジック・ウィザード・トーナメント”の前夜祭へと向かうために
待機しているのだ。
「うわぁ……なんかマジで代表選手って感じしてきたな…ああ、緊張してきた!!」
郷夜が感心したようにバスを見上げる。
「今日は前夜祭、単なる顔合わせのパーティーだ。別に戦いに行くわけじゃないんだぞ。」
燈也が呆れたようにため息をついた。
「いやだってよ!?各校の魔導士達が集まる大会だろ!?
もっとこう……、血みどろ殺伐空間を想像しちまったぜ・」
「お前はいつも極端なんだよ。」
燈也が肩を竦める。
「えぇ~? でも実際ヤバい奴ばっか来るんだろ?」
「否定はできないわね」
流水が腕を組みながら答えた。
「各校の代表って時点で、最低でも一芸持ちばっかりでしょうから。」
「うぅ……胃が痛くなってきました……」
怜花が小さく肩を縮こませる。
「今から緊張してどうすんだよ」
燈也が苦笑する。
「だ、大丈夫ですっ! 頑張りますから!」
「ああ、その意気だ」
そんなやり取りの横で。
帝亜は腕を組み、静かに燈也達を眺めていた。
「……相変わらず、面白い子達ね。」
その横顔には、いつもの余裕がある。
「……騒がしいのは苦手なんだがな」
英明が面倒くさそうに呟く。
「まぁそんなこと言わずに、
旨いものも沢山食えるかもしれないし、楽しんで行こうぜ。」
膤斗が英明の肩に手を乗せながら笑う。
「フッ…お前は相変わらずだな。」
「こういうのは楽しまないと損ってもんだろ?」
そこへ――
コツ、コツ、と重い足音が響き空気が少し変わる。
「……あれは」
郷夜が小声を漏らす。
校舎側から歩いてきたのは、教頭の片霧国光。
見た目は40代程で、長身に長い銀髪、ロングジャケット。
鋭い眼光に狼のような獣耳、左目の傷跡を持つ獣人であり、
ただ歩いているだけなのに、鋭い威圧感があり、一般生徒達が、思わず道を開けていた。
「相変わらず怖ぇ……」
郷夜がヒソヒソ呟く。
「黙ってれば完全に裏社会の人だもんね」
ななみも小声で同意した。
「オラ、聞こえてんぞガキ共」
「ひぇっ!?」
二人が肩を跳ねさせる。
国光は煙草を咥えたまま、ふっと鼻で笑った。
「……まぁいい」
そして、集まった代表生徒達を見回す。
「今回は理事長が同行だ。俺ァ学校に残る。
留守を守る奴ァも必要だからな」
その言葉と同時に、後方から優雅な足音が近づいてくる。
「皆さん、準備はよろしいですか?」
理事長のレイリアスが静かな微笑みを浮かべながら現れる。
「すげぇ…理事長直々か……いつ見ても美しいぜ」
郷夜が小声を漏らす。
「当然でしょ。学校の代表者なんだから。」
流水が答える。
レイリアスは生徒達を見渡し、静かに頷いた。
「今回の前夜祭には、各国の要人も多数参加しています。
皆さんの振る舞い一つで、青龍学園への評価も変わるでしょう」
レイリアスが微笑む。
「うげぇ……そう言われるとなんだか、胃が重くなってきたぜ」
郷夜が露骨に顔をしかめた。
「大丈夫ですよ。静かにしてれば問題は無いんですから。」
癒水が優しく笑う。
「アイツにそれが出来ればの話だがな。」
「ハハッ…言えてる!」
「うるせー!」
そのやり取りに周りから笑いが漏れる。
だが、国光だけは笑わずに、煙草の煙を吐きながら、低く呟く。
「ったく……いいか、これは遊びじゃねェ。
パーティーだからって浮かれ過ぎんな……。」
一瞬で空気が締まる。
「……」
燈也達が黙って聞く。
「調子に乗ってる人間は…いつか痛い目に遭うぜ?」
それは教師の言葉というより。戦場を知る男の言葉だった。
片霧は最後に、ふっと口元を歪める。
「ま、…せいぜい楽しんで来い。前夜祭くらいはな」
少しだけ空気が緩む。
「片霧先生って不器用ですよねぇ」
ななみが小さく笑う。
「うるせぇ」
「でも、ありがとうございます」
癒水がぺこりと頭を下げた。
「……チッ。さっさと行け」
片霧は気まずそうに煙草を咥え直す。
「では皆さん、そろそろ出発しますよ」
レイリアスがバスへ視線を向けると扉が静かに開いた。
「おぉ~……高級感すげぇ……!」
郷夜が目を輝かせる。
「もうはしゃぐがない。恥ずかしいでしょ!」
流水が即座に首根っこを掴んだ。
「ぐえっ」
「ほら、後がつかえてんだ。遊んでないで行くぞ。」
燈也が笑いながらバスへ乗り込む。
数時間程、バスに揺られていると、海が見えてくる。
海上に浮かぶのは巨大な白銀の影――超巨大魔導客船“テティス”。
豪華な装飾に幾重にも連なる光、まるで海に浮かぶ宮殿だった。
「いくらなんでもデカ過ぎでしょ……」
流水が呆然と呟く。
「すげぇー!まるで城じゃねぇか!?」
「これが全部パーティー会場なんですか?」
怜花も目を見開く。
船の周囲には、無数の警備艇。既に世界規模の空気が漂っている。
「ええ、そうですよ。」
魔導バスはゆっくりと停泊ゲートへ近づいていく。
世界中の強者達が集う宴の舞台へ、生徒達は足を踏み入れようとしていた。
次回 『第185想 選ばれし魔導士達』
マジックウィザードトーナメント開幕を前に、
各校の代表選手達が一堂に集う前夜祭が始まる。
煌びやかなシャンデリア、海上を進む巨大客船。
集うのは、各国の要人と選ばれし魔導士達ばかり――
強者達の視線と思惑が交錯する。




