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労働の話⑨

「またやるのか?」

「はい、お願いします」

「……」


 リズは複雑な表情で、ハンマーを作って僕に手渡した。

 僕はリズのハンマーを、自分が作ったハンマーに振り下ろした。砕けない。

 次にリズのハンマーを置いて、自分が作ったハンマーを手に取った。つまりハンマーを入れ替えて振り下ろした。

 バキッとリズのハンマーが砕けた。


「やった! やりました! 見ましたか、リズさん!」

「見てない」

「どうして見てないんですか! 見てください!」

「どうして、ってお前……」

 リズは肩を震わせて、僕をにらんだ。

「お前、先月からずっと毎日同じことやってんじゃねえか!」

「でも、先月は砕けませんでしたよ」

「先週から、ずっと! 毎日砕いてるだろ! 毎日毎日毎日! 初めて砕いたんじゃないじゃん!? もうお前のハンマーが強いのは、わかってるじゃん! なんでまだおれのハンマーを砕くわけ!?」

「ちゃんと身についたかの確認です。どうして怒ってるんですか?」

「自分のハンマー砕かれて、これみよがしに喜ばれたら、誰だって怒るわ!」

「わかんないなあ」

「ちくしょう! やってられっか!」


 リズは手に持っていた選別中の遺物レリックを床に投げつけ……ることなく、そっとテーブルの上に置いて、代わりに仮想物体イマジナリーを生成して床になげて叩きわった。そのまま足音荒く、僕たちの作業部屋から出ていった。


「うるせえぞ、リズ! 気が散るだろ!」

「うがっ!?」


 そんな声がしたので、ダヴィの工房をのぞいてみると、リズが大の字になって倒れていた。ダヴィはあきれ顔でため息をついて、僕に手招きをした。


「お前、こっちで手伝うか?」

「なっ!?」

 ダヴィの提案に、リズは驚きのあまり、息を飲んだ。

「冗談だろ、親父! おれの方が―――」

「親方ァ」

「親方ァ! おれの方がずっと長くハンマーは作ってるだろ!」

「お前がそいつをなんとかしてくれって言ったんだろうが」

「ぐっ!? いやでも! おれがこっちでもいいじゃん!」

「いや、お前、遺物の選定は静かにやりたいって言ってただろ……」

「ああもう! ああ言えば、こう言う!」

「俺のセリフだ、それは」


 ダヴィはリズを説得するのをあきらめたのか、身体の向きを変え、僕の方を向いた。


「お前のハンマーを見た」

 ダヴィは僕の目をじっと見て言った。

「それなりにいい出来だとは思う。使えんこともない。だから―――」

「えっ、それじゃあ……!」


 首輪を外してくれるってことだろうか。ようやくこのハンマー製作地獄から解放されるのか。最近は楽しくなってきたから、少々名残惜しくはあるが……。


「いや、まだだ」


 ……まだだ?

 僕はガッツポーズをとりかけた両手をゆっくりと下ろした。


「……約束が、違うんじゃないですか?」

「そうだな」

 ダヴィは顔色を一切変えずにうなずいた。

「気が変わった。たしかに、お前のハンマーはすでにおれが使ってもいいレベルだ。リズに追いついたわけだからな」

「先週から、リズさんのハンマーも砕けるようになりました」

「おれから見ればどんぐりの背比べだ。後出しじゃんけんで勝ってるだけだろ」

「……約束を破る理由になってませんが」

「お前はたった一か月で、リズと同じレベルまで到達した。まさかこんなに早くここまで伸びるとは思わなかった。ここで終わるにはあまりに惜しい」


 ダヴィは僕をみたまま、片手で仮想物体を生成し始めた。ハンマーだ。みるみる形になっていく。


「お前はここにきてまだ一か月半だ。もう少しくらい伸びてもらう」

 ダヴィは生成したハンマーを僕に放ってよこした。

「次の見本はそれだ。ここまで来てみろ」


 ダヴィは歯をみせて笑って背を向けた。

 僕はハンマーに目を落とした。

 ずっしりと重く、冷たく、どこか深みのあるハンマーだった。


「……」

 話が違う。


 そうは思ったが、でも、どこか嬉しかった。自分がリズと同じレベルだとはっきり言われたことが嬉しかったんだ。

 この重いハンマーを作った男に、多少なりとも認めてもらった。それはリズのハンマーを砕いた時と同じくらい、成長を実感させる出来事だった。


 ……もう少し、やってみるか。

 このハンマーもコピーしてやる。

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