収束する螺旋、1
イニチェが前に出ると、波を打ったようにざわめきが引いて行った。ただ、僕をにらむ目つきが変わったわけではなかった。相変わらず殺気のこもった視線で、肌がぴりぴりした。
「ユンとフロイは?」僕は気になったことを尋ねた。
「姿が見えないけど、まさか……」
「……」イニチェは目をそらした。
「え、ちょっと待ってくれ、嘘だろ? 二人が……?」
「……」
イニチェは黙っている。
僕は血の気が引いた……。
その顔をみて、イニチェがゆっくりと顔をゆがめ、にやりと笑った。
「ふ……、くっくっくっ……」可笑しそうに笑う。
「冗談だよ。無事だ。昨日、よその町まで連れて行っておいた」
「……」
「そう、にらむなよ。ちょっとした仕返しだよ」
「なんのさ?」
「さあな。日頃の……。秘密とか、なんやかんや、諸々……」イニチェは魔術で簡素な椅子を作って腰かけた。
「まあ座れよ。お前も俺に用があるからここに来たんだろ?」
「……」僕も椅子を作って座った。
「釈然としないけど……」
「何が起きたんだ?」
僕たちが座ると、周りに邪教徒たちがゆっくりと集まってきた。三メートルくらいの距離を置いて円形に取り囲まれるような感じだ。インタビューされている芸能人と傍聴者といえば聞こえはいいが、実態は全然違う。
「……ブラズ殿下『が』クーデターを起こした」主語を強調していうと、イニチェはゆっくりとうなずいた。伝わったようだ。
「そうか。『あいつ』か。怪しいとは思ってたんだ」
「昨日僕と一緒にいた、子供がいただろ?」
「ああ」
「彼女は新しい巫女だった」
「巫女!? あれがか? それじゃあ、あっちの巫女……キャリオはどうした?」
「キャリオ様はまだ北にいるよ。たしかレベル7くらいのダンジョンを攻略中。そこの主が母体型で、子の魔物がたくさんダンジョンの外に出てきて大変とかなんとか――」
「いや、そんな話はいい」イニチェは手で僕の話をさえぎった。
「巫女ってのは普通一人じゃないのか?」
「普通はね。だけど、そんなルールはない」
「クソ天使どもめ。好き勝手やりやがって……。待て、巫女がクーデター側なのか?」
「巫女の一人がね」
「……」イニチェは何とも言えない表情になった。周囲の邪教徒たちも同じような苦しそうな表情を浮かべている。
「君たちはどうするつもりだったの?」僕は尋ねた。
「ここから王都を離れるつもり?」
「まだ決まっていない」イニチェは首をふった。
「議論の真っ最中だ」
「せ、聖教会騎士団なんか怖くねえ!」邪教徒の一人が叫んだ。
「やっちまおう! お、俺たちで王都をぶっつぶそうぜ!」
しかし、あまり賛同者はいないらしかった。「そうだな……」とか「ああ……」とかいう賛成の声はちらほら聞こえてくるものの、どうにも元気がない。勝算があるわけではないのだろう。
「ここにいる四十三人で、聖教会騎士団数百人を相手にできるのか?」イニチェが言った。
「無駄死にするだけだと何度も言っているだろう」
「無駄死にでもいい! 一矢報いて死んでやる!」
「やめておけ。騎士団を一人二人殺したところで、お前が本当に殺したい相手は痛くもかゆくもない」
イニチェがそう叫ぶと、周囲の邪教徒たちは再び静かになった。
彼は僕を振りかえった。
「悪いな、殺気立ってて。みんな、多かれ少なかれ、親しい人間が死んでるんだ」イニチェはちょっと微笑むと、僕をにらんだ。
「で? お前の話は? まさか一緒に戦え、なんて言わないよな?」
「僕の仲間になってくれ」
「お前って本当に調子がいいやつだよな」
「ダメかな?」
僕がそういうと、イニチェは腕組みして考えこみ、しばらくして指を一本立てて笑った。
「貸しだぜ?」




