収束する螺旋、2
「それで、俺を仲間にしてどうするんだよ」
イニチェは立ち上がって、ストレッチを始めた。腕を十字にクロスして肩のあたりを伸ばしている。
「王都に殴り込みか? 俺たちが逃げるのを手伝ってくれるのか?」
「まず、レオンハルトたちを呼びに行く」
僕がそういうと、イニチェの顔が途端に曇った。
「あいつらか……。またあの胃が痛くなるような時間を過ごすのかよ」
「悪いね」
「でもどうやって行くんだ? あいつらがいる北って、遠いんだろう? そんな悠長に構えてていいのかよ。クーデターが完了するんじゃないのかよ。それでもいいってことか?」
「いや。転移すれば時間は短縮できる」
「お前の魔力量は少ないイメージだが……足りるのか?」
「足りないね」僕は微笑んだ。
「そこで仲間である君に相談だ」
「はいはい、なんでしょう?」イニチェは肩をすくめてみせた。わかってたぜ、と言わんばかりだ。
「本当に調子がいいんだからなあ……」
「魔力を分けてほしい」
「いいぜ。魔力量には自信があるからな」
「いや、君の魔力じゃない。君がへろへろだと転移してから君がお荷物になるじゃないか」
「とんでもない言い草だが……俺の魔力じゃないだと? じゃあ、誰の……」
イニチェはそう言いかけて、顔をしかめた。
「……こいつらのか?」
「そうだ」
僕がうなずくと、周りの邪教徒たちがふたたびどよめき始めた。「冗談じゃない」「なんでこんな奴に」「でもイニチェ様の……」「関係ない。キャリオがどうのと言っていた。聖教会側の人間だ……」などなど。聞こえてくるのはすべて否定的な反応だった。
しかし、僕は気にしなかった。重要なのはイニチェが首を縦に振るのか、それとも横に振るのか。それだけだった。
そして、僕は知っている。イニチェは仲間想いだということを。
「仕方ねえなあ……」イニチェは頭をかいた。邪教徒たちから不満げな声が漏れた。
「すまない、みんな。力を貸してくれないか」
イニチェは立ち上がった。彼らのざわめきが大きくなる。
イニチェが頭を下げたからだ。
「みんなの目にはこいつのことがすげー嫌な奴に見えると思う。こんな状況なのにへらへらしてるし、余裕そうだし、なんなら俺たちのことちょっと馬鹿にしてると感じた奴もいるだろう」
イニチェは僕をちらりとにらんだ。
え、なんだ。何の話だ?
ひょっとして、力を貸すというのは嘘で、今から僕は全員からぼこぼこにされるのだろうか?
「俺もそうだ。こんな憎たらしいやつは他にはそういない。ユンくらいだ。だが、こいつは俺たちの敵じゃない」イニチェは言った。
「味方でもないが、しかし、俺はこいつのことを信じている。最初は俺もガキだったからなんとなくだったけど、今は違う。ユンとフロイを命がけで助けてくれた時から、俺はこいつのことを心の底から信頼している」
「……そ、そうだったの? 照れるなあ……」
なんだか恥ずかしくなってきたので口をはさんだら、思い切りにらまれた。
「こいつは邪教徒じゃない。勇者とも、巫女とも懇意にしている。だから協力しない、っていうなら仕方ない。責めはしない。気持ちもわかる。でも、もし、俺のことを助けたいと思ってくれるなら、ついでにこいつのことを助けてもいいと思ってはくれないだろうか」イニチェは最後にまた頭を下げた。
「頼む」
「……」
邪教徒たちはしばらく黙っていたが、やがて一人が前に出てきた。さっき王都に乗り込もうと叫んでいた男だ。
「頭を上げてくれよ、イニチェ様」
イニチェはゆっくりと頭を上げた。
「協力するかどうか決める前に、俺からも質問していいか?」と男。
「もちろんだ」
「そいつ、昨日俺たちに王都を離れろ、さもないと死ぬぞとかなんとか言ってたんだ……。つまりさ、今日のこと知ってたんだろ!? それでも俺たちの敵じゃないってのかよ!?」
「そうだ」イニチェはすぐにうなずいた。
「なんで!?」
「あいつは、クリムは、ややこしいことに天使とも反目している。俺の仲間と思われているからな。だから、お前たちを殺せと脅されていたんだ。その状況でも、俺たちが生き残れるようにアナウンスしてくれてたんだよ。現にお前たち、いま生きてるだろ?」
「それは……」
「私は……、私は協力してもいいわ」女性が一人手をあげて、震え声で言った。
「アナウンスを私も聞いたけど……変な人だけど悪い人じゃないと思ったから。お店もあんまり壊さないでくれたし」
「アビゲイル!」男は叫んだ。
「いいのかよ、お前、弟は……」
「それはいま関係ないわ」アビゲイルはピシャリと言った。
「この人とも関係ない。そうですよね、イニチェ様?」
「ああ」
「私は協力します」
アビゲイルに続いて、ぽつぽつちらほらと協力者が現れはじめた。最終的に全員ではなかったものの、半数以上の三十人近い人たちが魔力を提供してくれることになった。
僕は空の弾倉をいくつか渡して、魔力を充填してもらった。
「ありがとう」僕はイニチェにならって頭を下げた。
「恩に着ます」
「恩に着なくてもいいわ」アビゲイルが言った。
「その代わり、お店をぶっ壊した聖教会の連中をぶっ飛ばして」
「それはちょっと……」
僕がそういうと、彼女は憮然とした表情を浮かべた。




