収束する螺旋、3
分けてもらった魔力を消費して、北へ転移した。
最後にもらった手紙に書かれていた町だ。一瞬にして視界が真っ白になった。雪が降っていたからだ。雪が音を吸収しているのだろう。すごく静かだった。
……いや、そんなことよりなにより、ものすごく寒かった……。
「……で、あああ、あいつらはどこにいるんだ?」イニチェは歯をがちがちと鳴らしながら言った。
「こ、こここ、こっちか?」
「わわわ、わかんないよ」僕も答えた。どうしても歯が鳴ってしまう。
「と、とととととりあえず、服を買おう」
「さ、さささ賛成だ……」
僕たちは急いで通行人の一人に防寒着を売ってそうな店を聞きだして、そこへ駆け込んだ。十分後、僕たちはすっかり防寒対策をして店から出てきた。
「ふうー……少しはマシになった。ああ、死ぬかと思った」イニチェが言う。
「大げさじゃない?」
「大げさじゃない。いきなりこんなところ連れて来やがって」
「へへへ、ごめん」
「ところで、どうしてそんな古びたカバンなんか買ったんだ? いつもどこからともなく物を取り出してるだろ」
「ああ。これはね、ちょっと使うんだよ」僕は笑って、教会を指さした。
「教会に行こう。レオンハルトたちは定期的に連絡を取り合ってるから、居場所がわかるはずだよ」
「聖教会かあ」
不服そうなイニチェを引きずって、僕は教会の扉をノックした。
「はい?」中からあまり信心深くなさそうな若い神父が顔を出した。
「何用でしょうか。もう本日の礼拝は終わりましたが」
「すみません、急で申し訳ないですが、勇者様と巫女様がどちらへ行かれたのか、ご存じありませんか?」
僕がそう質問すると、神父は目をぱちくりし、眼鏡をかけ直した。
「……本当に急ですね」
「すみません、本当に急用なんです」
「お二方の所在はトップシークレットです。あなたの身分を証明できるものはありますか?」
「はい。巫女様にいただいた証書があります」
「ほう。ではそれを拝見しましょう」
「ええと、ちょっと待ってくださいね。どこに入れたかな……」
僕はさっき買ったかばんの中身をかき回した。
そうしながら、神父にバレないようにイニチェを軽く肘で小突いた。しばらくイニチェはうっとうしそうにするだけで僕の合図に気づかなかったが、三度目でようやく意図を理解したらしかった。
イニチェはくしゃみをした。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。いやあ、ここらはよく冷えますね」
「そうですね。私も最近ようやく慣れてきましたが、最初はつらかったですね。……まだ見つかりませんか?」
「すみません、ここじゃなかったかな……」
「整理してくださいっていつも言ってるじゃないですか」イニチェは僕に敬語で言った。
「まったく、いつもいつも……」
「あの、よろしければ中へどうぞ。暖炉もありますから」
「あ、これはどうも……」
僕たちは微笑んで、教会の中へ入った。
***
「お前、めちゃくちゃあくどいよな……」
「え、そう?」
僕は、長椅子に神父を寝かせ、魔術で洗脳をかけながら言った。
イニチェは入口の扉に腕組みしながらもたれかかっている。誰かが来ないようにしているのだろう。
「そうかなあ。けっこう紳士的だと思うんだけど……」
「紳士的って何か知ってるか? お前、盗賊にでも育てられたのか?」
「君たちには言われたくないなあ」
「……シーザー教徒を盗賊と同列だと思ってんなら、ぶっ殺すぞ」
「まあまあ、そう言わないで……。ほら、終わったよ」
イニチェはむすっとした表情だったが、こちらに近づいてきた。
「おはよう、神父さん」僕は微笑んだ。
「あれ? 私は、どうしたんでしょうか?」
「いきなり気絶されたんですよ。寒さか過労のせいでしょう。あまり無理をしてはダメですよ」
「は、はあ……」
「……よく言うぜ」
イニチェがぼそっと余計なことを言っていたので、僕は彼のふくらはぎをつねった。イニチェは片足で跳ねまわった。
「ええと……、ご用件はなんでしたっけ?」と神父。困惑しているようだった。
「レオンハルトとキャリオ様はどこへ行ったんでしょうか?」
僕がそう尋ねると、神父は「ああ」とうなずいた。
「そうでしたね。勇者様と巫女様御一行は、南西のトロッピカ地方に旅立たれましたよ」
「「トロッピカ!?」」
僕とイニチェは同時に叫んだ。こことは正反対の熱帯地方だ。暑くて、湿度が高くて、熱帯雨林が生い茂っていて、とにかく暑い。
せっかく防寒具まで買ったのに……。
「それはいつのことですか?」
「二週間ほど前のことですから……そろそろ到着している頃でしょうか」
「……」
二週間前だったら、もうとっくに到着して、さらにその次の目的地を目指しているかもしれない、と思った。
「彼らは、他の目的地について何か言っていませんでしたか? トロッピカの次に行く場所について、何か」
「ええ? トロッピカの次ですか? そうですねえ……」神父はあごに手を当てて、しばらく考え込み、やがて思い出したように言った。
「そういえば一度、王都に帰りたい、とおっしゃっていましたね」
「「……」」僕とイニチェは顔を見合わせた。




