第181想 遠い約束の気配
祭りの熱気が、夜を包む。
赤い提灯に空へ伸びる屋台の灯り。
遠くから、花火開始を知らせるアナウンスが流れる。
『まもなく、青雲祭花火大会を開始いたします――』
「そろそろ、始まるみたいね。」
流水が空を見上げる。
「それにしても、人多すぎじゃない……?」
「こんなもんだろ。むしろ祭りはこれくらいじゃねぇとな!」
郷夜がケラケラ笑う。
「アンタは騒げれば何でも良いんでしょ……」
流水が呆れ顔を向ける。
「でも、本当に賑やかですね。」
怜花が小さく微笑む。
「まあ、青雲祭の花火は有名だからな。」
そう言いながら燈也が歩き出しかけた、その時だった。
人混みの向こうに見覚えるのある、白い帽子が見えた。
「――っ」
燈也の視線が止まる。
白と赤を基調にした浴衣姿、風に揺れる短い髪。
顔は見えない――けれど。
「…”唯”か?」
その後ろ姿だけで胸の奥がざわつき、気付けば足が動いていた。
「待っ……!」
燈也は人混みを抜け、角を曲がる。
だが――
そこにはもう、誰もいなかった。
「……ただの見間違い、か」
燈也が小さく息を吐いた。
その時。
「おーい!!何やってんだ!!もう少しで花火始まるぞー!!」
通りの向こうで、郷夜がぶんぶん手を振っていた。
「ああ…今行く。」
燈也が軽く手を振る。
「ったく。はぐれて迷子にだけはなるなよ。」
郷夜が騒ぎながら人混みの方へ戻っていく。
「アンタはまず、自分が迷子にならないようにしなさいよ……」
流水が呆れた様子でツッコミを入れる。
「失礼だな!今日は完璧にルート把握してるぜ!」
「それ、死亡フラグですよね。」
黒子の一言
「黒子ちゃん、それは酷くない!?」
「事実ですので」
「相変わらず、辛辣!!」
郷夜が大袈裟に崩れ落ち、周囲から笑いが漏れる。
そのまま皆は、花火がよく見える河川敷の方へ歩いていく。。
燈也も歩き出そうとした、その時だった。
袖が、くい、と小さく引かれる。
「……?」
振り返ると、人混みに紛れるように聖妓が立っていた。
他の皆には見えない位置で。
「……少し、付き合いなさいよ。」
小声で囁くように呟く。
いつもの強気さを隠すみたいに、視線は逸れている。
「ん?なんだよ」
燈也が首を傾げる。
「もっと良い場所を知ってるの」
聖妓はぶっきらぼうに言う。
「へぇ…それは良いな!なら早速、他のみんなにも声かけるか…」
「それはダメ!!」
反射みたいに聖妓が返す。
「……えっ?」
「いや……その……」
聖妓はしまった、という表情を浮かべながら
言葉を続ける。
「人多くなると見づらいし……二人くらいの方が静かに見れるでしょ!」
「……あー、なるほど。」
燈也が納得したように頷く。
(ほんっと鈍感……)
聖妓が心の中で額を押さえる。
だが――
だからこそ、今なら少しだけ素直になれる気がした。
「おーい!燈也ー!」
前の方では、郷夜達の声がまだ聞こえる。
聖妓は、燈也の袖を引っ張る。
「……こっちよ。
皆には、あとで合流するって言っとけばいいでしょ」
「まぁ、それもそうだな。」
燈也の言葉に、聖妓は小さく息を吐く。
ギリギリ、誤魔化せた。
簡単に仲間へ告げると、二人は静かに外れる。
まるで祭りの喧騒から、少しだけ切り離されたみたいに。
次回 『第182想 花火の届かない場所』
花火が咲く夜。
祭りの喧騒から少しだけ離れた場所で、聖妓は胸に秘めた想いを告げようとする。
届きそうで、届かない言葉。
夜空に咲く大輪の花は、二人の距離を照らし出す。




