第175想 灯りは、まだ消えない
――廃寺を出た帰り道。
さっきまでの張り詰めた空気が、嘘みたいにほどけていく。
風はやわらかく、木々のざわめきもどこか穏やかだった。
「……なんか、帰りは普通ね。さっきまでのが嘘みたいだわ」
流水がぽつりと呟く。
「そうですね……
魔力の流れも、かなり安定しています」
愛紗も周囲を見渡す。
「トラップも、ほとんど感じないな」
膤斗が地面を軽く蹴る。
「……終わった、ってことか」
燈也が小さく息を吐く。
「おーい!さっさと帰ってゲームでもしようぜ!」
郷夜が自信満々に先頭を進む。
「おい、そっちは逆だぞ?」
「えっ…ああ、そうだった!うっかりな。本当はこっちだ。!」
「あの…その先は崖ですよ?」
「なっ…!ひぃぃ、あっ…危なかった!!」
郷夜が慌てて止まる。
「頼りにならないですね。」
そんな様子を呆れたように表情で黒子が呟く。
――森の入口。
旅館の灯りが見えた瞬間、張り詰めていた空気が一気に緩む。
「……はぁぁぁ……帰ってきた……
もう無理……ほんと無理……」
帝亜がその場にしゃがみ込む。
「全員戻ったみたいね」
入口で待っていたセレナがいつも通りの落ち着いた表情で微笑む。
「カードは?」
燈也が軽く掲げる。
「ほらよ。ちゃんと回収してきた」
セレナは一瞥し頷く。
「お見事、全員クリアよ。」
「いや〜マジでやばかったんッスよ!!」
恒一が騒ぎ出す。
「あなたの場合は自分で踏んでただけでしょう」
|黒子が淡々と返す。
「ぐっ……!」
「そう言えばよ。皆は見たか!?あの灯り!」
雄介が勢いよく割り込む。
「灯り?」
セレナが自然なトーンで聞き返す。
「青白い感じのやつ!
なんかさ、道案内してるみたいだったよな!」
「そういえば、俺も見覚えがある!」
英明も頷く。
「……わ、私も……」
帝亜が恐る恐る言う。
「私も感じました。魔法ではない……ですが、“導く意思”のようなものを」
愛紗が静かに続ける。
「分かる。…誰かが見守ってくれてたような……」
ななみが遠くを見る。
「……へぇ、随分ロマンチックな話ね」
セレナが軽く相槌を打ちながら、いつもの調子で返す。
だが――
ほんのわずかに、視線が森の奥へ向く。
(……おかしいわね)
内心で呟く。
(そんな演出、仕込んでない)
今回の肝試しも使ったのは幻術、結界、視覚操作。
“灯り”なんて仕掛けは入れていない。
(あの伝承は……ただの雰囲気づくりのはず)
だが、その疑問もほんの一瞬。
「まあ、そういう話あるわよね。
錯覚とか、自然現象とか、それっぽく感じただけでしょ」
軽く肩をすくめる。
「え〜、でもなぁ……」
雄介が納得しきれない様子。
「皆、揃って錯覚なんてしないと思うんだけどな…」
「たまたまでしょ」
セレナはあくまで軽く返す。
それ以上は踏み込まない、周りの空気に合わせるように。
「……まあ、そういうことにしとくか」
燈也も深くは追わない。
「さあ、いつまでもこんな所にいたら風邪を引くから戻りましょう。
温泉も、まだ入れるわよ」
セレナが手を叩く。
「マジで!?生き返るぅ!!」
恒一が即反応。
「やれやれ、現金ですね」
黒子が呆れる。
「……よかったです、」
怜花が小さく呟く。
「何がだ?」
燈也が横を見る。
「みんなが、ちゃんと帰ってこれて」
優しく微笑む。
「……だな」
燈也も頷く。
背後の森は、もう何も語らない。
けれど――確かにそこには、灯りがあった。
それに気づいた者は、ほんのわずか。
その意味は、いつかきっと――
次回 『第176想 灯りの残る縁側で』
肝試しを終えた、燈也と怜花。縁側で交わされるのは、
ななとの思い出と、胸に残った“灯り”の話。
悲しみは消えない、それでも人は前へ進いていく。
隣に、大切な誰かがいるなら――。
夜風の中、二人の距離が少しだけ近づいていく。




