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労働の話⑦

 ダヴィと約束をとりつけた。

 昨日までの自分の仕事がまったくの無駄だったと知ってショックだし、やっぱりちょっと不利な気はするけど、昨日よりもずっと希望はある。目標が明確になった。前進している、と言っていいだろう。


「なんだ、お前」

 工房へ向かう途中、リズに声をかけられた。

「ちょっと機嫌いいか?」

「そう見えますか?」

「ああ。なんか歩き方にリズムがある」

「まさかそんなウキウキリズミカルになってるとは思いませんでした……」


 希望に繋がっていると思うと、歩き方がリズミカルになるだけではない。仕事にも身が入ると言うものだ。

 少しハンマー作りに対する姿勢が変わった……気がした。ちょっとは工夫しよう、と思った。


「リズさん」

「なんだ?」

「あの、ハンマーを作るうえで気をつけることってなんでしょう?」

「唐突だな」

 リズは腕組みし、口をとがらせて天井をみつめた。

「やっぱ丁寧に作ることだな。……おいなんだその顔は」

「すみません。ちょっと意外だったもので」

「どういう意味だよ……」


 リズは僕が作ったハンマーを一つ手に取った。


「まあまあだな。ここに来た頃より早いし、均質になってる」

「ありがとうございます」

「だが……」


 リズは、一瞬でハンマーを生成し、僕の作ったハンマーに振り下ろした。

 僕が数分かけてじっくり作ったハンマーは、リズが数秒で作ったハンマーに敗北して無惨にも砕け散った。


「僕のハンマーが!?」

「まだまだ継ぎムラがあるな。力の伝達にズレがある。まだまだ全然ダメだ」

「ハンマー……」

「聞いてるか?」

 リズは僕の頭にぽんと手を乗せた。もちろんハンマーを持ってない方の手だ。

「ほら、おれが作ったハンマーを置いといてやる。見本にしな」

「ありがとうございます……。今日はこれをじっくり見てていいですか?」

「いいわけねえだろ。お前のノルマの七十個はちゃんと作れ。作らねえと上手くならねえぞ」

「はい……」

「返事は元気よく!」

「はい!」

「うむ」

 リズはのどを鳴らすと、僕の頭をもうひとなでして、自分の作業に戻っていった。


 僕はリズがおいていったハンマーをじっと見た。ノルマの七十個をこなすようには言われたが、今日は調子がいい。今のペースなら、クリアできそうだ。少しくらいなら、観察に時間を費やしても追いつけるだろう。

 あれ、でも待てよ……。


「あの、リズさん……」

「なんだ?」

「リズさんがさっき砕いた僕のハンマーってノルマにカウントされるんですよね?」

「……」

 リズは無言で僕から視線をそらした。

「……無駄口叩いてねえで、仕事しな」


 マジかよ。なんてこった。ちくしょう。

 僕は唇をかみしめて、リズのハンマーの観察に戻った。

 今までも、遠目ではあるがリズやダヴィの作ったハンマーを見たことはある。見た目はそれなりに似せられていると思う。

 でもまあ、肝心なのは中身なんだろうな。

 そういう意味では、ハンマーの良し悪しをはかる上ではさっきみたいに叩いてみるのが一番いいんだろう……。


 僕は、今日作った中で一番出来がいいやつを手に取った。一番時間をかけたし、一番集中して作ったやつだ。

 うん。いい出来だ。

 僕はそのハンマーを置き、リズのハンマーを持った。振り上げて、一番出来の良いハンマーに振り下ろした。思いっきりじゃない。出来を確認する程度。

 あくまでも、確認のつもりだった。


 ……のだが、僕の自信作はまたも無惨に砕けた。

 脆すぎる……。ここまでひどい出来だったのか。

 いや、違うか。

 僕はリズのハンマーに目をやった。

 僕のハンマーが「出来が悪い」のかどうかは考えても仕方ない。「出来が悪い」っていうのはつまり、一般的な平均を僕のハンマーが越えているかどうかって話になるから。ここから出られない以上、それはわからない。

 わかるのは、僕とリズのハンマーにはこれだけの「品質の差」がある、ということ。それだけだ。


 僕のハンマーにはなくて、リズのハンマーにある強み。

 逆に、僕のハンマーにあって、リズのハンマーにない弱点。

 それを探せばいい。


 強みを盗んで、弱みを消す。

 まずはリズのハンマーに追いつくところからだ。

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