反響する真実、10
僕は、シャルロット様たちのところへ戻った……が、いたのはベルさんだけで、シャルロット様はいなかった。
「……」ベルさんは黙っている。
「……ビスキュイ殿下のところへ?」
僕がそう尋ねると、ベルさんはこくりとうなずいた。僕がため息をついたのを見て、ベルさんは顔をしかめた。
「なにか知っていたのですか?」
「え? なにかとは?」
「私でさえ、シャルロット様が『戻る』とおっしゃったときは驚いたのに……、あなたは平然としている。最初から予想していたような……」
「ああ、まあ、そうです。ええと……」
僕は頭をかいた。
僕は「シャルロット様は、いかなる時もビスキュイ殿下の味方をする」と知っていたわけだが、それはゲームでの知識だ。
ベルさんに「本」の方便は使ってなかったっけ?
使って……なかったかな。たぶん。スカーレットにいた人にしか言ってない気がするし。ああ、ややこしい。
「機会があればそのうち説明しますよ」
「なんですかその雑な返答は。機会って……。その時まで、私とあなたが健在である保証はないじゃないですか。こんな状況で……」
「僕はこれからイニチェたちの所に行きます」僕はスルーした。
「ベルさんは――」
「シャルロット様の元へ行きます。もちろん」食い気味の即答だった。
「私はあなたへの伝言のために残されただけですから」
「シャルロット様は逃げるチャンスも与えたつもりでしょうね」
「ふん」ベルさんは鼻を鳴らした。わかりきったことを、という意味だろう。
「私が一人で逃げるわけがないでしょう」
「……ところで、シャルロット様とはどこで待ち合わせをしているのですか?」
「どういう意味ですか?」ベルさんがいぶかしげに眉をひそめる。
「え? 送っていこうかと思ったのですが……」
「そんなこと言って、さらってしまうつもりでしょう?」ベルさんは鼻先に指を突きつけた。
「騙されませんよ」
「疑り深いですね」僕はため息をついた。
「まあ仕方ありません。では、ここで別れましょうか。くれぐれも気を付けてください。王都はどんどん危険になるはずですから」
「わかっています……」ベルさんはじっと僕の目を見た。
「クリム……」
ベルさんがいつもと違う呼び方をした気がした。
「クリム……あなたも気を付けて」
「は、はい!」
なんでもない言葉だったけれど、無性に嬉しかった。
「あなたは肝心なところで抜けていますから」
……最後の余計な一言がなければ。
「なんですか、その顔は?」ベルさんはふっと小ばかにしたような顔で笑った。
「さあ、行きなさい。また会いましょう」
「はい」
僕は魔術で、イニチェが指定した場所へ転移した。
さっきまでやかましかった鎧の金属音がやんで、森の中を風が吹き抜けて葉っぱがさらさら鳴る音が聞こえるようになった。
まあ、同時にたくさんの人の怒鳴り声も聞こえてきたのだが。
「誰だ、お前!」
姿を見せるなり、怒鳴られた。誰がそう言ったのかもすぐにはわからない。普段着や仕事着の一般市民がたくさんそこにいた。四、五十人くらいだろうか。
まあ、状況から考えて邪教徒だろう。
「こいつ! 昨日のタキシード男だ! 俺たちを殺すって脅したやつ!」
アナウンスした三十人が、昨日の今日で僕たちのことを伝えて、警戒していたところに聖教会騎士団がおかしな動きを取ったから、逃げてきてここで落ち合った……ってところか。
でもなんでここなんだろう?
ああ、迎え撃つつもりだったのか。
「落ち着け、俺の知り合いだ……」
殺気立っている連中の一人の肩をぽんと叩くやつがいた。
イニチェだった。
「俺がここに呼んだんだ」




