労働の話②
「グリムの仕事は昨日言ってたとおりですか?」
リズがダヴィに尋ねると、ダヴィは振り返らずにうなずいた。
「ああ、そうだ。説明してやれ」
「はい」
「よし。いつも通りだ。集中するから、話しかけるなよ」
「わかりました」
僕はリズに連れられて奥の部屋へ入った。リズがゆっくりと静かに扉を閉める。ぶ厚い扉だ。閉めると、むこうの音が聞こえなくなった。
「わかったか? 口の利き方には気をつけろよ」
「……僕はわかりましたけど、リズさんはわかってますか?」
僕はリズの額を見ながら言った。ハンマーが当たった箇所がこぶになって腫れていた。
……どうしてこぶで済んでいるのだろう……?
リズはこぶをさすりながら答えた。
「うーん……。あんまり?」
「いつか本当に死にますよ?」
「なんだかんだ親父は手加減うまいから」
「リズさんが気をつける方向にはならないんですか……」
「あっ! おい、無駄話しようとしてるだろ! 仕事するぞ!」
「言い出したのはリズさんじゃないですか……」
「返事は!?」
「はい!」
「よろしい」
リズは部屋にいくつも置かれた作業机の一つに近づいた。
「いいか、お前の仕事は、これだ」
リズはそう言うと、仮想物体を生成した。それは溶けたガラスのようにうねうねとしていたが、やがてハンマーの形に落ち着いた。
「ハンマーだ」
リズはハンマーを僕に渡して、言った。
「お前は今日一日ハンマーを作ってろ」
「えっ、いま、これ、えっ……?」
「おい、わかったのか? 聞いてたか?」
「え、あ、はい。ハンマー、作るんですね。……ずっとですか? 一日ずっと?」
「そうだ」
「ずっとか……」
「聞いてるのか?」
「は、はい」
「よし」
「あの、いくつ作ればいいんですか?」
作業のペース感は重要だ。それによってどのくらいの質と量で作るのかがわかる。質と量のバランスをどうとればいいのか、そのおおよその塩梅がわかる。
質を極限まで追求して一日一個でいいのか、量を追及して、五十個くらい作るのかとか、そういうことを聞いておかないと……。
「三百個だ」
「三、百……?」
僕はハンマーを落とした。ハンマーは僕の足の間に落ちて、床を少し傷つけた。
リズは叫んだ。
「うわっ、あぶねえだろ! 気をつけろ!」
「三百? 三百個って言いました?」
「ケガしてねえか、おい?」
「あ、大丈夫です……。三百個……?」
「そうだ。なにかおかしいか?」
おかしいどころじゃない。
ついさっき、リズがみせたハンマーの生成だが……、スピードが異常だった。僕が知ってる魔術師はラグランだけだが、あんな速度で作っているのを見たことがない。僕だってそうだ。
いや、正確にはあんな速度で、この質のハンマーは生成できない。普通にやればおそらく10分くらいかかる。それでもここまで質のいいハンマーになるとは思えない。
そして、10分に一つでは到底一日三百個は作れない。一日50時間以上あれば別だが……。
達成不可能だ。詰んでいる。
「む、無理です……」
「無理ぃ?」
リズは僕の顔色をじっとみた。
「ふーん……。そうか、本当に無理だと思ってるんだな」
「無理ですよ、こんなの。きっとリズさんは天才なんです。僕にはできません」
「……なんだって?」
「ですから、僕にはできないと……」
「そこじゃなくて、おれが、なんだって?」
「リズさんは天才?」
「ふ、ふふん! まあ、そうかもしれないな!」
「……」
「な、なんだよっ! そんな目で見るなよ!」
リズは咳払いすると、腕組みした。
「いーから、やってみろ。三百個は……、まあ、いいよ」
リズは背を向けた。
「お前は作れる分だけ、作りゃいい」
「あ、そうですか」
ホッとした。三百個作れないとリズとダヴィに怒鳴られたり、殴られるのではないかと思った。どうやら違うらしい。
「わかりました。ところで、リズさんは何をされるんですか?」
「おれもハンマー作りだ。これが基本だからな。あと、遺物のチェックもあるけど」
「遺物のチェック、ですか?」
リズは肩をすくめた。
「お前は気にしなくていい。ほら、さっさとハンマー作れ。さっきおれが作ったのが見本だからな」




