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Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第五章 湯けむり大騒動!?魔法旅館編

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第164想 廃寺の奥、残響する約束


「肝試しでも、どうかしら?」


「「「は?」」」

 見事に揃った声が、夜の空気を震わせた。


「この近くに有名なスポットがあるのよ」

 セレナはさらりと続ける。


「場所は旅館の外にある裏手の森。その奥にある――廃墟のお寺よ」


 場の空気が、すっと冷える。


 誰もが頭の中に思い描いたのは、同じ光景だった。

 暗い森。崩れた門。人の気配の消えた場所。


「うわ、ガチじゃないっスか……」


 恒一(こういち)が思わず小声で漏らす。

 冗談半分だった空気が、一気に“本物”へと寄る。


「いいじゃない、楽しそう!」

 流水は逆に目を輝かせていた。完全にイベント扱いである。


「廃寺か……雰囲気あるな」

 英明も腕を組み、興味深そうに頷く。

 怖がるというより、純粋な好奇心が勝っている顔だ。


 そんな中で――


「……無理」


 ぽつり、と。

 空気を切るように落ちた一言。

 視線が一斉に向くと帝亜が、

 はっきりと顔をしかめていた。


「絶対無理。行かない」


「え?」


 雄介(ゆうすけ)が振り返る。

「いや、折角の機会じゃないですか!行きましょうよ、部長。」


「折角の機会…じゃないわよ!」


 帝亜は即座に噛みついた。

 普段の強気が、そのまま恐怖の拒絶に転化している。


「なんで、わざわざ“出そうな場所”行かなきゃいけないのよ!」

 声には本気の嫌悪が混じっていた。


「出るわけないって」


 燈也(ともや)が、あっさりと言う。


「幽霊なんて、いるわけ――」


 そこで言葉が、止まった。


(……いや)


 一瞬だけ、思考が揺れる。


 脳裏に浮かぶのは、一人の少女。


 “なな”。


 ななみの妹。

 すれ違った想いを抱えたまま、この世に留まり続けていた存在。


 けれど――


 ただの怪異ではなかった。


 笑って。泣いて。ちゃんと、願いを持っていた。


 ――あの夜。


 ステージの上。灯りに照らされた空間。

 誰か一人ではなく、皆で立った場所。

 

 彼女の願いを、終わらせるために。


 そして――


 ななは、笑って消えた。


(……あれは)


 ただの“いないはずの存在”なんかじゃない。

 確かにそこにいた、“誰か”だった。


「……燈也?」


 流水の声が、現実へ引き戻す。


「どうしたのよ、珍しく黙り込んで」


「……いや」


 小さく息を吐く。感情を押し戻すように。


「…なんでもない」


 軽く肩をすくめて。


「とにかく、()()は出ない。」


「“普通は”って何よ!?」


 帝亜が即座に食いつく。


「絶対何か含んでるでしょ!今の言い方!」


「そんなこと言って、ビビってるだけだったりしてな?」

 膤斗(ゆきと)が淡々と刺す。


「うっ……」


 図星。言葉に詰まる帝亜。


「べっ…別に怖いわけじゃないし!」


 必死の反論。だが説得力は薄い。


「じゃあ来れるわよね?」


 聖妓(せいぎ)が、にやりと笑った。


 逃げ場を塞ぐ笑み。


「……っ」


 帝亜の顔が引きつる。


「まさかとは思うけど――」


 聖妓はわざと顔を近づける。


「逃げるつもりじゃないわよね?

 魔法執行部部長さんともあろう人物が?」


 完全なる挑発。逃げ道を無くす一言。


「当たり前じゃない!誰が逃げるって言ったのよ!!」


「ああもう、分かったわよ!」


「はい、決まりね。」


 流水が楽しそうに締める。


「ちょっと待って、まだ言って――」


「言ったわよ」


「……くっ」


 外堀はすでに埋まっていた。


「はぁ…もう分かったわ。行けばいいんでしょ。行けば!!」


 観念。


「よし、決まりだな」


 燈也がまとめる。


 いつも通りの顔。


 いつも通りの声。


 だが――


(……気のせい、だよな)


 ほんのわずかに心の奥に、小さな棘が残る。

 その横でななみが、静かに夜を見ていた。


「……ななみ、どうかしたのか?」


 燈也が声をかける。


「……ううん」


 ななみは、ふっと微笑む。

 優しく。どこか遠くを見るように。


「ちょっと、思い出してただけ」


 あの子が、最後に見せた笑顔を。


「……幽霊でもさ、悪いことばっかりじゃないよね」


 その言葉に――


 燈也が、ほんの一瞬だけ視線を向ける。


「……ああ。そうだな。」


 短く頷く。


「それじゃあ、準備してね、十五分後に出発よ。」

 セレナが静かに微笑む。




次回 『第165想 肝試し、その入口で』


 温泉旅行のはずが、なぜか夜の森で肝試し!?

 様々な仲間達の反応にいつもの軽口――のはずが、

 廃寺の話はちょっとだけ“ガチ”で。


 その一歩の先に待つのは、ただの肝試しか?それとも――。


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