第176想 灯りの残る縁側で
――魔法旅館・夜。
賑やかだった時間も過ぎ、廊下は静けさに包まれている。
遠くからかすかに聞こえるのは、他の客の話し声と、風鈴の音だけ。
燈也は一人、外の縁側に座っていた。
夜風が、少しだけ冷たい。
「……」
手元の湯呑みからは、ほのかに湯気が立ち、
視線はぼんやりと庭の方を眺めている。
「……燈也さん」
後ろから、控えめな声。
振り返ると、そこには怜花が立っていた。
「……起きてたのか」
「はい、なんとなく……眠れなくて」
ゆっくりと近づき、燈也の隣に座る。
「今日は……大変でしたね」
「ああ、思ってたよりはハードだったな」
「あはは……そうですよね」
怜花は苦笑する。
「でも……怖かったですけど……」
少しだけ視線を落とす。
「ちゃんと、進めてよかったです」
「怖かったなら、無理しなくてもよかったんじゃないか?」
燈也が何気なく言う。
だが、怜花は首を振る。
「……いいえ。一緒に行きたかったんです」
「……」
「皆さんと……燈也さんと」
その言葉は、まっすぐだった。
「……そっか」
燈也はそれ以上言わない。
少しの沈黙。
風が吹き、木の葉が揺れる音。
「……あの」
怜花が、少しだけためらいながら口を開く。
「ん?」
「ななちゃんのこと……なんですけど」
燈也の表情が、ほんの少しだけ緩む。
「……」
「ななさん……嬉しそうでしたよね」
「ああ…。最後は……ちゃんと笑ってた」
燈也の声が、少しだけ柔らぐ。
「はい…まるでライブの時のななちゃんを思い出しました」
怜花は静かに頷き、小さく笑う。
「いつも元気で、明るくて…」
「……ああ」
短い返事。
けれど、その一言には沢山の感情が滲んでいた。
「それに、騒がしかったしな。
……静かな日なんて、ほとんど無かった」
燈也は夜空を見上げる。
「……でも、不思議と嫌じゃなかった。」
「……」
怜花は、その横顔を見る。
「燈也さん」
「ん?」
「今日、会えてよかったですね。。……幻でも」
燈也は少し黙って――それから、小さく笑った。
「……ああ、そうだな。」
二人が静かに微笑む。
「それで私、ふと思ったんです…」
怜花は少し考えるように視線を落とす。
「灯りの話も、ななちゃんみたいに
誰かのために、残ってる存在……っなのかなって」
「……そうかもな」
燈也がぽつりと返す。
風が、優しく吹く。
「……燈也さん」
「ん?」
「これからも……」
少しだけ言葉に詰まりながらも、話を続ける。
「一緒に、進んでいけますか?」
「……当たり前だろ。一人じゃ無理なこともあるしな」
少しだけ笑う。
「でも二人なら乗り越えていける。今日みたいにな…」
「……はい」
怜花も、安心したように微笑む。
二人の距離が、ほんの少しだけ近づく。
触れるほどではない。
でも、確かに“隣にいる”距離。
「さて……そろそろ戻るか」
燈也が立ち上がる。
「そうですね。」
怜花も続く。
夜は、静かに更けていく。
思い出は消えないまま、でも少しだけ形を変えて――前へと進んでいく。
次回 『第177想 祭りの朝、笑顔の続き』
肝試しを乗り越え、少しだけ変わった仲間達。
穏やかな朝の旅館に戻ってきたのは、いつもの賑やかな日常だった。
そして始まる、この町最大の祭り――青龍祭。
浴衣、屋台、花火。
夏の夜が、再び彼らを繋いでいく。
夏祭りの幕が、今上がる。




