第165想 肝試し、その入口で
――夜の森、入口。
旅館の灯りが背後に遠ざかるにつれて、周囲の空気はゆっくりと“別物”へと変わっていく。
さっきまで賑やかだった声も、ここではやけに遠く感じた。
風が吹き、木々が揺れる。
――それだけのはずなのに。
どこか、人の気配に似た“何か”が混じる程だ。
「……静かすぎない?」
ななみがぽつりと呟いた。
「こういう場所って、だいたいこんなもんだろ」
燈也が軽く言う。
だが、その視線は自然と奥へ向いている。
「いやいやいやいや無理無理無理!」
帝亜が全力で首を振る。
「なんでこんなところでやるの!?」
「肝試しって言ったでしょ」
流水が肩をすくめる。
「むしろここまで来て帰るとかダサすぎない?」
「だ、ダサくていい!!命の方が大事よ!!」
「へぇ?」
聖妓がにやりと笑う。
「じゃあ逃げるの?魔法執行部長さん?」
「逃げるっていうか……戦略的撤退というか……」
「やっぱ逃げてるじゃない!」
「うぐっ……!」
帝亜言葉に詰まり、周囲からくすくすと笑いが漏れる。
「別に強制じゃないわよ?」
セレナが静かに口を開く。
月明かりに照らされ、その姿はどこか幻想的だった。
「怖いなら、ここで待っててもいいわよ?」
「……」
帝亜が黙る。
その横で、聖妓がわざとらしくため息をつく。
「ま、仕方ないわよね」
「こういうの、向いてない人もいるし」
「……っ!」
ピクリと反応する帝亜。
「別に、怖いわけじゃないし!」
「ただ、その……準備が――」
「じゃあ来るのね?」
被せるように言われる、完全に逃げ道を塞がれた。
「……い、行くわよ!」
半ばヤケ気味に叫ぶ、周囲から笑いが起きる。
「それじゃあ、話も済んだみたいだし、
この辺りで説明するわね。」
セレナは一歩前へ出る。
「ルールは簡単よ。
この森を進んで、山奥にある廃寺へ向かうこと。
その奥にある――墓地の最奥に“カード”が置いてあるから
それを回収して、ここまで戻る」
「それだけよ。」
「それだけって言うけどさ……」
雄介が苦笑する。
「普通に難易度高くないですか?」
「そう?」
セレナは首を傾げる。
「あなたたちなら問題ないと思うけど?」
その言葉に、燈也は小さく笑った。
「これは、随分と信用されてるんだな、俺たち」
「当然よ。じゃなきゃ連れてこないわ」
セレナが優しく笑う。
「あの~?途中で帰るのはアリなんでんでしょうか?」
愛紗が少し不安そうに聞く。
「命の危険を感じたら、ね」
セレナは微笑む。
「ただし、そう簡単に“帰れるとは思わないこと”」
「え?」
何人かが反応する。
「なんて、冗談よ。
これはあくまで遊び、危険なんてある筈ないわ」
「もう、脅かさないでくださいよ。」
「じゃあ、そろそろ行く?」
流水が軽く言う。
「怖がりさんも覚悟決めたみたいだし」
「うるさいわね!!」
帝亜が即ツッコミ。
「あっ…そうそう。」
セレナが静かに口を開き全員の視線がそちらへ向く。
「この森の奥にある廃寺、…”ただの廃墟”じゃないの」
わずかに間を置く。
風が吹き、木々がざわめく。
「昔…この辺りは遭難が多かったらしいわ。
山の地形が複雑で、特に夜になると方向感覚を失いやすかったみたい…」
「へぇ……」
雄介が相槌を打つ。
セレナは続ける。
「そこで、その寺の僧が――
夜通し灯りを絶やさず、迷った人を導いていたそうよ」
「……いい人じゃん」
恒一がぽつりと言う。
「ええ。かなりね。」
セレナは軽く頷く。
「でも、ある嵐の夜、迷い込んだ子供を助けに僧は山へ入って――
そのまま誰も帰ってこなかった。」
空気が一瞬、重くなる。
「でもね。…その僧は“今もいる”っていう話があるの」
「え?」
何人かの声が重なる。
「それ以降も廃寺となっても、灯りを見たとかなんとか、」
「そして、その灯りを見た者は帰れる。でも――」
少しだけ、声のトーンを落とす。
「その灯りを無視した者は、戻れない……ってね」
「ちょっと待って、それ今言う必要あった!?」
帝亜が半泣きで叫ぶ、周囲から苦笑が漏れる。
「まあまあ」
流水が笑う。
「こういうのも含めて“肝試し”でしょ」
「軽いわねあんた!!」
だが――
「……灯り、か」
燈也が小さく呟き、森の奥を見る。
そこに広がるのは暗闇、何も見えないはずの先。
なのに――
(もし、本当にあるなら……)
一瞬だけ、そんな考えがよぎる。
「燈也さん?」
怜花が心配そうに覗き込む。
「……いや、なんでもない」
燈也は軽く首を振る。
「作り話だろ、どうせ」
そう言いながらも――
胸の奥に、わずかな引っかかりが残る。
次回 『第166想 肝試し――運命のペア決め』
いよいよ始まる、夜の肝試し。
……その前に待っていたのは、運命のペア決め!?
くじ一枚で上がる悲鳴。
喜ぶ者、絶望する者、なぜか揉め始める者まで続出。
「いや待って、それ本気!?」
「チェンジ!チェンジ希望!!」
「却下よ♪」
怖いのは幽霊か。それとも、距離が近すぎる相方か。




