収束する螺旋、9
誰もいない静かな通りに、けたたましくラッパの音が鳴り響く。
重い鎧を着こんだ騎士たちが走るせいで、地面の揺れがここまで伝わってきた。石畳がカタカタと鳴っている。
「に、逃げますか?」キャリオ様が怯えたように言った。
「戦うわけにはいきませんよ」
「大丈夫だ。俺とキャリオがいるとわかれば攻撃されやしないさ」
レオンハルトが自信満々に言い、魔剣を地面に突き刺すと、両手をあげて彼らに近づいていった。完全に無防備だ。
僕は「あっ」と思った。
「レオンハルト! 気を付けて!」
「大丈夫だって、クリム。ほら、あいつ、兜被ってるけどあの小隊長なんか、一回メシ食いに行ったこともあるやつなんだ。俺にはわかる――」
「たぶん洗脳されてる!」僕は叫んだ。
「問答無用で襲ってくる……かもしれない!」
「かもしれないだと!?」
「ああ! かもしれない!」
「……あいまいなこと、言いやがって……」レオンハルトは一瞬迷ったような表情を浮かべたが、すぐに決断した。
「お前たちは下がっていてくれ。俺はやっぱり確かめておきたい」
レオンハルトは手をあげたまま進んでいく。
僕は肩をすくめた。
「油断しちゃダメだよ」
「誰に言ってる?」
レオンハルトは口の端を吊り上げて笑った。
振りむいて、顔なじみという小隊長に何気ない風に手をふる。
「よお、クリストファー! 久しぶりだな! へえ、出世したんだな。隊長かよ、すげえなあ……。おい、なんとか言えよ、クリストファー」
レオンハルトは会話の途中で、クリストファーが突き出した槍を片手で止めつつ、会話を続けていた。
「おーい……。うーん、ダメだな、これは」
レオンハルトはクリストファーの手から槍をもぎ取ると、横をすり抜けようとした不届きな下っ端兵士の頭を槍の柄の部分で叩いた。兵士は兜をかぶっていたが、電池の切れた人形のようあっさり倒れた。
「騎士道精神はどうしたんだ、まったく……」
レオンハルトはそうぼやくと、手の届く範囲にいる下っ端を叩けるだけ叩くと、最後にクリストファーの脳天も叩き、ぽいと槍を捨てた。
「これが洗脳か……。胸くそ悪い魔術だな」レオンハルトは吐き捨てるように言った。
「誰の仕業なんだ? 邪教徒か? でも邪教徒を捕まえようとしてたよな、こいつら。どういうことだ?」
「さあね!」僕はいたるところから現れ始めた騎士団兵たちの相手をしながら言った。
「それを今考える必要はないってことだけは確かだよ!」
「はいはい」レオンハルトは騎士団兵たちを片手であしらいながらこちらへ来た。
「まあこれで、王都の様子はだいたいわかったな。王宮に行っていいんじゃないか?」
「誰に聞いてるの!?」
僕は重力魔術で兵士たちをまとめて飛ばした。いかんせん数が多い。
「みんなだよ。わざわざ歩いていく必要ないだろ」
異議のあるものはいなかった。
「よし、じゃあ、転移だ。手を繋いで! 絶対に離さないでね!」
僕たちは手をつないで、殺到する騎士団兵たちの手から逃れて、王宮まで転移した。
だが到着してみると、そこにいたのは僕とキャリオ様だけだった。




