収束する螺旋、8
キャリオ様が「ここにしましょう」と言った集合住宅の扉は、固く閉ざされていた。最初のうちは、キャリオ様がノックしようが怒鳴ろうがびくともしなかったが、そんなことを五分間も続けているうちにほんの少しだけ扉が開いた。
「……はい、なんでしょう?」しわがれた男の声だった。いらだち半分、怯えが半分といったところか。
「あまり騒がないでください。騎士団に目をつけられたら、ことなので……」
老人はそれだけ言って扉を閉めようとしたが、すかさずレオンハルトが扉をつかんだ。扉はそれ以上、びくともせず、老人はあきらめて扉を閉めるのをあきらめた。
「私たちはいま王都に来たところなんです」キャリオ様が言った。
「何が起きたのか、中でお話をさせていただけませんか?」
「ダメだ」老人はきっぱりと言った。
「中に入れることはできない」
「では、ここで構いませんので、何が起きたのか聞かせてはもらえないでしょうか?」
「……」老人は答えない。
「……押し入るか?」レオンハルトがしびれをきらしてささやいたが、キャリオ様はろくに振りかえりもせずに、レオンハルトの顔を平手で叩いた。レオンハルトはちょっとうめいた。
「……昨日、前皇帝陛下が崩御されたそうだ」ようやく老人は恐る恐る答え始めた。
「それからすぐ……本当にすぐに、王都にいたらしい邪教徒狩りが始まった……。わしらは何が何だかわからんかったが、そこら中から叫び声が聞こえとった。だが、それもほんの数時間で収まって……本当に邪教徒狩りだったのか……、いやそんなことはいい。いずれわかるだろう。わからんでもいいが……」
「要領を得ないな」レオンハルトがイライラした口調で言う。
「それがどうして、人っ子一人いなくなる理由になるんだよ」
「……ほんの一時間ほど前、家の外を走る足音がいくつかあった。断末魔の叫び声とともにやんだがな。あんたなら、外に出るのが利口だと思うかね?」
老人はじろりと湿ったビー玉のような目でレオンハルトをにらんだ。
キャリオ様がレオンハルトを小突くと、老人は続けた。
「恐ろしくてとても扉など開ける気にもならん。だが、通りに誰もおらん理由はそれだけじゃない。騎士団が行進しながら言ったのだ。二日間の外出を禁ずる、とな。その間に外に出たものは邪教徒として、問答無用で捕えると」
「……」
キャリオ様はよろ、と一歩下がり、僕たちを振りかえった。
「そういうわけだ。あんたらを上げるわけにはいかん」
老人はそういうと、扉をつかんでいたレオンハルトの手を杖で叩いてひっぺがし、勢いよく扉を閉めた。レオンハルトが手を引っ込めて悪態とつくのと同時に、通りに高らかにラッパの音が鳴り響いた。
通りのむこうに聖教会騎士団の旗とたくさんの騎士たちの行列がみえた。
こちらへ走ってくる行列が。




