労働の話③
「グリム、おーい、メシだぞ」
「……」
「グリム!」
「うわあ!」
顔を上げると、腰に手を当てて呆れたような表情をうかべたリズが立っていた。
「休憩だ、休憩。行くぞ」
「は、はい」
僕はリズに頭をなでまわされながら部屋を出た。出たところで、ダヴィと目が合った。すぐにリズが手をひっこめる。ダヴィは顔をしかめた。
リズは両手をぶんぶんと振った。
「錯覚! 錯覚だろ!?」
「俺はまだ何も言ってない」
「目が怖かった!」
「……」
ダヴィは黙って肩をすくめた。
「休憩だからな。勘弁してやるよ」
「聞いたか、グリム。今の。ダヴィはこうなんだ。気をつけろよ」
「はい。……でも気をつけた方がいいのは、リズさんでは?」
「ぐっ。……な、生意気なやつ! 子分のくせに!」
リズはまた僕の頭を乱暴になでまわした。僕はもうなすがままだった。リズは力が強く、振り払っても意味が無かった。
今度はリズと一緒に昼食を作り、三人で黙って食べた。食べて軽く昼寝をしたら、また作業に戻る。またハンマーを作る。
そのまま日が沈むまで続けた。
終わって、気づいたら体力も魔力もなにも残ってはいなかった。夕食を作るような気力なんてとてもではないが、残っておらず、夕食はリズに任せてしまった。
「ったくよー。子分のくせによー。だらしねえなあ!」
リズはそんな風にぶつくさ言いながらも、テキパキと支度していく。僕はその音を聞きながら、ダイニングテーブルに突っ伏していた。テーブルにはダヴィも腕組みをして座っている。
「……仕事はどうだ」
いきなり話しかけられた。
僕は身体を起こして答えた。
「疲れました」
「だろうな。見ればわかる」
「そうですね……」
「いくつ作った?」
「ええと、五十個くらいです」
「そうか」
ダヴィはそれを聞くと、目を閉じ、口も閉ざした。
話は終わりかと思って、僕もまたテーブルに突っ伏した。少しでも体力を回復したい……。
「なら、リズは残業か……」
「……?」
何か聞こえた気がして、顔を上げたが、ダヴィは腕組みして目を閉じている。気のせいだったらしい……。
***
「いいご身分だな、グリム! 起きろ!」
「ぐえっ」
頭に衝撃をかんじて、僕は目を覚ました。ダイニングテーブルで眠っていたらしい。
殴られた後頭部を抑えていると、目の前にシチューの入った皿がスライドしてきた。具がたっぷりと入っている。
「ほら食え。食わねえと明日、身体がもたないぞ」
「いただき……ます……」
僕は眠気と戦いながら、シチューを口に運んだ……。
***
「あいつ、食べながら寝てたな」
「働きぶりはどうだ?」
「貴族の坊ちゃんって聞いてたけど、働き者だね。おれがガキだった頃ほどじゃねえけど」
「お前は働き者じゃなかったぞ」
「普通は朝も昼も夜も働かされたら音をあげるんだよ!」
「数はどうだ?」
「足りてねえよ。当たり前だろ。ま、いつも通り、残業するさ」
「悪いな」
「親父は?」
「俺もまだ道具の手入れが終わっていない」
「グリムはいつ一人前になるだろうな?」
「あまり期待してやるな。十年経っても一人前など遠いやつもいる」
「おれのことかよ!」
「どうだろうな」
ダヴィはにやりと笑って肩をすくめた。
「それに、早ければいいと言うものでもない」
「さすがにそれは嘘だろ。ぜってー早い方がいい」
「さて、どうかな。……行くか」
「おう、親父」
「親方」
「はい、親方」




